発注
イベントスタッフは雇用か業務委託か
労働基準法第9条が見ているもの
イベントの現場は雇用と業務委託が混ざります。自社の社員、アルバイト、派遣、協力会社のスタッフ、個人で請けているカメラマンやMC。ここで起きがちなのが「業務委託契約を結んでいるから労働法は関係ない」という理解です。しかし労働基準法第9条の条文は、契約の名称に一言も触れていません。何を見ているのかを、まず条文で確認してください。
結論
労働基準法第9条は「労働者」を、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者と定義しています。この定義には契約の名称に関する文言がありません。一方、フリーランス法の「特定受託事業者」は従業員を使用しない個人等という別の定義であり、労働基準法の労働者性とは別の枠組みです。
根拠となる条文
本記事の条文はe-Gov法令検索の労働基準法から取得しています(2026年10月時点)。
Point
この記事は「あなたのケースはこちらです」という判断を示しません。 労働者に当たるかどうかの判断基準は法令に書かれておらず、行政の解釈と判例の積み重ねによります。本記事で基準を列挙すると、出典のない基準を示すことになるため行いません。実際の判断は、労働基準監督署や社会保険労務士・弁護士に相談してください。
第9条の文言を読む
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。(第9条)
条文が言っていること
- 01職業の種類を問わず
- 02事業に使用される者であること
- 03賃金を支払われる者であること
条文が言っていないこと
Point
条文に「契約の名称」「契約の形式」という要素はありません。 つまり「業務委託契約書を交わしたから労働者ではない」という帰結は、この条文の文言からは出てきません。条文が見ているのは「使用される者」かどうか、「賃金を支払われる者」かどうかです。
注意
ではどういう場合に「使用される者」に当たるのか。この基準は法令に書かれていません。 本記事では列挙しません。よく見かける要素の一覧は、法令の条文ではなく行政の解釈や判例を整理したものです。自分のケースに当てはめる段階では、一次情報に当たるか、専門家に相談してください。
イベントでこの論点が起きやすい理由
イベントの現場には、契約の形式と実際の働き方がずれやすい条件が揃っています。
- 当日の進行が分単位で決まっている(香盤表で動く)
- 集合時刻と場所が指定される
- 現場責任者が指示を出す
- 代わりの人を立てられない(本人であることが前提)
- 機材や備品は主催者側が用意する
- 報酬が時間を単位に決まっている
- 複数の会社のスタッフが同じ指揮系統で動く
注意
これらが揃うと労働者に当たる、という意味ではありません。 判断基準を示しているのではなく、イベントという仕事の性質上、契約の形式と実態を一致させる注意が要る場面が多いという事実を挙げています。
契約書の題名ではなく、実際にどう働いてもらっているかで見られる。だから設計が要る。
フリーランス法とは別の枠組み
混同されやすいので整理します。フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の定義は、労働基準法の労働者性とは別のものです。
| 労働基準法 | フリーランス法 | |
|---|---|---|
| 定義の対象 | 労働者 | 特定受託事業者 |
| 条文 | 第9条 | 第2条第1項 |
| 定義(条文の文言) | 職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者 | 個人であって従業員を使用しないもの/法人であって一の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないもの |
| 見ているもの | 使用されているか/賃金か | 相手方の事業者としての形態 |
Point
「フリーランス法の対象だから労働者ではない」とは言えません。 2つは別の法律の、別の目的の定義です。発注の実務としては両方を見ることになります。フリーランス法側の義務(明示、支払期日、禁止行為)は制作会社・フリーランスへの発注に整理しています。
注意
労働者に当たる場合に、労災・社会保険・労働時間規制がどうなるかは、本記事の取得範囲外です。 本記事では整理しません。該当しうる場合は、社会保険労務士に相談してください。
発注の前に決めておくこと
判断基準を自分で作ることはできませんが、どういう形で働いてもらうのかを先に決めて、契約をそれに合わせることはできます。順番が逆だとずれます。
- 01
役割ごとに働き方を書き出す
受付、誘導、搬入出、音響オペレーション、撮影、MC、通訳。それぞれ、こちらがどこまで指示するのかを具体的に書き出してください。「お任せします」なのか「この時間にここでこうしてください」なのか。
- 02
指示の必要度で分類する
当日の進行に合わせてこちらが細かく指示する必要がある役割と、成果物や役務の内容を決めれば進められる役割は、性質が違います。この違いを認識したうえで契約の形を選んでください。
- 03
契約を実態に合わせる
業務委託として発注するなら、業務委託として成立する運営の設計にする。 契約書だけを業務委託にして、実際には細かく指示する運用になっていれば、形式と実態がずれます。
- 04
必要なら雇用として設計する
細かい指示が不可欠な役割は、雇用(または派遣)として設計する方が整合する場合があります。コストだけで契約の形を決めないでください。
- 05
協力会社経由の場合の指揮系統を整理する
協力会社のスタッフに主催者が直接指示を出す構図になっていないかを確認します。誰が誰に指示するのかを体制図にしてください(役割分担)。
- 06
迷ったら専門家に確認する
判断は法令の条文だけでは決まりません。 労働基準監督署、社会保険労務士、弁護士に、具体的な働き方を説明して確認してください。
- 役割ごとに、こちらがどこまで指示するかを書き出した
- 契約の形式と、実際の運営の仕方が一致している
- 業務委託として出す役割について、細かい指示を前提にしていない
- 協力会社のスタッフへの指示の経路を整理した(直接指示になっていないか)
- 報酬の決め方が、契約の形と整合している
- 機材・備品を誰が用意するかを整理した
- 判断に迷う役割について、専門家に確認した
- フリーランス法側の義務(明示・支払期日)も満たしている
Point
コストを理由に契約の形だけを変えるのが、いちばん危ない進め方です。 実態が変わらないまま名称だけ業務委託にしても、第9条が見ているのは名称ではありません。働き方の設計を先に決めて、契約をそれに合わせてください。
この記事の要点
- 労働基準法第9条の定義は「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」。
- 条文に「契約の名称」という要素はない。「業務委託契約だから労働者ではない」は条文の文言からは出てこない。
- どういう場合に「使用される者」に当たるかの基準は法令に書かれていない。 よく見る要素の一覧は行政解釈・判例の整理であり、条文ではない。
- イベントは香盤表で分単位に動く・現場責任者が指示する・機材は主催者側など、形式と実態がずれやすい条件が揃っている。
- フリーランス法の「特定受託事業者」は別の定義(従業員を使用しない個人等)。「フリーランス法の対象だから労働者ではない」とは言えない。
- 働き方の設計を先に決め、契約をそれに合わせる。 コストを理由に名称だけ変えない。
FAQ
よくある質問
単発かどうかは、労働基準法第9条の定義の要素ではありません。条文は、職業の種類を問わず、事業に使用される者で賃金を支払われる者を労働者としていて、契約の名称や期間には触れていません。当日の集合時刻と場所が指定され、現場責任者が細かく指示し、時間で報酬が決まる、といった働き方は、イベントでは契約の形式とずれやすい条件です。役割ごとにどこまで指示するかを先に書き出し、契約をそれに合わせてください。判断に迷う場合は労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。
労働基準法第9条は労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しており、契約の名称に関する文言がありません。したがって契約書の題名だけで結論が決まる構造ではありません。どういう場合に「使用される者」に当たるかの判断基準は法令に書かれておらず、行政の解釈と判例によります。具体的な働き方を説明して、労働基準監督署や社会保険労務士・弁護士に確認してください。
本記事では個別の当てはめを行いません。判断基準が法令に書かれていないためです。ただし実務の進め方として、役割ごとにこちらがどこまで指示する必要があるかを先に書き出し、その働き方に整合する契約の形を選ぶことをおすすめします。契約書だけを業務委託にして、実際には細かく指示する運用になっていると、形式と実態がずれます。
そうは言えません。2つは別の法律の別の定義です。労働基準法第9条は「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」を労働者としており、フリーランス法第2条第1項は「個人であって、従業員を使用しないもの」などを特定受託事業者としています。見ているものが違うため、発注の実務では両方を確認することになります。
本記事では可否の判断を示しません。ただし、誰が誰に指示を出すのかという指揮系統は、契約の形式と実態の整合に関わる論点です。体制図にして整理し、判断に迷う場合は専門家に確認してください。警備業務として発注する場合は、警備業法側の確認事項も別にあります。
契約の名称だけを変えても、労働基準法第9条が見ているのは名称ではありません。働き方の設計を先に決めて、契約をそれに合わせる順番が安全です。細かい指示が不可欠な役割については、雇用や派遣として設計する方が整合する場合があります。コストだけを理由に契約の形を決めないでください。