支払
講演料の源泉徴収
条文で、税率と期限を確認する
外部の方に登壇をお願いすると、講演料から所得税を差し引いて納付する必要が出てきます。これを忘れると、あとから納付と不納付加算税の話になります。この記事は所得税法の条文から、対象・税率・期限を確認します。
結論
所得税法第204条第1項第1号は、居住者に国内で支払う報酬・料金のうち「講演料」を源泉徴収の対象として明記しています。税率は第205条第1号で「その金額に百分の十(同一人に対し一回に支払われる金額が百万円を超える場合には、その超える部分の金額については、百分の二十)」。納付期限は徴収の日の属する月の翌月10日です(第204条第1項)。
根拠
本記事の条文はe-Gov法令検索の所得税法から取得しています(2026年10月時点)。
居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。(第204条第1項)
一 原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金(第204条第1項第1号)
Point
「講演料」は条文に明記されています。 名目を「謝金」「謝礼」に変えても、実質が講演料であれば同じ条文の中です。勘定科目の名前で決まるものではありません。
注意
「これらに類するもので政令で定める報酬又は料金」の範囲は本記事の取得範囲外です。 パネルディスカッションの出演、トークセッションの出演などが講演料に当たるかは、政令と個別の内容によります。所轄の税務署または税理士に確認してください。
税率 — 第205条第1号
一 前条第一項第一号、第二号、第四号若しくは第五号又は第七号に掲げる報酬若しくは料金又は契約金(次号に掲げる報酬及び料金を除く。) その金額に百分の十(同一人に対し一回に支払われる金額が百万円を超える場合には、その超える部分の金額については、百分の二十)の税率を乗じて計算した金額(第205条第1号)
| 一回の支払額 | 条文の読み方 |
|---|---|
| 100万円以下 | その金額に100分の10 |
| 100万円超 | 100万円までは100分の10、超える部分は100分の20 |
Point
「同一人に対し一回に支払われる金額」が基準です。 年間の合計ではありません。同じ方に年4回お願いしても、1回ごとに判定します。
実務で使う率は、復興特別所得税を足した数字
所得税法の条文は100分の10ですが、実際に差し引くのはこれだけではありません。 別の法律が上乗せを定めています。
…所得税を徴収して納付すべき者は、その徴収(平成二十五年一月一日から令和十九年十二月三十一日までの間に行うべきものに限る。)の際、復興特別所得税を併せて徴収し、当該所得税の法定納期限までに、当該復興特別所得税を当該所得税に併せて国に納付しなければならない。(復興財源確保法 第28条第1項)
前項の規定により徴収すべき復興特別所得税の額は、…徴収して納付すべき所得税の額…に百分の二・一の税率を乗じて計算した金額とする。(同条第2項)
| 一回の支払額 | 所得税法の率 | 復興特別所得税を含む率 |
|---|---|---|
| 100万円以下 | 100分の10 | 10.21%(10% × 1.021) |
| 100万円超の部分 | 100分の20 | 20.42%(20% × 1.021) |
Point
適用期間は令和19年(2037年)12月31日までです(第28条第1項の括弧書き)。所得税法の条文だけを見て10%で計算すると、不足します。
注意
端数処理(1円未満の切捨てなど)は本記事の取得範囲外です。 具体的な計算と端数の扱いは、所轄の税務署または税理士に確認してください。
役者・タレントに払う場合は、第5号を見る
講演料は第1号ですが、役者・タレント・ダンサー・モデルなど、芸能の出演に対する支払いは別の号です。イベントでは両方が同じ案件に混ざります。
五 映画、演劇その他政令で定める芸能又はラジオ放送若しくはテレビジョン放送に係る出演若しくは演出(指揮、監督その他政令で定めるものを含む。)又は企画の報酬又は料金その他政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金(これらのうち不特定多数の者から受けるものを除く。)(所得税法第204条第1項第5号)
| 支払う相手 | 該当しうる号 | 税率(第205条第1号) |
|---|---|---|
| 講演・セミナーの登壇者 | 第1号(講演料) | 同じ |
| 役者・タレント・ダンサー | 第5号(芸能の出演) | 同じ |
| 司会者 | 内容による | — |
| カメラマン・デザイナー | 第1号(デザインの報酬等) | 同じ |
| 弁護士・税理士など | 第2号 | 同じ(司法書士等は別) |
Point
第205条第1号は、第1号・第2号・第4号・第5号・第7号をまとめて同じ税率にしています。 つまり講演料でも出演料でも、率は変わりません。 迷いやすいのは「どの号か」であって、税率ではありません。
注意
第5号には「これらのうち不特定多数の者から受けるものを除く」という括弧書きがあります。 また「政令で定める芸能」の範囲は本記事の取得範囲外です。司会者がどの号に当たるかを含め、当てはめは所轄の税務署または税理士に確認してください。
注意
所属事務所に支払う場合は、法人への支払いかどうかが先の論点です。 第204条第1項は「居住者に対し」の支払についての規定です(下の節を参照)。
対象から外れる場合 — 第204条第2項
2 前項の規定は、次に掲げるものについては、適用しない。
一 前項に規定する報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等…又は第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等に該当するもの
二 前項第一号から第五号まで並びに第七号及び第八号に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第百八十三条第一項(給与所得に係る源泉徴収義務)の規定により給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるもの(第204条第2項)
| 場面 | 条文の構造 |
|---|---|
| 社員が登壇する | 給与等に当たれば第204条の対象外(2項1号)。給与として第183条の枠 |
| 法人に支払う | 第204条第1項は「居住者に対し」の支払。法人への支払は構造が違う |
| 支払う側が個人 | 給与等の源泉徴収義務がない個人からの支払は対象外(2項2号) |
| 非居住者に支払う | 第204条第1項は居住者向け。別の枠組みになる |
Point
「法人に支払うのか、個人に支払うのか」を先に確定してください。 第204条第1項は「居住者に対し」の支払についての規定です。講師の所属先(法人)に請求してもらうのか、個人に直接お支払いするのかで扱いが変わります。依頼の段階で確認してください。
注意
非居住者への支払は本記事の範囲外です。 海外在住の方に登壇をお願いする場合は、別の条文と租税条約の話になります。必ず税理士に相談してください。
交通費・宿泊費はどうするか
ここが実務でいちばん迷うところです。本記事では当てはめを断定しません。
- 講演料と一緒に本人へ支払う——報酬の一部とみて源泉徴収の対象に含めるかが論点
- 主催者が交通機関・ホテルに直接支払う——本人への支払ではない
- 実費を精算して支払う——取扱いが分かれる
Point
この当てはめは、所轄の税務署または税理士に確認してください。 本記事で取得した条文には、交通費・宿泊費の扱いを定めた箇所が含まれていません。ネット上の説明が分かれている論点でもあります。
注意
迷う場合、主催者が交通機関やホテルに直接手配・支払いするのが、実務上は整理しやすい形です。 本人への支払額に含まれないため、論点そのものが減ります。ただし先方の都合で難しいこともあります。
実務の段取り
- 01
依頼の時点で、法人か個人かを確認する
請求書は所属先から出るのか、個人として受けるのか。ここが決まらないと金額の説明ができません。
- 02
「源泉徴収前の金額」で合意する
「お支払いは◯円(源泉徴収前)、お振込は差引後の金額になります」と、依頼書か承諾の往復に明記してください。あとで「約束と違う」になる最大の原因です。
- 03
交通費・宿泊費の扱いを決める
主催者手配か、実費精算か。金額の上限も伝えておく(新幹線の等級、ホテルのランク)。
- 04
支払時に差し引く
第205条第1号の計算。計算根拠を記録に残してください。
- 05
翌月10日までに納付する
第204条第1項。徴収の日の属する月の翌月10日。 期限を過ぎると不納付の話になります。
- 06
支払調書を用意する
年明けに必要になります。住所・氏名・マイナンバーの取得が要る場合があり、依頼時に段取りしておくほうが楽です。
- 07
個人情報として管理する
住所・氏名・マイナンバーは個人情報です(イベントと個人情報保護法)。保管場所と削除時期を決めてください。
- 法人への支払か、個人への支払かを確認した
- 「源泉徴収前の金額」で合意し、書面に残した
- 交通費・宿泊費の扱いと上限を伝えた
- 一回の支払額が100万円を超えるか確認した
- 実際に差し引く率を税務署または税理士に確認した
- 翌月10日の納付をカレンダーに入れた
- 支払調書に必要な情報の取得を段取りした
- 住所・氏名等の保管場所と削除時期を決めた
Point
「源泉徴収前の金額」での合意が、最も多いトラブルの予防になります。「10万円でお願いします」と言って差引後の金額を振り込むと、先方は「10万円と言われたのに」と受け取ります。依頼書に一行書くだけで防げます。
注意
登壇者への依頼全体の進め方は招待状・案内文、運営側の費用の整理はイベント予算の内訳、インボイスの扱いはイベントとインボイス制度を参照してください。
この記事の要点
- 「講演料」は所得税法第204条第1項第1号に明記。名目を「謝金」に変えても実質で判断される。
- 税率は第205条第1号で100分の10。同一人に一回100万円超なら、超える部分は100分の20。年間合計ではなく1回ごとの判定。
- 復興特別所得税の上乗せは所得税法の外。 実際に差し引く率は税務署か税理士に確認する。
- 納付は徴収の日の属する月の翌月10日まで(第204条第1項)。
- 給与等に当たるものは第204条の対象外(第204条第2項第1号)。社員の登壇は別の枠。
- 「源泉徴収前の金額」で合意し、書面に残す。 最も多いトラブルがこれで防げる。
FAQ
よくある質問
所得税法第205条第1号により、1回に支払う金額のうち100万円以下の部分は百分の十、100万円を超える部分は百分の二十を掛けます。実務では、これに復興特別所得税を足した率を使います。「1回に支払う金額」で判定するため、年間の合計ではありません。交通費や宿泊費を含めるかどうかは支払い方で扱いが変わるため、本文の交通費・宿泊費の章を確認してください。
所得税法第204条第1項第1号は、居住者に国内で支払う報酬・料金のうち「講演料」を源泉徴収の対象として明記しています。したがって個人に講演料を支払う場合は条文の対象です。ただし第204条第2項第1号により、給与等に該当するものは対象外となり、また第204条第1項は「居住者に対し」の支払の規定なので、法人への支払や非居住者への支払は構造が異なります。
所得税法第205条第1号は「その金額に百分の十(同一人に対し一回に支払われる金額が百万円を超える場合には、その超える部分の金額については、百分の二十)」と定めています。ただし復興特別所得税の上乗せは所得税法の外の定めなので、実際に差し引く率は所轄の税務署または税理士に確認してください。
条文は「同一人に対し一回に支払われる金額」としています。年間の合計ではなく、1回の支払ごとに判定します。同じ方に年4回お願いしても、それぞれの支払額で見ます。
本記事では当てはめを断定しません。取得した条文には交通費・宿泊費の扱いを定めた箇所が含まれておらず、ネット上の説明も分かれている論点です。所轄の税務署または税理士に確認してください。実務上は、主催者が交通機関やホテルに直接手配・支払いすると本人への支払額に含まれないため、論点そのものが減ります。
所得税法第204条第1項は「その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない」と定めています。給与等についても第183条第1項が同じ翌月10日を定めています。期限を過ぎると不納付の問題になるため、支払の段階でカレンダーに入れてください。
依頼書や承諾のやりとりに「お支払いは◯円(源泉徴収前)、お振込は差引後の金額になります」と明記してください。「10万円でお願いします」と伝えて差引後を振り込むと、先方は約束と違うと受け取ります。一行書くだけで防げる、最も多いトラブルです。