発注
役者のインボイス
登録する・しないで何が変わり、請求書に何を書くか
結論から言うと、役者がインボイス(適格請求書)を出せるのは、税務署長の登録を受けた場合だけです(消費税法第57条の2第1項)。そして登録すると、課税売上高が1,000万円以下でも消費税の納税義務は免除されません(第9条第1項の括弧書き)。つまり判断の軸は「取引先から適格請求書を求められているか」と「納税の負担を引き受けるか」の2つです。登録した個人事業者には、納める税額を軽くする特別控除税額の経過措置(いわゆる2割特例と、その後の附則第51条の3)があります。請求書に書くのは第57条の4第1項の6つの記載事項で、漏れやすいのは登録番号と宛名です。この記事では、役者本人の立場(登録する・しないの比較、請求書の書き方、取引先への返信例文)と、出演者に支払う側の立場(依頼から支払いまでの流れ、チェックリスト)の両方を条文の範囲で整理します。
結論
消費税法第57条の4第1項は、適格請求書発行事業者が他の事業者から交付を求められたときに適格請求書を交付しなければならないと定め、その記載事項を第1号から第6号まで列挙しています。発行するには第57条の2第1項により税務署長の登録が必要です。そして第9条第1項は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者の納税義務を免除していますが、括弧書きで「適格請求書発行事業者を除く」としています。
根拠となる条文
本記事の条文はe-Gov法令検索の消費税法から取得しています(2026年10月時点)。
注意
支払う側(受け取った請求書で仕入税額控除をする側)の経過措置、つまり登録のない相手からの仕入れについて一定割合を控除できる扱いは、本記事の取得範囲外です。 割合も期間も本記事では示しません。 国税庁の案内で確認してください。請求書を出す側(登録した個人事業者など)に適用される特別控除税額の経過措置は、後半の節で条文の範囲だけ扱います。また、免税事業者との取引で価格をどう扱うかには独占禁止法等の論点があり、これも範囲外です。「登録していないなら消費税分を払わなくてよい」といった整理は本記事では行いません。
Point
税務の判断は個別性が高い領域です。自社の処理をどうするかは、顧問税理士に確認してください。 この記事は、条文に何が書いてあるかを知って相談するためのものです。
役者本人の立場 — 登録する・しないで何が変わるか
役者・俳優・モデルとして個人で仕事を受けている方が、まず知りたいのはここです。条文から言えることだけを表にします。
| 比べる点 | 登録しない(免税事業者のまま) | 登録する(適格請求書発行事業者) |
|---|---|---|
| 消費税の納税義務 | 基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら免除される(第9条第1項) | 課税売上高が1,000万円以下でも免除されない(第9条第1項の括弧書き「適格請求書発行事業者を除く」) |
| 適格請求書を出せるか | 出せない。登録番号(第1号)を書けないため | 出せる。事業者から求められたら交付する義務がある(第57条の4第1項) |
| 請求書の書式 | 条文上の様式の決まりはない。取引先と決めた内容で作る | 6つの記載事項を入れる(第57条の4第1項第1号〜第6号) |
| 納める税額の経過措置 | 対象外(もともと納税義務がない) | 要件を満たせば特別控除税額の経過措置(附則第51条の2・第51条の3) |
| 名前の公表 | なし | 登録簿の登載事項が公表される(第57条の2第4項) |
Point
登録するかどうかは、取引先の構成で変わります。 出演料の支払い元が事務所・制作会社など事業者中心で、適格請求書を求められているなら登録の意味は大きくなります。チケットを買う観客など、事業者でない相手への売上が中心なら事情が違います。条文の交付義務は「他の事業者から交付を求められたとき」だからです。最終的な判断は税理士または所轄の税務署に相談してください。
取引の形ごとの確認ポイント
| 取引の形 | 請求書を出すのは | 確認すること |
|---|---|---|
| 所属事務所を通した出演 | 多くは事務所(契約による) | 事務所が発行元なら、登録番号は事務所のもの。本人が別に出す必要があるかを事務所に確認 |
| 制作会社・イベント会社から直接の依頼 | 本人 | 適格請求書を求められているか、金額は税込か税抜か、支払期日 |
| 劇団・小劇場の公演への客演 | 本人(または劇団との取り決め) | 出演料の支払い元が事業者か。源泉徴収の有無(インボイスとは別の論点) |
| 撮影モデル・再現ドラマなど単発 | 本人 | 役務の内容(撮影日・案件名・役割)を具体的に書く |
| 自主公演のチケット・グッズ販売 | 本人または主催団体 | 買い手の多くは事業者ではない。交付義務は事業者から求められた場合 |
注意
簡易課税制度や、支払う側の仕入税額控除の経過措置(登録のない相手からの仕入れの扱い)は本記事の取得範囲外です。割合や期間は本記事では示しません。 価格交渉の扱いも独占禁止法等の論点があるため、整理しません。
取引先から登録番号を聞かれたときの返信例文
登録している場合
Point
〇〇様
お世話になっております。〇〇(氏名)です。
お問い合わせいただいた適格請求書発行事業者の登録番号は、次のとおりです。
・登録番号:〇〇〇〇
・登録上の氏名:〇〇〇〇
請求書にも記載してお送りします。ほかに必要な記載があれば、お知らせください。
どうぞよろしくお願いいたします。
登録していない場合
Point
〇〇様
お世話になっております。〇〇(氏名)です。
お問い合わせの件ですが、現在、適格請求書発行事業者の登録はしておりません。そのため、請求書に登録番号は記載できません。
お取引の条件にかかわる場合は、お手数ですがご相談の機会をいただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
請求書を本人と事務所のどちらから出すか確認する場合
Point
〇〇様
このたびは〇月〇日の〇〇へのお声がけ、ありがとうございます。
出演料のご請求について、私個人から請求書をお送りするか、所属事務所(〇〇)からお送りするか、ご指定はございますでしょうか。
あわせて、金額は税込・税抜のどちらでのご提示か、交通費の扱いもお教えいただけますと助かります。
どうぞよろしくお願いいたします。
支払う側 — 役者・出演者への支払いの流れ
請求書の不備は、本番後ではなく出演を依頼する時点で防げます。イベントで役者・モデル・MCに支払うときの流れです。
- 01
出演を依頼する時点で確認する
請求書を出すのは本人か所属事務所か、適格請求書発行事業者の登録をしているか(登録番号)、金額を税込・税抜のどちらで示すか、交通費や衣装などの実費をどう扱うか、支払期日。ここで聞いておけば、受け取った請求書を見て迷いません。
- 02
条件を書面にする
出演日時、役務の内容、金額、支払期日、出演映像・写真の利用範囲を発注書や契約書に残します。書面の整え方は業務委託契約書、支払期日の論点は制作会社・フリーランスへの発注、出演者の撮影素材の扱いは広告キャスティングを参照してください。
- 03
必要な記載事項を先に伝える
「宛名と登録番号の入った請求書をお願いします」と依頼の段階で伝えます。下の例文をそのまま使えます。
- 04
本番後に請求書を受け取る
紙でもPDFなどの電磁的記録でもかまいません(第57条の4第5項)。受け取った日と経路を記録します。
- 05
記載事項をチェックする
6つの記載事項と登録番号を確認します(後半の「支払う側のチェックリスト」)。不備があれば、発行元に修正したものの交付を依頼します(第4項)。
- 06
源泉徴収の要否を確認する
所得税法第204条第1項第5号は、芸能の出演の報酬・料金を源泉徴収の対象として挙げています(不特定多数の者から受けるものを除く)。インボイスとは別の論点です。当てはめは講演料・出演料の源泉徴収で整理しています。
- 07
支払い・保存する
支払った記録と請求書を案件ごとにまとめて保存します。保存の方法は顧問税理士に確認してください。
所属事務所を通す場合
事務所が請求書を出す場合、第1号の「氏名又は名称及び登録番号」は請求書を発行する事業者のものになります。本人の登録状況ではなく、発行元が誰かを見て確認してください。本人と事務所の両方から請求書が届くといった取り違えを防ぐため、依頼の時点で発行元を1つに決めておきます。
適格請求書の記載事項は6つ
第57条の4第1項が列挙している記載事項です。条文の文言どおりに並べます。
| 号 | 記載事項(条文の文言) |
|---|---|
| 第1号 | 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号 |
| 第2号 | 課税資産の譲渡等を行つた年月日(一定の期間内の分をまとめて作成する場合には、当該一定の期間) |
| 第3号 | 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨) |
| 第4号 | 税抜価額又は税込価額を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び適用税率 |
| 第5号 | 消費税額等(前号の税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額) |
| 第6号 | 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称 |
Point
第6号を見落としがちです。 「誰宛か」が書かれている必要がある、という構造です。宛名のない書類を受け取ったら、この号を満たしているかを確認してください。
書類の名称は問われていない
条文は「請求書、納品書その他これらに類する書類」としています。つまり「請求書」という題名である必要はありません。記載事項が揃っているかで判断する構造です。
注意
第57条の4第5項により、これらの書類の交付に代えて電磁的記録を提供することもできるとされています。紙でなければならない、という構造ではありません。
役者の請求書の書き方 — 項目ごとの記入例
役者・モデルが自分で請求書を作るとき、また受け取る側が「何が書いてあればよいか」を伝えるときの記入例です。金額は伏せています。
| 項目 | 記入例 | 根拠 |
|---|---|---|
| 題名 | 請求書(納品書などでもよい) | 題名は問われない(第57条の4第1項) |
| 宛名 | 株式会社〇〇 御中 | 第6号 交付を受ける事業者の氏名又は名称 |
| 発行者 | 氏名(または屋号・事務所名) | 第1号 氏名又は名称 |
| 登録番号 | 登録の通知に記載された番号 | 第1号 登録番号 |
| 取引の年月日 | 〇年〇月〇日(複数日をまとめるなら〇月〇日〜〇月〇日) | 第2号 |
| 内容 | 「〇〇イベント 司会出演」「〇月〇日 撮影モデル」 | 第3号 役務の内容 |
| 金額と税率 | 税率ごとに区分した合計額 〇〇円/適用税率 〇% | 第4号 |
| 消費税額等 | 〇〇円 | 第5号 |
| 振込先・支払期日 | 〇〇銀行 〇〇支店/〇月〇日 | 法定の記載事項ではないが、支払いに必要 |
Point
役務の内容は具体的に書くと確認が早くなります。 「出演料」だけでなく、催し名と日付、役割(司会・出演・撮影モデル)まで書いておくと、受け取る側が発注内容と照らし合わせられます。
注意
交通費などの実費を一緒に請求する場合の書き方、芸名で活動している場合の表記は、本記事の取得範囲外です。税理士または国税庁の案内で確認してください。
依頼するときのメール例文
Point
〇〇様
〇月〇日の〇〇へのご出演、ありがとうございました。お手数ですが、請求書のご送付をお願いいたします。
お手元の様式でかまいませんが、次の点のご記載をお願いできますでしょうか。
・宛名:株式会社〇〇
・適格請求書発行事業者の登録番号(ご登録がある場合)
・出演日と内容(例:〇月〇日 〇〇 司会出演)
・税率ごとの金額と消費税額
PDFでお送りいただいてもかまいません。
何卒よろしくお願いいたします。
株式会社〇〇 〇〇部 〇〇(氏名)
出演を依頼する時点で登録の有無を確認する例文
Point
〇〇様
〇月〇日の〇〇へのご出演について、ご快諾いただきありがとうございます。
お支払いの準備のため、2点お教えいただけますでしょうか。
・ご請求書の発行元(ご本人様か、ご所属の事務所様か)
・適格請求書発行事業者のご登録の有無(ご登録がある場合は登録番号)
ご登録の有無によって出演のお願いを変えるものではございません。経理処理の確認のためにお伺いしております。
何卒よろしくお願いいたします。
株式会社〇〇 〇〇部 〇〇(氏名)
記載漏れがあったときの再発行依頼の例文
Point
〇〇様
請求書をお送りいただき、ありがとうございます。確認したところ、宛名(または登録番号)の記載が見当たりませんでした。恐れ入りますが、追記したものを改めてお送りいただけますでしょうか。受け取った側で書き足すことができないため、お手数をおかけして申し訳ありません。
何卒よろしくお願いいたします。
株式会社〇〇 〇〇部 〇〇(氏名)
発行する側の立場でのお詫びの書き方は請求書の誤りのお詫びにまとめています。
適格簡易請求書との違い
第57条の4第2項は、小売業その他の政令で定める事業に係るものであるときは、適格請求書に代えて適格簡易請求書を交付できるとしています。記載事項は5つです。
| 項目 | 適格請求書(第1項) | 適格簡易請求書(第2項) |
|---|---|---|
| 氏名又は名称及び登録番号 | 必要 | 必要 |
| 年月日 | 必要 | 必要 |
| 資産又は役務の内容 | 必要 | 必要 |
| 税率ごとに区分した合計額 | 必要(及び適用税率) | 必要 |
| 消費税額等 | 必要 | 消費税額等 又は 適用税率 |
| 交付を受ける事業者の氏名又は名称 | 必要 | 記載事項に含まれていない |
注意
どの事業が「政令で定める事業」に当たるかは、本記事の取得範囲外です。 懇親会の飲食店の領収書などがこれに当たりうるかの判断は、国税庁の案内で確認してください。
誤りがあったとき
第57条の4第4項は、記載事項に誤りがあった場合、交付した事業者が修正したものを交付しなければならないと定めています。受け取った側が勝手に書き直すという構造にはなっていません。 記載漏れを見つけたら、発行元に再発行を依頼してください。
登録と、登録番号の確認
国内において課税資産の譲渡等を行い、又は行おうとする事業者であつて、第五十七条の四第一項に規定する適格請求書の交付をしようとする事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、税務署長の登録を受けることができる。(第57条の2第1項)
第57条の2第4項は、登録が適格請求書発行事業者登録簿に氏名又は名称、登録番号その他政令で定める事項を登載してするものとし、税務署長は登載された事項を速やかに公表しなければならないと定めています。
Point
公表される仕組みが条文に書かれているということは、受け取った登録番号を確認できるということです。初めて取引する相手から適格請求書を受け取ったら、番号が有効かを確認する運用を作っておいてください。国税庁が公表サイトを運営しています。
登録していない出演者から請求書を受け取ったら
登録をしていない出演者の請求書には、第1号の登録番号が書けません。つまり適格請求書の記載事項を満たす書類にはなりません。その場合に自社の消費税の処理をどうするか(経過措置の扱いを含む)は、本記事の取得範囲外です。 顧問税理士または国税庁の案内で確認してください。支払う金額をどう扱うかも、独占禁止法等の論点があるため本記事では整理しません。
交付義務は「求められたとき」
第57条の4第1項は、「他の事業者から…交付を求められたとき」に交付しなければならないという構造です。ただし書きで、事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な課税資産の譲渡等として政令で定めるものは除かれています。
注意
何が「交付することが困難なもの」として政令で定められているかは、本記事の取得範囲外です。 本記事では列挙しません。
第9条第1項の括弧書き — 登録すると免税されない
出演者や個人のクリエイターとのやり取りで必ず出てくるのがこの構造です。
事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については…消費税を納める義務を免除する。(第9条第1項)
Point
括弧書きの「適格請求書発行事業者を除く」が効いています。 課税売上高が1,000万円以下でも、登録すれば納税義務の免除を受けられなくなるという構造です。だから「登録してください」と頼むことは、相手にとって納税義務が生じうる話になります。
注意
登録を取引の条件にできるか、価格をどう調整するかは、独占禁止法や下請関係の法令の論点があり本記事の取得範囲外です。 本記事では「こうすればよい」という整理を行いません。発注の枠組み自体については制作会社・フリーランスへの発注を参照してください。
また、第57条の2第1項の括弧書きも対になっています。第9条第1項本文により免除される事業者は、そのままでは登録を受けられないという書き方です。免税事業者が登録するときの手続(届出の種類や時期)は本記事の取得範囲外なので、所轄の税務署または税理士に確認してください。
支払う側のチェックリスト
イベントは支払先の数が多く、形態がばらばらです。だから個別対応ではなく、受け取る書類の確認手順を作るのが現実的です。
- 支払先を一覧にした(形態と件数を把握した)
- 出演依頼の時点で、請求書の発行元(本人か所属事務所か)と登録の有無を確認した
- 発注時に、必要な記載事項を相手に伝えている
- 受け取った書類を6つの記載事項でチェックする手順がある
- とくに「交付を受ける事業者の氏名又は名称」の記載を確認している
- 初めての取引先の登録番号を確認する運用がある
- 記載漏れがあったときに再発行を依頼する担当が決まっている
- 出演料の源泉徴収の要否を、インボイスとは別に確認している
- 当日の立替精算のルールをスタッフに事前周知している
- 経過措置を含む自社の処理方法を税理士に確認している
注意
個人の出演者・講師に支払う報酬の源泉徴収は講演料・出演料の源泉徴収で別に整理しています。発注書・契約書の整え方は業務委託契約書と業務委託仕様書、支払期日の論点は制作会社・フリーランスへの発注を参照してください。
支払い先が個人事業者のとき — 特別控除税額の経過措置
出演者・カメラマン・制作者など、支払い先が個人事業者であることが多い領域です。相手側に適用される経過措置として、令和8年(2026年)10月1日に附則第51条の3が施行されました。
| 根拠 | 対象 | 期間 | 特別控除税額 |
|---|---|---|---|
| 改正法附則第51条の2 | 適格請求書発行事業者(恒久的施設を有しない国外事業者を除く) | 五年施行日から五年施行日以後三年を経過する日までの日の属する課税期間 | 残額の百分の八十 |
| 改正法附則第51条の3 (令和8年10月1日施行) | 個人事業者である適格請求書発行事業者 | 令和9年及び令和10年に含まれる各課税期間 | 残額の百分の七十 |
いずれも「登録等がなかったとしたら消費税を納める義務が免除されることとなる課税期間」に限られます。もともと免税事業者だった方が、登録したことで納税義務を負う場合の措置です。
Point
これは支払う側ではなく、受け取る側に適用される措置です。 ただし、相手が登録後の負担を気にして登録を迷う場面もありうるため、発注側も存在を知っておく価値があります。 適用の可否は個別の事情によるので、相手方の税理士の判断になります。
注意
「2割特例が3割になる」という言い換えはしていません。 条文が定めているのは控除する側の割合(百分の八十・百分の七十)で、納税額の割合は結果にすぎないためです。除外される課税期間の詳細は本記事の整理の範囲外です。
この記事の要点
- 役者本人は、登録しないと適格請求書を出せず、登録すると課税売上高1,000万円以下でも納税義務の免除を受けられない。取引先が適格請求書を求めているかと納税の負担を見て、税理士に相談して決める。
- 役者・出演者への支払いは、依頼の時点で発行元・登録の有無・金額の表記・実費の扱いを確認し、必要な記載事項を先に伝えるのが早い。
- 適格請求書の記載事項は第57条の4第1項の6つ。第6号「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」の漏れが多い。
- 条文は「請求書、納品書その他これらに類する書類」としており、書類の題名は問われていない。記載事項が揃っているかで判断する。
- 適格簡易請求書(第2項)は記載事項が5つで、交付を受ける事業者の氏名又は名称が含まれない。対象は政令で定める事業。
- 記載に誤りがあれば、交付した側が修正したものを交付する(第4項)。受け取った側が書き直す構造ではない。
- 第57条の2第4項により登録事項は公表される。登録番号は確認できる。
- 所属事務所が請求書を出すなら、確認するのは発行元の氏名又は名称と登録番号。源泉徴収はインボイスとは別に確認する。
- 第9条第1項の括弧書きにより、登録すると課税売上高1,000万円以下でも納税義務の免除を受けられない。登録を頼むことの意味を理解しておく。
FAQ
よくある質問
登録は義務ではありません。消費税法第57条の2第1項は、適格請求書の交付をしようとする事業者が税務署長の登録を「受けることができる」と定めています。ただし登録しないと登録番号を書けないため、適格請求書は出せません。逆に登録すると、第9条第1項の括弧書きにより、課税売上高が1,000万円以下でも消費税の納税義務は免除されなくなります。取引先が適格請求書を求めているかと、納税の負担の両方を見て、税理士に相談して決めてください。
改正法附則に、登録しなければ免税だった課税期間について、納める税額の計算で売上げの消費税額の残額の百分の八十を控除できる経過措置(附則第51条の2、いわゆる2割特例)があります。さらに個人事業者には、令和9年及び令和10年に含まれる各課税期間について百分の七十とする附則第51条の3が令和8年10月1日に施行されました。適用には申告書への付記などの要件があるため、税理士または所轄の税務署に確認してください。
事務所が発行元として請求書を出しているなら、適格請求書に書かれるのは事務所の氏名又は名称と登録番号です(第57条の4第1項第1号)。本人と事務所の間の取引で本人が請求書を出す必要があるかどうかは、事務所との契約によります。まず事務所に確認してください。
相手が仕入税額控除のために適格請求書を求めている場合は、消費税法第57条の4第1項の6つの記載事項を入れます。氏名又は名称及び登録番号、取引の年月日、役務の内容(出演、撮影など)、税率ごとに区分した合計額及び適用税率、消費税額等、交付を受ける事業者(支払う側)の氏名又は名称です。宛名の漏れが多いので注意してください。書類の題名は「請求書」でなくてもかまいません。登録するかどうかは、免税との関係があるため税理士に相談して決めてください。
受け取る側が仕入税額控除を受けるには、適格請求書であることが前提で、記載事項は消費税法第57条の4第1項が定めています(本文の6項目の表)。役者やモデルなど個人の出演者でも同じです。適格請求書を発行できるのは登録を受けた事業者で、登録の状況は公表サイトで確認できます(第57条の2)。
インボイスは消費税、源泉徴収は所得税の話で、別の論点です。所得税法第204条第1項第5号は、映画、演劇その他政令で定める芸能などに係る出演の報酬・料金を源泉徴収の対象として挙げていますが、括弧書きで不特定多数の者から受けるものを除いています。自社の支払いが当たるかの当てはめは、所轄の税務署または税理士に確認してください。
条文は「請求書、納品書その他これらに類する書類」としており、書類の題名は要件になっていません。記載事項が揃っているかで判断する構造です。また第57条の4第5項により、これらの書類の交付に代えて電磁的記録を提供することもできるとされています。
第57条の4第4項は、記載事項に誤りがあった場合、交付した適格請求書発行事業者が修正したものを交付しなければならないと定めています。受け取った側が書き直す構造にはなっていません。発行元に再発行を依頼してください。
第57条の2第4項は、登録を適格請求書発行事業者登録簿に氏名又は名称、登録番号その他政令で定める事項を登載してするものとし、税務署長は登載された事項を速やかに公表しなければならないと定めています。公表の仕組みが条文に書かれているため、受け取った番号は確認できます。国税庁が公表サイトを運営しているので、初めての取引先は確認する運用にしてください。
本記事ではその可否について整理を行いません。登録を取引の条件にできるか、価格をどう調整するかには独占禁止法や下請関係の法令の論点があり、本記事の取得範囲外だからです。ただし条文の構造として、第9条第1項は課税売上高1,000万円以下の事業者の納税義務を免除しつつ括弧書きで「適格請求書発行事業者を除く」としており、登録すると免除を受けられなくなる点は押さえておいてください。