発注
イベント発注と下請法(取適法)
対象の判定・義務・禁止行為と発注書の例文
結論から書きます。イベントの発注に下請法(2026年1月1日から通称「取適法」)がかかるかは、①自社と発注先の資本金または従業員数と②発注の類型で決まります。映像・グラフィック・パンフレットの制作や当日の運営業務は、政令の指定から見て資本金5,000万円の区分で判定するのが条文の構造です。さらに従業員数の基準が加わったため、資本金が1,000万円以下の会社でも、従業員が100人を超えていれば対象になりえます。相手が従業員のいない個人や一人法人なら、自社の規模に関係なくフリーランス法も確認してください。
結論
下請法の正式な題名は、現在「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和31年法律第120号)です。公正取引委員会は略称を中小受託取引適正化法、通称を取適法としています。用語も親事業者→委託事業者、下請事業者→中小受託事業者、下請代金→製造委託等代金に変わりました。一方、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、従業員を使用しない個人等への業務委託を対象とし、資本金や従業員数の区分がありません。
結論:あなたの発注で見る法律はどれか
まず、発注先と自社の組み合わせで、どの法律を確認するかを決めます。下の表は入口の振り分けで、最終的な当てはめは後の節の条文で確認してください。
| 発注先 | 自社(委託する側) | 確認する法律 |
|---|---|---|
| 従業員のいない個人(カメラマン、MC、デザイナーなど)/一人法人 | 規模を問わない | フリーランス法。取適法の区分にも当たる場合は両方を確認 |
| 制作会社(資本金5,000万円以下)に映像・グラフィック・運営を発注 | 資本金5,000万円超 | 取適法(第2条第8項第3号) |
| 制作会社(資本金1,000万円以下)に映像・グラフィック・運営を発注 | 資本金1,000万円超5,000万円以下 | 取適法(同第4号) |
| 従業員100人以下の会社に映像・グラフィック・運営を発注 | 従業員100人超(資本金を問わない) | 取適法(同第6号)。資本金の号に当たる組み合わせは第3号・第4号で判定 |
| ソフトウェア(プログラム)の開発や、物品の運送・保管を発注 | 資本金1,000万円超/従業員300人超 | 取適法の3億円・300人の区分(同第1号・第2号・第5号) |
| 上のどれにも当たらない法人への発注 | — | 取適法の対象外になりうる(相手が個人・一人法人ならフリーランス法を別に確認) |
Point
旧来の「うちは資本金1,000万円以下だから下請法は関係ない」は、2026年1月1日以降は通用しません。 第2条第8項第5号・第6号が従業員数の基準を置いたためです。社員が100人を超える会社は、資本金にかかわらず判定してください。
根拠となる法令と施行日
本記事の条文は、e-Gov法令検索の昭和31年法律第120号、同法第2条第8項第1号の政令、第4条・第6条・第7条の公正取引委員会規則、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律から取得しています(2026年11月時点)。
- 改正法(下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律)は、令和7年5月16日に成立し、同月23日に公布(公正取引委員会の案内による)
- 施行は令和8年(2026年)1月1日(改正法附則第1条)
- 施行前にした委託については、明示・禁止行為・勧告などの規定はなお従前の例による(同附則第2条第2項)
注意
本記事は条文の構造を整理するためのものです。個別の取引が「業として行う提供の目的たる役務」に当たるかなどの評価は行いません。実際の当てはめは公正取引委員会の案内を確認し、必要に応じて弁護士に相談してください。
用語の対応表(社内規程・契約書の書き換え用)
| 旧(よく見る表記) | 現行の条文・公式の呼び方 |
|---|---|
| 下請代金支払遅延等防止法/下請法 | 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法) |
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
| 3条書面 | 第4条の明示(書面又は電磁的方法) |
| 5条書類 | 第7条の書類等の作成及び保存 |
条番号もずれています。支払期日が第3条、明示が第4条、禁止行為が第5条、遅延利息が第6条、書類の保存が第7条です。古いひな形の条番号をそのまま引用していないか確認してください。
イベントの発注はどの類型・どの区分か
第2条は、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託の5類型を定めています(特定運送委託は今回の改正で加わった類型です)。イベントで関係が深いのは情報成果物作成委託と役務提供委託です。
この法律で「情報成果物作成委託」とは、事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること…をいう。(第2条第3項)
この法律で「役務提供委託」とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること(建設業を営む者が業として請け負う建設工事の全部又は一部を他の建設業を営む者に請け負わせることを除く。)をいう。(第2条第4項)
第2条第7項は情報成果物を、①プログラム、②映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの、③文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの、④政令で定めるもの、と定義しています。
3億円の区分か、5,000万円の区分かを決める政令
第2条第8項第1号は、情報成果物作成委託と役務提供委託について「政令で定める情報成果物及び役務に係るものに限る」としています。その政令は、情報成果物をプログラム、役務を運送、物品の倉庫における保管、情報処理と定めています。それ以外の情報成果物・役務は、第3号・第4号(5,000万円の区分)と第6号(100人の区分)で判定します。
| イベントで発注するもの(例) | 条文上の類型の候補 | 判定に使う区分 |
|---|---|---|
| オープニング映像、配信用の動画編集、BGM制作 | 情報成果物作成委託(第2条第7項第2号) | 資本金5,000万円/1,000万円、従業員100人 |
| 会場グラフィック、パンフレット、サイン、ロゴ | 情報成果物作成委託(同第3号) | 資本金5,000万円/1,000万円、従業員100人 |
| 受付アプリ、来場者管理システムの開発 | 情報成果物作成委託(同第1号・プログラム) | 資本金3億円/1,000万円、従業員300人 |
| 当日の運営スタッフ、司会、受付業務 | 役務提供委託 | 資本金5,000万円/1,000万円、従業員100人 |
| 機材・物品の運送、倉庫保管 | 役務提供委託(政令の運送・保管)または特定運送委託 | 資本金3億円/1,000万円、従業員300人 |
| ステージや仮設構造物の建設工事 | 建設工事の請負は役務提供委託から除かれる | 建設業法側で確認(仮設建築物も参照) |
注意
役務提供委託は「業として行う提供の目的たる役務」の委託です。クライアントから受託したイベントの運営を外部に出す構図(再委託)は文言に重なりますが、自社主催の社内イベントで使う役務を頼む場合は文言との関係が別の論点になります。本記事では当てはめを行いません。
資本金と従業員数の区分(第2条第8項)
| 号 | 委託する側 | 委託を受ける側 | 対象の類型 |
|---|---|---|---|
| 第1号 | 資本金3億円超の法人 | 個人 または 資本金3億円以下 | 製造委託等(情報成果物・役務は政令指定のプログラム・運送・保管・情報処理に限る) |
| 第2号 | 資本金1,000万円超3億円以下 | 個人 または 1,000万円以下 | 同上 |
| 第3号 | 資本金5,000万円超 | 個人 または 5,000万円以下 | 情報成果物作成委託・役務提供委託(政令指定分を除く) |
| 第4号 | 資本金1,000万円超5,000万円以下 | 個人 または 1,000万円以下 | 同上 |
| 第5号 | 常時使用する従業員300人超の法人 | 常時使用する従業員300人以下の個人・法人 | 製造委託等(第1号と同じ限定) |
| 第6号 | 常時使用する従業員100人超の法人 | 常時使用する従業員100人以下の個人・法人 | 情報成果物作成委託・役務提供委託(政令指定分を除く) |
第5号・第6号には、資本金の号(第1号〜第4号)に当たる組み合わせを除く旨の括弧書きがあります。まず資本金で判定し、当たらなければ従業員数で判定する、という順番で見ると整理しやすくなります。
- 01
発注の類型を決める
映像・グラフィック・運営なら「政令指定以外」、プログラム・運送・保管・情報処理なら「政令指定」。
- 02
資本金で判定する
政令指定以外なら5,000万円・1,000万円の線、政令指定なら3億円・1,000万円の線で、自社と相手を比べます。
- 03
資本金で当たらなければ従業員数で判定する
政令指定以外は100人、政令指定は300人の線です。資本金が小さい会社ほど、この確認を省かないでください。
- 04
相手が従業員のいない個人・一人法人ならフリーランス法も確認する
取適法の対象外でも、フリーランス法は自社の規模を問いません。
注意
第2条第10項は、親会社から支配を受ける子会社が受託業務の全部又は相当部分を再委託する場合に、その子会社を委託事業者とみなす規定を置いています。グループ会社経由で発注している場合は、この規定も確認してください。
委託事業者の4つの義務
| 義務 | 条文 | 要点 |
|---|---|---|
| 発注内容の明示 | 第4条 | 委託したら直ちに、給付の内容、製造委託等代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を書面又は電磁的方法で明示 |
| 支払期日を定める | 第3条 | 給付を受領した日(役務は提供を受けた日)から60日以内、かつできる限り短い期間内 |
| 遅延利息を払う | 第6条 | 期日までに払わなければ、受領から60日を経過した日から支払日まで、年14.6パーセント(規則)。不当な減額分にも同じ率 |
| 書類等の作成・保存 | 第7条 | 給付・受領・支払などを記録し、すべて記載した日から2年間保存(規則第3条) |
明示する事項(第4条の明示に関する規則第1条)
- 01委託事業者と中小受託事業者の名称(識別できる番号・記号でもよい)
- 02委託をした日、給付の内容、給付を受領する期日(役務は提供を受ける期日または期間)と場所
- 03検査をする場合は、検査を完了する期日
- 04製造委託等代金の額と支払期日
- 05金融機関を使う一括決済方式や電子記録債権で払う場合は、その内容
- 06原材料等を自社から購入させる場合は、品名・数量・対価・引渡しの期日・決済の期日と方法
- 07決められない事項(未定事項)がある場合は、決められない理由と、決める予定の期日
代金の具体的な金額を示すのが難しいやむを得ない事情があるときは、算定方法を示すことで足ります(規則第1条第2項)。電磁的方法は、電子メールなど受信者を特定して送る方法または記録媒体の交付です(規則第2条)。
Point
支払期日の起算点は「請求書を受け取った日」ではなく「給付を受領した日」です。イベントは本番後に請求が動くため、「月末締め翌々月末払い」の社内ルールが、本番日から数えて60日を超えていないかを確認してください。第3条第2項により、60日を超えて定めた場合は、受領日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日とみなされます。
発注書(明示)の記載例とメール例文
規則第1条の項目に、イベントの記入例を当てはめた型です。◯の部分を差し替えて使ってください。
| 項目 | イベントでの記入例 |
|---|---|
| 当事者 | 委託事業者:◯◯株式会社/中小受託事業者:◯◯映像制作合同会社 |
| 委託をした日 | 2026年◯月◯日 |
| 給付の内容 | ◯◯カンファレンスのオープニング映像(90秒、16:9、MP4納品、修正2回まで) |
| 受領する期日・場所 | 2026年◯月◯日、データ共有サービスへのアップロードにて |
| 検査を完了する期日 | 受領日から5営業日以内 |
| 代金の額 | ◯◯円(税別)。追加修正は1回あたり◯◯円 |
| 支払期日・支払方法 | 2026年◯月◯日(受領予定日から60日以内)、銀行振込(振込手数料は当社負担) |
| 未定事項 | ナレーション原稿:クライアント確認中のため未定。◯月◯日までに決定し、追って明示します |
例文1:制作会社への発注メール(すべて決まっている場合)
◯◯映像制作合同会社 ◯◯様
いつもお世話になっております。◯◯株式会社の◯◯です。
先日お見積りいただいた件につきまして、下記のとおり正式に発注いたします。
・発注日:2026年◯月◯日
・内容:オープニング映像(90秒、16:9、MP4)、修正2回まで
・納品期日:2026年◯月◯日
・検査完了日:納品から5営業日以内
・代金:◯◯円(税別)
・支払期日:2026年◯月◯日、銀行振込(振込手数料は当社負担)
発注書(PDF)を添付いたします。内容に相違がございましたら、◯月◯日までにお知らせください。
どうぞよろしくお願いいたします。
例文2:一部が決まっていない段階で先に動いてもらう場合
◯◯デザイン株式会社 ◯◯様
◯◯株式会社の◯◯です。本日、会場サイン一式の制作を発注いたします。
確定している条件は添付の発注書のとおりです。
次の事項は現時点で確定していないため、決まり次第あらためてお知らせします。
・サインの枚数:会場レイアウトがクライアント承認待ちのため未定(◯月◯日に決定予定)
・代金:枚数確定後に、1枚あたり◯◯円で算定
先行して、デザインの方向性の作成に着手していただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
例文3:仕様変更を受けて条件を明示し直す場合
◯◯株式会社 ◯◯様
◯◯株式会社の◯◯です。
クライアントの要望により、受付スタッフを2名から4名に増員していただくことになりました。
変更後の条件は次のとおりです。
・人数:4名(変更前2名)
・代金:◯◯円(変更前◯◯円、増額◯◯円)
・支払期日:変更なし(2026年◯月◯日)
変更後の発注書を添付いたします。急なお願いとなり恐縮ですが、ご対応のほどよろしくお願いいたします。
例文4:価格協議の申し入れに回答する場合
◯◯株式会社 ◯◯様
◯◯株式会社の◯◯です。人件費の上昇に伴う単価見直しのご相談、拝受いたしました。
社内で検討のうえ、◯月◯日(◯)に協議のお時間をいただけますでしょうか。
当日は、当社の予算の考え方と、ご提示いただいた金額に対する当社の見解をご説明いたします。
根拠となる資料(費用の内訳など)をお持ちいただけましたら、具体的に検討を進められます。
第5条第2項第4号は、費用の変動などを理由に協議を求められたのに、協議に応じない、または必要な説明・情報提供をせずに一方的に代金を決めることを挙げています。例文4は、協議の場を設け、説明することを先に約束する形にしています。値上げを伝える側の文面は価格改定のお知らせ、発注メール全般は発注メールの例文にまとめています。
11の禁止行為とイベントで起きやすい場面(第5条)
第5条第1項は7つの行為を禁じ、第2項は4つの行為で中小受託事業者の利益を不当に害してはならないとしています。役務提供委託(運営業務など)では、受領拒否(第1項第1号)と返品(同第4号)、有償支給原材料の早期決済(第2項第1号)が除かれています。
| 禁止行為 | 条文 | イベントで起きやすい場面(例) |
|---|---|---|
| 受領拒否 | 1項1号 | クライアントの企画中止を理由に、完成した映像の納品を受け取らない |
| 支払遅延(手形の交付、期日までに現金化が難しい支払手段を含む) | 1項2号 | クライアントの入金待ちで、定めた期日を過ぎても払わない/手形で払う |
| 減額 | 1項3号 | 集客が振るわなかったことを理由に、発注時の金額から差し引く |
| 返品 | 1項4号 | 受け取ったノベルティを、余ったからと引き取らせる |
| 買いたたき | 1項5号 | 「予算が決まっているので」と、同種の仕事の相場より著しく低い額を一方的に決める |
| 購入・利用の強制 | 1項6号 | 協力会社に、自社イベントのチケットや物販を買わせる |
| 報復措置 | 1項7号 | 公正取引委員会などに相談したことを理由に、次の案件から外す |
| 有償支給原材料の早期決済 | 2項1号 | 支給した資材の代金を、制作代金の支払より先に差し引く |
| 経済上の利益の提供要請 | 2項2号 | 協賛金の負担や、契約外の設営・撤去の無償応援を求める |
| 不当な給付内容の変更・やり直し | 2項3号 | 本番直前の仕様変更で作り直させ、追加の代金を払わない |
| 協議に応じない一方的な代金決定 | 2項4号 | 単価見直しの相談を受けても、回答せずに従来額で発注を続ける |
Point
手形での支払は、第5条第1項第2号で支払遅延に含まれる形で禁じられています。 電子記録債権や一括決済方式でも、支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難なものは同じ扱いです。イベント業界の支払慣行に手形が残っている場合は、振込への切り替えを検討してください。
注意
例の欄は、条文の行為類型に当たりうる場面を示したものです。正当な理由の有無などで評価が変わるため、個別の事案が違反に当たるかは断定しません。
違反したらどうなるか
- 指導・助言(第8条):公正取引委員会、中小企業庁長官、事業を所管する大臣が行える
- 勧告(第10条):第5条の違反行為について、公正取引委員会が代金の支払や原状回復などの措置を勧告する
- 報告・立入検査(第12条):公正取引委員会、中小企業庁長官、所管大臣が報告を求め、事務所に立ち入って帳簿書類を検査できる
- 罰金(第14条):明示をしなかった、求められた書面を交付しなかった、書類等を作成・保存しなかった(虚偽を含む)場合、違反行為をした代表者や従業者は50万円以下の罰金。報告拒否・検査妨害も同じ(第15条)
- 両罰(第16条):行為者のほか、法人にも各本条の刑
第11条は、勧告に従った場合に限り、その行為について独占禁止法第20条・第20条の6を適用しないとしています。困ったときの相談先は、公正取引委員会と中小企業庁です。
フリーランス法 — 自社の規模を問わない
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律は、相手の形態で適用が決まります。第2条第1項は特定受託事業者を、①個人であって、従業員を使用しないもの、②法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないものと定めています。個人のカメラマン、デザイナー、MC、通訳、音響オペレーター、一人法人の制作会社は、イベントの発注先として珍しくありません。
| 項目 | 取適法 | フリーランス法 |
|---|---|---|
| 適用の決まり方 | 資本金・従業員数と委託の類型 | 相手が従業員を使用しない個人・一人法人か |
| 発注側の規模 | 区分あり(小さい会社は対象外になりうる) | 資本金・従業員数の区分なし。ただし支払期日(第4条)と禁止行為(第5条)は、従業員を使用するなどの特定業務委託事業者(第2条第6項)が対象 |
| 明示 | 第4条:給付の内容、代金の額、支払期日及び支払方法その他 | 第3条:給付の内容、報酬の額、支払期日その他 |
| 支払期日 | 第3条:受領から60日以内 | 第4条:受領から60日以内(再委託で要件を満たせば元委託支払期日から30日以内) |
| 禁止行為 | 第5条:11類型 | 第5条:政令で定める期間以上の委託に限り、第1項の5類型と第2項の2類型 |
第3条 — 直ちに明示する
業務委託をしたら直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を書面又は電磁的方法で明示します。内容が定められないことに正当な理由がある事項は、定まった後直ちに明示します。電磁的方法で明示した場合でも、書面の交付を求められたら遅滞なく交付します(第2項、規則で定める場合を除く)。
第4条 — 支払期日と、再委託の30日
支払期日は給付を受領した日から60日以内(第1項)。再委託である旨・元委託者の氏名又は名称・元委託支払期日などを第3条第1項で明示した場合に限り、元委託支払期日から起算して30日以内とできます(第3項)。明示していなければ第1項の60日が適用される構造なので、「クライアントの入金後に払う」運用を考えるなら、ここを先に整えてください。
第5条 — 禁止される行為
第1項は、政令で定める期間以上の業務委託について、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制を禁じています(役務提供の委託では受領拒否と返品を除く)。第2項は、経済上の利益の提供と不当な給付内容の変更・やり直しで特定受託事業者の利益を不当に害してはならないとしています。第1項の括弧書きが「以下この条において同じ」としているため、第2項も同じ期間以上の業務委託に限られます。
注意
「政令で定める期間」の長さは本記事の取得範囲外のため日数を示しません。相手が取適法の中小受託事業者とフリーランス法の特定受託事業者の両方に当たる場合の扱いも、公正取引委員会の案内で確認してください。フリーランスとしてイベントを受ける側の視点はフリーランスのイベントプロデューサーにまとめています。
よくある失敗と直し方
| よくある失敗 | 条文上の問題 | 直し方 |
|---|---|---|
| 電話やチャットで頼み、発注書は本番後にまとめて出す | 取適法第4条・フリーランス法第3条の「直ちに」明示に合わない | 依頼した日に、確定事項だけでもメールで明示する(例文2) |
| 支払期日を「請求書受領月の翌々月末」にしている | 起算点は受領日(役務は提供を受けた日)。60日を超えうる | 本番日・納品日から数えた日付で支払期日を書く |
| クライアントの入金後に払う | 取適法に再委託の特例はない。フリーランス法も明示がなければ60日 | 受領から60日以内の期日を定め、資金繰りは自社で手当てする |
| 振込手数料を差し引いて払う | 発注時の代金から差し引けば、減額(第5条第1項第3号)の論点になりうる | 発注書に手数料の負担者を明記する |
| 本番直前の修正を「サービス」で頼む | 不当なやり直し(第5条第2項第3号)の論点になる | 変更内容と追加代金を明示し直す(例文3) |
| 社内規程が「下請法」「親事業者」のまま | 現行の題名・用語・条番号とずれる | 用語対応表をもとに書き換える |
| 資本金1,000万円以下なので対象外と判断した | 従業員基準(第2条第8項第5号・第6号)を見落としている | 常時使用する従業員数で判定し直す |
発注前のチェックリスト
- 発注先が「従業員を使用しない個人・一人法人」かを確認した
- 発注の類型(映像・グラフィック・運営か、プログラム・運送・保管か)を決めた
- 資本金で判定し、当たらなければ従業員数でも判定した
- 給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法を、依頼した日に書面またはメールで明示した
- 未定事項がある場合、その理由と決める予定の期日を書いた
- 支払期日を、受領日(役務は提供を受けた日)から60日以内の日付で定めた
- 手形や、期日までに現金化が難しい支払手段を使っていない
- 仕様変更のたびに、変更後の内容と代金を明示し直している
- 給付・受領・支払の記録を残し、2年間保存する仕組みがある
- 価格協議を求められたら、応じて説明する手順がある
- 社内規程・契約ひな形を現行の法律名・用語・条番号で書き直した
この記事の要点
- 下請法は2026年1月1日から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称取適法)。用語は委託事業者・中小受託事業者・製造委託等代金。
- 映像・グラフィック・運営の発注は、政令の指定から見て資本金5,000万円/1,000万円の区分。プログラム・運送・保管・情報処理は3億円/1,000万円の区分。
- 従業員基準が加わり、資本金が小さくても従業員100人超(政令指定分は300人超)の会社は対象になりうる。
- 義務は明示(第4条)・60日以内の支払期日(第3条)・年14.6%の遅延利息(第6条)・記録の2年保存(第7条)の4つ。
- 禁止行為は11類型。手形払いと協議に応じない一方的な代金決定も含まれる。
- 相手が従業員のいない個人・一人法人なら、資本金・従業員数の区分がないフリーランス法の明示・支払期日も確認する。
FAQ
よくある質問
自社と発注先の資本金または従業員数、発注の類型で決まります。映像やグラフィック、パンフレットの制作は情報成果物作成委託、当日の運営業務は役務提供委託の文言に重なりえます。これらは政令の指定(プログラム、運送、物品の倉庫における保管、情報処理)に当たらないため、資本金5,000万円超の会社が5,000万円以下の会社や個人に出す場合、資本金1,000万円超5,000万円以下の会社が1,000万円以下の会社や個人に出す場合、従業員100人超の会社が100人以下の事業者に出す場合が、第2条第8項の区分に当たります。
同じ法律(昭和31年法律第120号)です。2026年1月1日に改正法が施行され、題名が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変わりました。公正取引委員会は通称を取適法としています。改正で、従業員数の基準、特定運送委託、手形払いの禁止、協議に応じない一方的な代金決定の禁止などが加わりました。
あります。第2条第8項第5号・第6号は従業員数の基準を置いており、常時使用する従業員が100人を超える会社が100人以下の事業者に映像・グラフィック・運営を発注する場合は対象になりえます。また、フリーランス法には規模の区分がないため、相手が従業員を使用しない個人や一人法人なら、明示と支払期日の規定が関わります。
取適法第4条は、書面又は電磁的方法での明示を定めており、規則第2条は電子メールなど受信者を特定して送る方法を電磁的方法に含めています。ただし、中小受託事業者から書面を求められたときの扱いは第4条第2項に定めがあるため、求められた場合に書面を出せるようにしておいてください。
手形の交付は、第5条第1項第2号で支払遅延に含まれる行為として禁止されています。電子記録債権などの手形以外の支払手段も、支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難なものは同じ扱いです。期日に現金で受け取れる方法で支払ってください。
第6条と公正取引委員会規則により、受領した日から起算して60日を経過した日から実際に支払う日までの日数に応じ、未払金額に年14.6パーセントを掛けた額を支払います。不当に減額した場合も、減額した日と受領から60日を経過した日のいずれか遅い日から、減額分に同じ率がかかります。
取適法には、再委託を理由に支払期日を延ばす規定はなく、給付を受領した日から60日以内に支払期日を定める必要があります。フリーランス法第4条第3項には元委託支払期日から30日以内とする規定がありますが、再委託である旨・元委託者の氏名または名称・元委託支払期日などを明示した場合に限られます。
フリーランス法第3条第1項により、業務委託をした場合は直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面または電磁的方法で明示します。内容が定められないことに正当な理由がある事項は、定まった後直ちに明示します。電磁的方法で明示した場合でも、書面を求められたら遅滞なく交付する必要があります(規則で定める場合を除く)。
取適法第14条は、明示をしなかった、求められた書面を交付しなかった、書類等を作成・保存しなかった場合に、違反行為をした代表者や従業者を50万円以下の罰金としています。第16条により法人にも罰金刑が科されます。禁止行為(第5条)については、公正取引委員会による勧告(第10条)の対象になります。