法務・コンプライアンス
株主総会議事録をAIで作る方法
プロンプト例・ひな形・確認の手順
株主総会議事録は、AIで下書きまで作れます。うまくいくかどうかは、AIに渡す情報で決まります。記載しなければならない事項は会社法施行規則第72条で決まっているので、その項目をプロンプトに入れ、分からない箇所は空欄のまま返させるのがこつです。この記事では、開催した総会・書面決議(みなし決議)・文字起こしからの要約など場面別のプロンプト例5本と、議事録のひな形、AIの下書きを確認するチェックリストを載せます。
結論
株主総会議事録は、会社法第318条第1項にもとづいて作る書面(または電磁的記録)です。記載事項は会社法施行規則第72条第3項(開催した場合)と第4項(書面決議などで決議があったものとみなされた場合)に定められています。株主総会の日から10年間は本店に備え置く必要があります(会社法第318条第2項)。AIが作るのはこの書面の下書きで、内容に責任を持つのは会社です。
結論:AIに任せてよいこと・人がやること
| 作業 | AIに任せる | 人がやる |
|---|---|---|
| 文字起こし・発言の整理 | ○ 録音から文字にし、議案ごとに発言を分ける | 固有名詞と数字を音声で確かめる |
| 議事の経過の要領を書く | ○ 発言を短い文章にまとめる | 要約で意味が変わっていないか確かめる |
| 決議の結果を書く | △ 文の形を整えるだけ | 賛否の数と可決・否決は、手元の集計から人が書く |
| 出席した役員・議長・作成者の氏名 | △ 様式に流し込むだけ | 出席の記録と照らす |
| 記載漏れのチェック | ○ 第72条の項目と突き合わせる | 最終判断と保存(定款に定めがあれば署名・押印も) |
Point
AIに数字と結論を考えさせないことが、いちばん大事なルールです。議決権の数、賛成の数、可決か否決かは、AIに推測させると、それらしい数字を書くことがあります。プロンプトでは「与えた情報だけを使い、無いものは【要確認】と書く」と指示してください。
議事録に書くこと(会社法施行規則第72条)
AIに渡す前に、何を書く書面なのかを押さえておきます。条文の項目をそのままプロンプトに入れると、記載漏れが減ります。
株主総会を開いた場合(第72条第3項)
| 号 | 記載事項 | AIに渡す材料 |
|---|---|---|
| 1号 | 開催した日時と場所(その場所にいない役員や株主がオンラインなどで出席した場合は、出席の方法も) | 招集通知、当日の配信の記録 |
| 2号 | 議事の経過の要領とその結果 | 文字起こし、シナリオ、議決の集計表 |
| 3号 | 会計参与・監査役・会計監査人などが条文にもとづいて述べた意見や発言があれば、その概要 | 該当する発言の文字起こし |
| 4号 | 出席した取締役・執行役・会計参与・監査役・会計監査人の氏名または名称 | 出席の記録 |
| 5号 | 議長がいる場合は議長の氏名 | シナリオ、定款 |
| 6号 | 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名 | 社内で決めた担当 |
書面決議(決議があったものとみなされた場合・第72条第4項第1号)
取締役または株主の提案に、議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意すると、その提案を可決する決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。株主が1人の会社でも使える方法です。この場合の議事録には、次の4つを書きます。
- 決議があったものとみなされた事項の内容
- その事項を提案した者の氏名または名称
- 決議があったものとみなされた日
- 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
注意
署名・押印について:第72条の記載事項に、署名や記名押印は入っていません。ただし、定款で署名や押印を定めている場合はそれに従います。自社の定款を確認し、登記の添付書面に使う場合の要件は法務局や司法書士に確認してください。
そのまま使えるプロンプト例5本
【 】の中を自社の情報に置き換えて使ってください。どのプロンプトにも「与えた情報以外は書かない」「不明な箇所は【要確認】と書く」という指示を入れています。AIが空欄を埋めようとして事実と違う内容を書くのを防ぐためです。
例1:開催した定時株主総会の議事録の下書き
あなたは株式会社の総務担当者です。以下の情報だけを使って、定時株主総会議事録の下書きを作ってください。
■ 守ること
・会社法施行規則第72条第3項の各号(開催日時・場所と出席方法/議事の経過の要領と結果/役員の意見・発言の概要/出席役員の氏名/議長の氏名/議事録作成者の氏名)を見出しにする
・ここに書かれていない数字・氏名・発言は作らない。不明な箇所は【要確認】と書く
・賛成数や可決・否決は、下の「集計」をそのまま書き写す
■ 会社の情報
商号:【 】/開催日時:【 】/場所:【 】/オンライン出席者と方法:【 】
議決権を行使できる株主の数と議決権の数:【 】/出席株主の数と議決権の数:【 】
出席した役員:【 】/議長:【 】/議事録作成者:【 】
■ 議案と集計
第1号議案【 】:賛成【 】個、反対【 】個、結果【 】
■ 発言の文字起こし(議案ごと)
【 】
例2:書面決議(みなし決議)の議事録の下書き
以下の情報だけを使って、会社法第319条第1項により株主総会の決議があったものとみなされた場合の議事録の下書きを作ってください。
■ 書くこと(会社法施行規則第72条第4項第1号)
決議があったものとみなされた事項の内容/提案者の氏名/決議があったものとみなされた日/議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
■ 守ること
・「株主全員から書面または電磁的記録による同意の意思表示があった」ことを本文に書く
・与えた情報以外は書かない。不明な箇所は【要確認】と書く
■ 情報
商号:【 】/提案者:【 】/提案日:【 】
提案の内容:【 】
同意書を受け取った株主と受け取った日:【 】/最後の同意が届いた日:【 】
議事録作成者:【 】
例3:文字起こしから「議事の経過の要領」を作る
次の文字起こしは株主総会の一部です。議事録の「議事の経過の要領」として使う文章にまとめてください。
・議案ごとに、議長の説明 → 質疑(質問の要旨と回答の要旨)→ 採決 の順に並べる
・発言者は役職と氏名で書く。株主は「株主」とだけ書き、氏名は書かない
・言い換えで意味が変わりそうな箇所は、元の発言をかっこ書きで残す
・聞き取れていない箇所、話者が分からない箇所は【要確認】と書く
・賛否の数は書かない(別に人が書き入れる)
【文字起こし】
例4:下書きの記載漏れをAIに点検させる
次の株主総会議事録の下書きを、会社法施行規則第72条第3項の第1号から第6号の項目と突き合わせてください。
各号について「記載あり/記載なし/不十分」を表にし、不十分な場合は何が足りないかを書いてください。
文章の書き直しはしないでください。
【議事録の下書き】
例5:箇条書きのメモから議案の説明文を整える
次のメモは、株主総会で議長が説明する議案の要点です。議事録の「議事の経過の要領」に入れる、説明の要旨を3文以内で書いてください。
メモにない理由や数字は足さないでください。
議案:【例:取締役1名選任の件】
メモ:【例:任期満了、候補者は再任、略歴は招集通知に記載】
注意
例3と例4は、議事録の下書きを外部のAIサービスに入力することになります。社内のルールで入力してよい情報かを先に確認してください(下の「録音と個人情報」の節も参照)。
AIの出力を当てはめる議事録のひな形
AIの出力をそのまま使うのではなく、自社で決めたひな形に書き写すと、毎年の形式がそろいます。以下は第72条の項目に沿った骨組みです。文言は自社の過去の議事録と定款に合わせて調整し、初回は司法書士・弁護士に確認してもらうと安心です。
開催した場合
第【 】回定時株主総会議事録
1.日時 【 】年【 】月【 】日 午前【 】時【 】分〜午前【 】時【 】分
2.場所 【 】(オンラインで出席した者:【 】、出席の方法:【 】)
3.議決権を行使することができる株主の数 【 】名/その議決権の数 【 】個
出席した株主の数(書面等による行使を含む) 【 】名/その議決権の数 【 】個
4.出席した役員 取締役【 】、監査役【 】
5.議長 代表取締役【 】
6.議事の経過の要領及びその結果
(議長の開会宣言、報告事項、各議案の説明・質疑・採決の結果)
7.監査役等の意見・発言の概要 【あれば記載】
8.議事録の作成に係る職務を行った取締役 【 】
【 】年【 】月【 】日
株式会社【 】
書面決議(みなし決議)の場合
【臨時・定時】株主総会議事録(書面決議)
1.株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
【議案の内容】
2.上記事項の提案をした者 取締役【 】
3.株主総会の決議があったものとみなされた日 【 】年【 】月【 】日
(議決権を行使することができる株主の全員から、書面又は電磁的記録により同意の意思表示があった日)
4.議事録の作成に係る職務を行った取締役 【 】
株式会社【 】
株主数や議決権の数の記載は、第72条の号には直接書かれていませんが、決議が成立したことを確かめる材料になります。載せるかどうかは自社の過去の議事録にそろえ、迷う場合は専門家に確認してください。会議の議事録全般の書き方は議事録テンプレートにまとめています。
記録の用途ごとの使い分け
同じ録音から作るものでも、用途によって求められる確かさが違います。正式な議事録と、それ以外の用途の記録を混ぜないようにします。
| 用途 | AIの使い方 | 確認する人 | 注意すること |
|---|---|---|---|
| 事務局の内部メモ | 文字起こしと要約をそのまま参考にする | 事務局 | 社外に出さない。保存場所と消す時期を決める |
| 正式な議事録の下書き | 上のプロンプトで項目ごとに作り、ひな形に書き写す | 事務局と法務 | 決議の結果は手元の集計と照らす。備え置きは10年間 |
| 社内向けの報告用の要約 | 決まったことだけを短くまとめる | 事務局 | 正式な議事録と表現が食い違わないようにする |
| 想定問答の振り返り | 質疑の文字起こしから、次回の想定問答に足す論点を拾う | IR・総務 | 個人が特定される形で残さない |
注意
内部メモと正式な議事録は、ファイルも保存場所も分けてください。株主と債権者は、営業時間内であれば議事録の閲覧・謄写を請求できます(会社法第318条第4項)。確認前の下書きや社内向けの要約が正式な議事録と混ざらないようにしておきます。
AIで議事録を作るときによくある失敗
| 失敗 | 起きる理由 | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 賛成数や出席株主数がそれらしい数字で埋まっている | AIは空欄を埋めようとする | 数字はプロンプトで与え、無いものは【要確認】と書かせる。最後は集計表と照らす |
| 役員の氏名・会社名の漢字が違う | 音声認識が同音の別字を選ぶ | 固有名詞の一覧をプロンプトに入れておく |
| 質問した株主の氏名がそのまま残る | 文字起こしをそのまま要約した | 例3のように「株主」とだけ書かせる |
| 要約で発言の意味が変わる | AIが言い換える | 意味が変わりそうな箇所は原文をかっこ書きで残させ、人が音声で確かめる |
| 監査役等の意見の概要が抜ける | 要約で「その他」の発言として省かれる | 例4で第72条第3項第3号の有無を点検させる |
| 書面決議なのに開催型のひな形で作る | 様式を使い回した | 書面決議では第72条第4項第1号の4項目で作る |
録音と個人情報の扱い
株主の氏名や発言が入った録音・文字起こしは、個人情報として扱うことを前提に設計します。何を、何のために録るのかを事前に示し、保存と削除のルールを決めておきます。
- 録音すること、議事録の作成に使うことを、招集の案内や当日の冒頭で伝えるか決めた
- 外部の文字起こしサービスやAIを使う場合、データの保管場所と学習利用の扱いを公式情報で確認した
- 録音データと文字起こしの保存期間と、削除する担当者を決めた
- 録画や文字起こしを社外に公開しない(または公開範囲を限る)ことを決めた
利用目的の書き方は「個人情報の取扱いについて」の書き方、配信や録画を伴う場合の論点はウェビナーの個人情報を参照してください。ツールのデータの扱いはAI議事録ツールの選び方で、公式情報を比べています。
試行から本番までの手順
- 01
法務部門・専門家に相談する
AIを下書きに使う方針と、ひな形・確認者を相談し、結論を記録に残します。
- 02
ツールを選ぶ
自社の音声で試したときの固有名詞の誤りの少なさ、話者の聞き分け、データの保管場所、編集履歴が残るかを確認します。
- 03
録音の告知を決める
録音すること、議事録の作成に使うこと、保存と削除の方針をどこで伝えるかを決めます。
- 04
社内の会議で試す
株主総会の前に社内の会議で試し、聞き間違いの傾向と確認にかかる手間を把握します。
- 05
プロンプトとひな形を固める
この記事の例をもとに、自社の商号・議長・作成者の欄を埋めたプロンプトを保存しておきます。
- 06
代わりの手段を用意する
録音やツールが動かなかったときに、手書きの記録で議事録を作れるよう担当者を置いておきます。
- 07
本番後に振り返る
確認でどんな修正が必要だったかを記録し、プロンプトを直して次回に使います。
Point
時間がかかるのは法務確認です。初めての年は、確認の往復が何度か発生する前提で日程を組んでください。議事録の確認を手早く進めるコツは議事録を手早く仕上げる手順にもまとめています。
AIの下書きを仕上げる前の確認チェックリスト
記載事項(第72条第3項)
- 開催日時と場所、オンラインで出席した者がいればその出席の方法を書いた
- 議事の経過の要領と、各議案の結果を書いた
- 監査役・会計監査人などの意見や発言があれば、その概要を書いた
- 出席した役員の氏名、議長の氏名、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を書いた
- 書面決議の場合は、第72条第4項第1号の4項目で作った
AI特有の確認
- 賛否の数・可決か否決かを、手元の集計と1つずつ照らした
- 氏名・会社名・金額などの固有名詞と数字を、音声または原資料で確かめた
- 【要確認】の箇所が残っていない
- 株主の氏名が不要な箇所に残っていない
保存と運用
- 定款で署名・押印を定めていないかを確認した
- 議事録を本店に10年間備え置く手順と保存場所を決めた(支店がある場合は写しの扱いも確認した)
- 書面決議の場合は、株主の同意書(または電磁的記録)も、決議があったものとみなされた日から10年間本店に備え置く(会社法第319条第2項)
- 内部メモと正式な議事録の下書きを、ファイルも保存場所も分けた
- 録音・文字起こしの保存期間と削除の担当者を決めた
この記事の要点
- 株主総会議事録はAIで下書きできる。記載事項は会社法施行規則第72条で決まっているので、その項目をプロンプトに入れる。
- 賛否の数・可決か否決か・出席者は、AIに推測させず、手元の記録から人が書く。プロンプトで「不明は【要確認】」と指示する。
- 書面決議(会社法第319条第1項)の議事録は、第72条第4項第1号の4項目で作る。
- 議事録は株主総会の日から10年間、本店に備え置く(会社法第318条第2項)。
- 録音・文字起こしは個人情報として扱い、内部メモと正式な議事録は保存場所を分ける。
FAQ
よくある質問
下書きづくりにAIを使うことはできます。ただし、AIの出力には聞き間違いや数字の取り違えが起こりうるため、そのまま正式な議事録にはできません。会社法施行規則第72条の記載事項をプロンプトに入れて下書きを作り、決議の結果と出席者は手元の記録と照らして人が仕上げてください。
記載事項(開催日時・場所、議事の経過の要領と結果、役員の意見の概要、出席役員・議長・作成者の氏名)を見出しとして指定し、「与えた情報以外は書かない」「不明な箇所は【要確認】と書く」と添えるのが基本です。この記事のプロンプト例1〜5をそのまま使えます。
必要です。株主が1人の会社でも、総会を開いた場合は第72条第3項の事項で議事録を作ります。総会を開かずに、株主全員が書面または電磁的記録で提案に同意すると、決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。この場合も、決議があったものとみなされた事項の内容、提案者、その日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名を内容とする議事録を作ります(会社法施行規則第72条第4項第1号)。プロンプト例2とひな形が使えます。
会社法施行規則第72条の記載事項には、署名や記名押印は含まれていません。ただし、定款で定めている場合はそれに従います。登記の添付書面として使う場合の要件は、法務局や司法書士に確認してください。
株主総会の日から10年間、本店に備え置く必要があります(会社法第318条第2項)。支店には5年間、写しを備え置きます(同条第3項。電磁的記録で作成し、所定の措置をとっている場合を除く)。
株主の氏名や発言が録音に入るため、録音すること、議事録の作成に使うことを事前に示す設計にしておくと安心です。どこで、どう示すかは、個人情報の取扱いの方針とあわせて法務部門と決めてください。
AIは道具なので、議事録の内容に責任を持つのは作成した会社です。だからこそ、下書きのどこを誰が確認するかを手順にし、確認した記録を残しておくことが大切です。