議事録
AI議事録をイベント案件で使う
決定事項とToDoを取り出す手順
AIで議事録を作るとき、最も多い誤解は文字起こしができれば議事録ができるという思い込みです。イベント案件の打合せで本当に必要なのは、発言の全文ではなく「決まったこと」「決まらなかったこと」「誰がいつまでに何をするか」の3つだけです。
結論
AI議事録とは、会議の音声を自動で文字起こしし、そこから決定事項・未決事項・ToDoを要約して残す仕組みです。イベント案件では①録音の確保 ②文字起こし ③固有名詞の補正 ④決定事項とToDoの抽出 ⑤人による確定 ⑥タスク表への変換、の順で使うと定着します。AIが担うのは②〜④で、確定の責任は人が持ちます。
文字起こしと議事録は別物
この違いを整理しないまま導入すると、「AIを入れたのに読まれない長文が毎回届く」状態になります。イベントの打合せは雑談と検討が混ざりやすく、全文を残すほど読まれなくなります。
| 観点 | 文字起こし | 議事録 |
|---|---|---|
| 目的 | 発言の記録を残す | 次の行動を決める |
| 分量の目安 | 60分で1万〜1万5千字 | A4で1枚(1,500〜2,500字) |
| 読む人 | ほぼ読まれない。検索用 | 案件関係者全員が読む |
| 含めるもの | 全発言、言い淀みも含む | 決定事項、未決事項、ToDo、前提条件 |
| AIの得意度 | 高い。ほぼ自動化できる | 中程度。下書きまでは作れる |
| 人の作業 | 誤字と固有名詞の補正 | 決定かどうかの判断、責任の割り当て |
Point
文字起こしは配布しないでください。配布物は議事録、文字起こしは検索用のアーカイブ、と役割を分けます。「あの日、会場の電源容量の話はどうなったか」を後から探すときにだけ全文が効きます。
イベント案件の議事録が難しい理由
- 決定の粒度がばらつく:「方向性はその方向で」のような、決定とも保留ともつかない発言が多い
- 関係者が多い:クライアント、制作、会場、施工、音響、映像。誰の宿題かが曖昧になりやすい
- 専門用語と固有名詞が濃い:会場名、什器名、ブランド名、タレント名。AIが最も間違える領域
- 場所が会議室とは限らない:会場下見、屋外ロケハン、施工中の現場。録音環境が悪い
- 金額の話が混ざる:聞き間違いがそのまま見積の事故になる
イベント案件の4つの打合せと、AIの使い分け
同じ「打合せ」でも、必要な記録の形はまったく違います。案件の進行段階ごとに、AIに何をさせるかを決めておきます。
| 打合せの種類 | 記録で最重要なもの | AIの使い方 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| キックオフ | 目的、KPI、予算枠、NG事項 | 要約+前提条件の一覧化 | クライアントの意図を要約で丸めない。発言の原文を併記 |
| 制作定例 | 前回ToDoの消化、新規ToDo、遅延 | ToDo抽出と前回分との差分 | 「持ち帰り」を決定として書かせない |
| 会場下見 | 寸法、搬入経路、電源、禁止事項 | 音声メモの文字起こし+写真との突き合わせ | 屋外・広い空間で録音品質が落ちる |
| クライアント報告 | 承認事項、修正指示、次回期限 | 決定事項のみ抽出 | 承認の有無は人が必ず確認する |
注意
上の表の「キックオフ」行に書いたとおり、要約は情報を落とします。目的やNG事項など、後から解釈が争点になる箇所は、要約とあわせて発言の原文を引用で残してください。
下見・ロケハンは「議事録」ではなく「所見メモ」として扱う
会場下見は会議ではないため、議事録の形にすると情報が抜けます。歩きながらの音声メモをAIに文字起こしさせ、場所ごとの所見リストに整形させる方が実務に合います。
- 測った寸法は必ず口に出して録音する(「搬入口の高さ、実測2メートル30」)
- 写真を撮った直後に一言入れる(「今の写真は3階ホワイエの分電盤」)
- 禁止事項は会場担当者の言葉のまま繰り返す(「壁面への直接固定は不可、とのこと」)
- AIには「場所・項目・数値・制約・確認先」の5列表に整形させる
誤認を減らす:固有名詞・専門用語・数値
ツールごとの違いはAI議事録ツールの選び方と無料のAI議事録ツール比較に、議事録を短時間で仕上げる手順はイベント会議の議事録を短時間で仕上げるにまとめています。用語辞書に入れる業界用語はイベント業界用語集から拾えます。
AI文字起こしの精度は、一般語では実用水準に達していますが、イベント業界の固有名詞では大きく落ちます。対策は事前と事後の2段構えです。
事前対策:用語辞書を先に渡す
多くの文字起こしサービスには辞書登録やカスタム語彙の機能があります。機能がない場合でも、文字起こし後の整形をAIに頼む際に、プロンプトへ用語リストを貼り付けるだけで補正精度が上がります。
- 会場名・ホール名・部屋名(正式名称と略称の両方)
- クライアント企業名、ブランド名、商品名の正式表記
- 登壇者・出演者の氏名と読み(同音異字に注意)
- 協力会社名(施工、音響、映像、警備、ケータリング)
- 案件内の略語(仮称のイベント名、社内での呼び方)
- 業界用語(バミリ、山台、平台、仕込み、バラシ、香盤、尺、押す など)
- 数量の単位(小間、間口、尺、坪、ケース、台、面)
事後対策:危険語リストで機械的に確認する
全文を読み直すのは現実的ではありません。間違えられると事故になる箇所だけを検索して目視します。
| 確認対象 | 典型的な誤認 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 金額 | 「130万」が「113万」等の桁・数字違い | 数字を含む行を全部抽出して目視 |
| 日付・時刻 | 「26日」と「20日」、「13時」と「1時」 | 日時表現を抽出し、カレンダーと突合 |
| 数量・寸法 | 単位の脱落(「2」が2mか2台か不明) | 単位が付いていない数値を洗い出す |
| 人名・社名 | 同音の別表記 | 用語辞書と機械的に照合 |
| 否定・条件 | 「できません」が「できます」に反転 | 可否の結論は原文を再生して確認 |
| 主語の欠落 | 誰の宿題か不明なToDo | 担当者が空欄のToDoを機械的に検出 |
Point
否定の反転が最も危険です。「その日程は押さえられません」が「押さえられます」になると、案件が止まります。可否・許諾・禁止に関する発言は、要約を信じず該当箇所の音声を必ず聞き直してください。
会場・屋外での録音品質を確保する
AIの精度以前に、録音が悪ければ何も始まりません。会議室以外の場所で録る機会が多いのがイベント業務の特徴です。
| 場所 | 起きやすい問題 | 対策 |
|---|---|---|
| 通常の会議室 | 遠い席の声が拾えない | 机の中央に置く。話者から1〜1.5m以内を目安に |
| 大ホール・体育館 | 残響で輪郭が消える | 話者に近づける。可能なら音響卓から分岐して録る |
| 屋外・搬入口 | 風切り音、車両音、暗騒音 | ウインドスクリーン付きマイク。風上に体を入れて遮る |
| 施工中の現場 | 打撃音、高所作業の騒音 | 静かな場所へ移動して要点だけ録り直す |
| オンライン会議 | 同室の複数名が1本のマイクを共有 | 各自が自分の端末から入る。話者分離の精度が上がる |
| ハイブリッド | 会場音と配信音の二重取り | 配信側の音声を正とし、会場側は補助にする |
話者分離を効かせるコツ
- 冒頭に出席者が一人ずつ名乗る(AIの話者ラベルと氏名を対応づけられる)
- 発言が重ならないように司会が交通整理する
- 同室で複数名が入るオンライン会議では、代表1名以外はマイクを切る
- 議長が決定時に「これで決定とします」と口に出す(抽出の手がかりになる)
注意
録音は会議開始の1分前から回し始めるのが安全です。開始直後の雑談部分に、前提の共有や日程の調整など、後で効く情報が入っていることが少なくありません。
社外同席時の録音同意
クライアントや協力会社が同席する打合せでは、録音とAI処理について事前に了解を取ります。トラブルを避けるだけでなく、了解が取れていれば堂々と机の中央に置けるため録音品質も上がります。
- 01
案内段階で一言添える
打合せの案内メールに「議事録作成のため録音させていただきます」と書いておきます。当日いきなり切り出すより、断られる確率が下がります。
- 02
冒頭で口頭確認し、その返答も録音に残す
「議事録用に録音させていただいてよろしいでしょうか」と尋ね、了解の返答が録音に入る状態にします。記録として最も確実です。
- 03
AIを使うことと、保存先を伝える
「文字起こしにAIサービスを使います」「録音データは社内の共有フォルダに保管します」まで伝えると、相手側の情報管理ルールとの齟齬が事前に分かります。
- 04
断られた場合の代替を用意する
記録係を別に立て、手書きメモから議事録を起こします。断られる前提の運用を持っておくと、その場で慌てません。
- 05
保存期間と削除のルールを決める
案件終了後◯か月で音声は削除、議事録テキストは保管、といった社内ルールを決め、聞かれたら即答できるようにします。
Point
相手先によっては、外部AIサービスへの音声アップロードそのものが禁止されている場合があります。官公庁案件、金融、医療、未発表の新商品が絡む案件では特に注意してください。セキュリティ面の整理はイベント業務でAIを使うときのセキュリティを参照してください。
機密度で使い分ける
| 機密度 | 例 | 扱い |
|---|---|---|
| 低 | 社内定例、既存の公開イベント | 通常のAI文字起こしを利用 |
| 中 | クライアント定例、協力会社との打合せ | 同意取得のうえ利用。固有名詞は仮名化も検討 |
| 高 | 未発表商品の発表会、M&A関連、要人来場 | 録音の可否から個別判断。人による記録に切り替える |
決定事項とToDoを取り出す
ここがAI議事録の本体です。要約させるのではなく、決まった型に流し込ませると品質が安定します。
指示文の骨格
次の要素を指示に含めると、出力のばらつきが減ります。案件ごとに一度作れば、あとは使い回せます。
- 01立場と文脈:「イベント制作会社の進行管理担当として、以下の打合せ記録を整理してください」
- 02出力の型:「①決定事項 ②未決事項と次の判断期限 ③ToDo(担当者・期限・内容) ④共有事項 ⑤確認が必要な聞き取り不明箇所、の5区分で出力」
- 03判定基準:「明確に合意された内容のみを決定事項とし、『検討する』『持ち帰る』は未決事項に分類」
- 04禁止事項:「記録にない内容を補完しない。担当者が特定できないToDoは担当者欄を『未定』と明記」
- 05用語辞書:会場名・社名・人名の正式表記リストを貼り付ける
- 06不明箇所の扱い:「聞き取れない箇所は[不明]と表記し、⑤に前後の文脈とともに列挙」
Point
最も効くのは「記録にない内容を補完しない」の一文です。これがないと、AIは会議の流れから自然に見える結論を作文します。イベント案件では、この作文が「合意したはずの仕様」として一人歩きします。
決定・未決の判定は人がやり直す
| 発言の例 | AIが分類しがちな区分 | 実際の区分 |
|---|---|---|
| 「その方向でいきましょう」 | 決定事項 | 文脈次第。金額や日程が伴わなければ未決 |
| 「一度持ち帰ります」 | 決定事項に混入しやすい | 未決事項。判断期限を必ず付ける |
| 「確認して連絡します」 | 共有事項 | ToDo。担当者と期限を補う |
| 「基本的には問題ないと思います」 | 決定事項 | 未決事項。正式承認の手続きを確認 |
| 「前回と同じで」 | 決定事項 | 決定だが、前回の内容を明記しないと後で不明になる |
注意
AIが出した区分をそのまま配布せず、進行管理担当が5〜10分で通し確認してから配布します。この工程を省くと、誤った決定が議事録として証拠化されます。
議事録からタスク表へ変換する
議事録を配って終わりにすると、ToDoは消化されません。議事録の生成と同時に、タスク表の行として貼り付けられる形で出力させます。
出力させる列
| 列 | 内容 | AIに補完させてよいか |
|---|---|---|
| タスク名 | 動詞で終わる形(「会場へ電源容量を確認する」) | よい |
| 担当者 | 氏名または社名 | 不可。不明なら『未定』のまま |
| 期限 | 日付。発言に日付がなければ空欄 | 不可。推測させない |
| 工程区分 | 企画/制作/会場/施工/運営/精算 | よい |
| 出典 | 議事録の該当箇所(日付と見出し) | よい |
| ステータス | 未着手で固定 | よい |
定例での回し方
- 01
前回のタスク表を会議前にAIへ渡す
「前回の未完了タスクを一覧にし、冒頭で確認すべき順に並べてください」と指示します。定例の冒頭5分が締まります。
- 02
会議中はタスク表を画面共有する
その場で消化状況を更新します。議事録を待たずに状態が確定します。
- 03
会議後に新規ToDoを差分で抽出させる
「前回タスク表に載っていない新規のToDoだけを抽出」と指示すると、重複行が生まれません。
- 04
担当者と期限を人が埋める
AIが『未定』としたセルを、その日のうちに埋めます。ここを放置するとタスク表が信用されなくなります。
- 05
週次で棚卸しする
期限超過タスクだけを抽出し、判断が必要なものを上位に上げます。
工程全体のスケジュールへの落とし込みはイベントのスケジュール設計、当日の抜け漏れ確認はイベント運営チェックリストを参照してください。
定着させる運用ルール
- 録音を回す担当を毎回決める(司会か進行管理担当)
- 案件ごとに用語辞書ファイルを1つ作り、打合せのたびに追記する
- 議事録の配布期限を決める(当日中、または翌営業日午前など)
- AI出力をそのまま配布しない。人の確認を1工程はさむ
- 金額・日程・可否の3項目は原文を確認してから配布する
- 決定事項は「誰が承認したか」まで書く
- 音声データの保存先と保存期間を社内で統一する
- 社外同席の打合せは、案内メールに録音の旨を定型で入れる
うまくいかないときの切り分け
| 症状 | 疑う原因 | 打ち手 |
|---|---|---|
| 議事録が読まれない | 長すぎる。全文要約になっている | 決定事項とToDoだけに絞る。A4一枚を上限に |
| 固有名詞が毎回崩れる | 用語辞書がない、更新されていない | 案件開始時に辞書を作り、定例のたびに追記 |
| 決定が後で覆る | 未決を決定として書いている | 判定基準を指示文に明記し、人が確認 |
| ToDoが消化されない | 担当者と期限が空欄のまま | 配布前に空欄を埋めるルールにする |
| 音声が聞き取れない | 録音位置と環境 | マイク位置の見直し。重要箇所は静かな場所で録り直す |
| クライアントに嫌がられる | 同意の取り方が唐突 | 案内メールで事前に伝える運用に変更 |
議事録の価値は網羅性ではなく、次の一手が決まることにあります。
この記事の要点
- 文字起こしと議事録は別物。配布するのは議事録、全文は検索用アーカイブに留める。
- 案件ごとの用語辞書を作る。会場名・社名・人名・業界用語の誤認が最大の事故要因。
- 金額・日程・可否の3項目はAI出力を信じず、原文の音声で必ず確認する。
- 「記録にない内容を補完しない」を指示文に必ず入れる。AIは自然な結論を作文する。
- 社外同席の録音同意は、案内メールでの事前告知+冒頭の口頭確認の二段構えで取る。
- 議事録と同時にタスク表の行を出力させる。担当者と期限だけは人が埋める。
FAQ
よくある質問
文字起こしを渡し、「決定事項」「保留事項」「意見が割れた点」「ToDo(担当者・期限つき)」の四つに分けるよう指示します。書かれていないことは推測せず「記載なし」とするよう指定し、担当者と期限が空欄のToDoは、打合せの参加者に確認してから確定させてください。
簡易な文字起こしであれば無料の範囲でも実用になります。ただし、話者分離、長時間の録音、用語辞書の登録、社外への持ち出し制限といった機能は有料プランに限られることが多くなっています。まず無料で文字起こしの精度を確かめ、案件で常用すると決めた段階で機能要件を洗い出して選び直す進め方が現実的です。
録音環境と話題によって大きく変わります。静かな会議室で一般的な話題であれば実用水準に達しますが、会場名や什器名などの固有名詞、屋外や施工中の現場での録音では精度が落ちます。精度そのものを気にするより、間違えられると困る箇所を機械的に確認する運用を組む方が効果的です。
相手の了解が必要です。打合せ案内のメールで事前に伝え、当日の冒頭でも口頭で確認し、その返答が録音に残る状態にしてください。外部のAIサービスを使うこと、録音データの保存先と保存期間も併せて伝えると、相手側の情報管理ルールとの齟齬を事前に把握できます。断られた場合に備えて、記録係を立てる運用も用意しておいてください。
A4で1枚、文字数にして1,500〜2,500字程度が目安です。決定事項、未決事項と判断期限、ToDo、共有事項に絞れば、60分の打合せでもこの範囲に収まります。長い議事録は読まれず、読まれない議事録は存在しないのと同じです。
使えますが、議事録ではなく所見メモとして扱ってください。歩きながら寸法や制約を口に出して録音し、AIには「場所・項目・数値・制約・確認先」の表に整形させます。屋外や広い空間では録音品質が落ちるため、重要な数値は静かな場所で言い直すか、写真とメモで二重に記録してください。
できません。「その方向で」「基本的には問題ない」といった発言を、AIは決定事項に分類しがちです。イベント案件では、この誤分類がそのまま仕様の食い違いになります。AIには下書きまでを作らせ、決定か未決かの判定は進行管理担当が通し確認してから配布してください。