敬語
「伺う」と「参る」の違い
謙譲語Ⅰ・Ⅱの使い分けと例文
結論から書きます。「伺う」は行き先や話を聞く相手を立てる言葉、「参る」はいま話している相手(メールを読む相手)に改まって伝える言葉です。文化庁の「敬語の指針」では、「伺う」を謙譲語Ⅰ、「参る」を謙譲語Ⅱ(丁重語)と分けています。迷ったときの目安は三つです。①質問・聞いた話なら「伺う」(「◯◯について伺いたいことがございます」)。②立てる人がいない行き先(出張先・身内のところ・駅)なら「参る」(「来週は名古屋へ参ります」)。③取引先の会社へ行くならどちらでもよく、行き先の相手を立てたいなら「伺う」(「◯月◯日◯時に御社へ伺います」)。どちらも自分の側の動作に使い、相手が来るときは「お越しになる」「いらっしゃる」を使います。
結論
「伺う」は「行く」「訪ねる」「聞く」「尋ねる」の謙譲語Ⅰで、動作の向かう先の人物を立てます。「参る」は「行く」「来る」の謙譲語Ⅱ(丁重語)で、話や文章の相手に対して自分の側の動作を丁重に述べます(文化庁「敬語の指針」)。
ひと目でわかる違い(比較表)
| 比べる点 | 伺う | 参る |
|---|---|---|
| 敬語の種類 | 謙譲語Ⅰ | 謙譲語Ⅱ(丁重語) |
| 敬意が向く人 | 行き先・話を聞く相手(向かう先) | いま話している相手・メールの読み手 |
| 元の言葉 | 行く・訪ねる・聞く・尋ねる | 行く・来る |
| 立てる人がいない行き先 | 使えない(×弟のところに伺います) | 使える(弟のところに参ります) |
| 質問する・話を聞く | 使える(伺いたいことがございます) | 使えない |
| 「ます」を付けずに使う | できる(社内で「明日先方に伺う」) | 不自然(「明日先方に参る」) |
| 相手・目上の人の動作 | 使わない | 使わない |
Point
取引先の会社へ行くときは、行き先の相手とメールの読み手が同じ人なので、「伺います」「参ります」のどちらも同じように丁寧に働きます。違いが出るのは、行き先の人と話している相手が別の人のときです。
「伺う」と「参る」の意味と、敬意の向き
「伺う」は向かう先の人を立てる(謙譲語Ⅰ)
「伺う」は、自分の側から相手側や第三者に向かう動作について、向かう先の人物を立てる言葉です。「御社へ伺います」なら御社の人を、「◯◯様にお話を伺いました」なら◯◯様を立てています。行き先に立てるのにふさわしい人がいるときにだけ使える、という点が大事です。
「参る」は話している相手に丁重に述べる(謙譲語Ⅱ)
「参る」は、行き先がどこであっても、いま話している相手に対して自分の側の動作を改まって述べる言葉です。そのため「来週は名古屋へ参ります」「家族のところへ参ります」のように、行き先が立てる相手でなくても使えます。駅の「電車が参ります」のように、立てなくても失礼に当たらない物事にも使えます。
見分け方:行き先を「弟」に入れ替えてみる
文化庁「敬語の指針」は、行き先を身内に入れ替えると違いが見えることを例に挙げています。「弟のところに参ります」は問題ないのに対し、「弟のところに伺います」は弟を立てることになり誤用です。行き先を身内に置き換えて「伺う」が不自然に聞こえるのは、「伺う」が行き先の人を立てる言葉だからです。行き先が立てる相手でないときは「参る」を選ぶ、と覚えておくと迷いません。
| 言い方(話している相手は上司) | 誰を立てているか | 判定 |
|---|---|---|
| ◯◯社の◯◯様のところに伺います | ◯◯様(行き先の人) | 適切 |
| ◯◯社の◯◯様のところに参ります | 上司(話している相手)。◯◯様を立てる働きはない | 誤りではないが、◯◯様を立てたいなら「伺う」 |
| 実家の祖母のところに参ります | 上司(話している相手) | 適切 |
| 実家の祖母のところに伺います | 自分の祖母を立ててしまう | 不適切 |
迷ったときの判断手順
- 01
その動作は誰のものか確かめる
相手や目上の人の動作なら、どちらも使いません。「お越しになる」「いらっしゃる」「お聞きになる」「お尋ねになる」を使います。
- 02
「聞く・尋ねる」の意味かどうか
質問する、話を聞く、なら「伺う」。「参る」には聞くの意味はありません。
- 03
行き先に立てる人がいるか
取引先・お客様・先生のところなら「伺う」(「参る」も可)。出張先の地名、自宅、身内、駅などなら「参る」。
- 04
行き先の人と話している相手が同じか
別の人なら、行き先の人を立てたいときは「伺う」、話している相手に丁重に伝えるだけなら「参る」。
- 05
「来る」の意味なら「参る」
「こちらには何度も参っております」「担当の者が参ります」のように、自分の側がこちらへ来ることは「参る」で表します。
場面別の早見表
| 場面 | 伺う | 参る | そのまま使える一文 |
|---|---|---|---|
| 取引先の会社へ訪問する | ○ | ○ | ◯月◯日(◯)◯時に御社へ伺います。 |
| 相手に質問したい | ○ | × | ◯◯について伺いたいことがございます。 |
| 人から聞いた話を伝える | ○ | × | ◯◯様から伺っております。 |
| 受付で来訪を告げる | ○ | ○ | △△社の□□と申します。◯時のお約束で伺いました。 |
| 上司に呼ばれて行く | ○ | ○ | 承知しました。すぐに参ります。 |
| 出張・移動の予定を伝える | × | ○ | 来週は名古屋の展示会へ参ります。 |
| 社外の人に自社の上司が行くと伝える | ○ | ○ | 当日は弊社の◯◯も伺います。 |
| 面接・説明会に行く(応募者として) | ○ | ○ | ◯月◯日◯時に伺います。 |
| 窓口でお客様に担当者が来ると伝える | ○ | ○ | ただいま担当の者が参りますので、少々お待ちください。 |
| 相手がこちらへ来る | × | × | 当日は◯階の受付までお越しください。 |
注意
相手に来てもらうときのお願いの言い方は「ご足労」の使い方にまとめています。
「お伺いします」「お伺いいたします」は使ってよいか
「お伺いする」は、謙譲語の「伺う」に謙譲の「お〜する」を重ねた形で、形の上では二重敬語です。ただし文化庁「敬語の指針」は、「お伺いする」「お伺いいたす」「お伺い申し上げる」を、習慣として定着している二重敬語の例として挙げています。使っても誤りではありません。
それでも重なりを気にする読み手はいるので、メールでは「伺います」と書けば十分に丁寧で、どちらの立場の人にも引っかかりません。さらに改まりたいときは「伺いたく存じます」のように、後ろの言葉で調整します。
| 言い方 | 評価 | おすすめの場面 |
|---|---|---|
| 伺います | 最もすっきりした形 | メール全般 |
| お伺いします/お伺いいたします | 定着した言い方(気にする人もいる) | 電話・対面のあいさつ |
| 伺いたく存じます | 改まった言い方 | 訪問の打診、取材・ヒアリングのお願い |
| お伺いさせていただきます | 重なりが多く回りくどい | 使わず「伺います」に |
ほかの重なりやすい敬語は二重敬語の一覧で確認できます。
言い換え一覧(尊敬語・謙譲語の対応つき)
行く・来る・聞くの敬語の対応表
| 元の言葉 | 尊敬語(相手の動作) | 謙譲語Ⅰ(向かう先を立てる) | 謙譲語Ⅱ(聞き手に丁重に) |
|---|---|---|---|
| 行く | いらっしゃる、おいでになる | 伺う | 参る |
| 来る | いらっしゃる、お越しになる、お見えになる | ― | 参る |
| 訪ねる | お訪ねになる | 伺う、お訪ねする | ― |
| 聞く | お聞きになる | 伺う、お聞きする、拝聴する | ― |
| 尋ねる | お尋ねになる | 伺う、お尋ねする | ― |
丁寧さ別の言い換え
| 言い方 | 丁寧さ | 使いやすい場面 |
|---|---|---|
| 伺いたく存じます | 最も改まった言い方 | 訪問の打診、改まったお願い |
| 伺います/参ります | 改まった言い方 | 取引先・お客様・上司への連絡 |
| お邪魔いたします | 丁寧(相手の場所に入るとき) | 来訪のあいさつ、訪問直前の連絡 |
| 拝聴します | 改まった言い方(講演・話を聞く) | 講演・セミナーの感想やお礼 |
| お聞きします | 丁寧 | 社内外どちらにも使いやすい |
| 行きます/聞きます | 標準 | 社内の同僚・後輩 |
敬語の一覧をまとめて見たいときは敬語の早見表、訪問の日程調整メール全体はアポイントの依頼メールの例文を参考にしてください。
場面別の例文(メール・電話・対面・社内)
訪問の日時を伝える
件名:◯月◯日のご訪問について
株式会社◯◯
◯◯様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
お打ち合わせの日程をご調整いただき、ありがとうございます。
それでは、◯月◯日(◯)◯時に御社へ伺います。
当日はどうぞよろしくお願いいたします。
訪問を打診する(初めての相手)
件名:ご説明のお時間をいただけないでしょうか
株式会社◯◯
◯◯様
突然のご連絡失礼いたします。株式会社△△の□□と申します。
◯◯について、一度ご説明に伺いたく存じます。
ご都合のよい日時をいくつかお知らせいただけますでしょうか。オンラインでのご説明も可能です。
上司と一緒に訪問することを伝える
件名:◯月◯日のお打ち合わせの出席者について
◯◯様
お世話になっております。株式会社△△の□□です。
◯月◯日(◯)のお打ち合わせには、弊社の部長の◯◯と私で伺います。
◯◯からも、今後の進め方についてご相談したいことがあると申しております。
どうぞよろしくお願いいたします。
訪問の時間に遅れそうなとき
件名:【ご連絡】本日のご訪問が少し遅れます
◯◯様
お世話になっております。株式会社△△の□□です。
本日◯時のお約束ですが、電車の遅れにより、◯分ほど遅れて伺うことになりそうです。
お待たせすることになり、大変申し訳ございません。
到着の目安がわかりましたら、改めてお電話いたします。
相手に質問したいことがある
件名:◯◯の仕様について伺いたいことがございます
◯◯様
お世話になっております。株式会社△△の□□です。
先日お送りいただいた◯◯の仕様書について、伺いたいことがございます。
・◯ページの◯◯は、◯◯の場合も同じ扱いでよろしいでしょうか
・◯◯の締め切りは、◯月◯日(◯)で変わりないでしょうか
お手すきの際にご回答いただけますと幸いです。
聞いた話を踏まえて返事をする
◯◯様
お世話になっております。株式会社△△の□□です。
ご予算の件は、先日のお打ち合わせで◯◯様から伺った内容をもとに、見積もりを作り直しました。
添付の資料をご確認いただけますでしょうか。
出張の予定を取引先に伝える(「参る」)
◯◯様
お世話になっております。株式会社△△の□□です。
◯月◯日から◯日まで、展示会のため名古屋へ参ります。
その間はメールの返信が遅れることがございます。お急ぎの際は、同じ部署の◯◯までご連絡ください。
担当交代のあいさつで、訪問を申し出る
件名:担当交代のごあいさつ(株式会社△△ □□)
株式会社◯◯
◯◯様
いつもお世話になっております。
このたび、前任の◯◯に代わり担当になりました、株式会社△△の□□と申します。
近いうちに、ごあいさつに伺えればと存じます。ご都合のよい日時をお知らせいただけますでしょうか。
就職活動:面接の日時を確認する
件名:面接日時のご確認(氏名)
株式会社◯◯
人事部 ◯◯様
お世話になっております。◯◯大学の□□です。
面接の日程をご連絡いただき、ありがとうございます。
◯月◯日(◯)◯時に、御社へ伺います。
当日はどうぞよろしくお願いいたします。
電話:訪問の約束をする
「それでは、◯日の◯時に伺います。受付で◯◯様のお名前をお伝えすればよろしいでしょうか。」
受付・窓口で(来訪者として/迎える側として)
来訪者:「△△社の□□と申します。◯時に◯◯様とお約束をいただいており、伺いました。」
迎える側:「お待ちしておりました。ただいま担当の◯◯が参りますので、こちらでお掛けになってお待ちください。」
社内:上司に返す・ほかの人のところへ行くと伝える
「承知しました。資料を持って、すぐに会議室へ参ります。」
「これから経理の◯◯部長のところに伺って、決裁をいただいてきます。」
注意
「経理の◯◯部長のところに伺って」は、行き先の◯◯部長を立てる言い方です。同僚に向かって話すときでも、行き先が立てる人なら「伺う」を使えます。結びの「お手すきの際に」は「お手すきの際に」の使い方、引き継ぎのあいさつ全体は担当交代のあいさつメールにまとめています。
よくある間違いと直し方
| 書きがちな言い方 | 気になる点 | 直し方 |
|---|---|---|
| ご不明な点は受付で伺ってください | 「伺う」は謙譲語Ⅰで、お客様の動作には使えない(受付側を立ててしまう) | ご不明な点は受付でお尋ねください/お聞きください |
| 担当者にお聞きしてください | 「お聞きする」も謙譲語Ⅰで、相手の動作には使えない | 担当者にお聞きください |
| ◯◯様が参られました | 「参る」は自分の側の動作に使う言葉。「られる」を付けても、相手を立てる言い方としては適切にならない | ◯◯様がお見えになりました/いらっしゃいました |
| (お客様に)どちらから参りましたか | 相手の動作に「参る」を使っている | どちらからいらっしゃいましたか |
| 実家の祖母のところに伺います | 「伺う」が自分の祖母を立ててしまう | 実家の祖母のところに参ります |
| (社外に)弊社の部長がいらっしゃいます | 自社の人の動作を、社外の人に向けて立ててしまっている | 弊社の◯◯が伺います/参ります |
| 明日、御社へお伺いさせていただきます | 敬語が重なり、回りくどい | 明日、御社へ伺います |
| ◯◯様のお話を伺わせていただきました | 「伺う」に「させていただく」を重ねて回りくどい | ◯◯様のお話を伺いました |
なお、「ご持参ください」「お申し出ください」に含まれる「参」「申」は、謙譲語Ⅱとしての働きを持たないため、相手の動作に使っても問題ないと「敬語の指針」は説明しています。気になる場合は「お持ちください」「おっしゃってください」と言い換えられます。ほかの誤りは間違えやすい敬語の一覧にまとめています。
送信前のチェックリスト
- 動作の主は自分の側か——相手の動作に「伺う」「参る」を使っていないか
- 聞く・尋ねるの意味なら「伺う」になっているか(「参る」には聞くの意味がない)
- 行き先が身内・出張先の地名なら「参る」になっているか
- 行き先の人を立てたいなら「伺う」を選んでいるか
- 「お伺いさせていただきます」など重ねすぎていないか——メールは「伺います」で足りる
- 社外向けに自社の人を立てていないか——「弊社の◯◯が伺います」
- 相手が来るときは尊敬語か——「お越しください」「お見えになる」
「伺います」と連絡を受けたときの返事
相手が来ると連絡してきたら、「お待ちしております」と受け、当日の受付の場所など、相手が迷わないための情報を添えます。
◯◯様
お世話になっております。株式会社△△の□□です。
ご連絡ありがとうございます。◯月◯日(◯)◯時、お待ちしております。
当日は◯階の受付で、私の名前をお伝えください。
お気をつけてお越しください。
当日の受付から見送りまでの流れは来客の受付・案内にまとめています。
根拠にした資料
このページの謙譲語Ⅰ・Ⅱの区別、「弟のところに伺います/参ります」の見分け方、「お伺いする」が習慣として定着した二重敬語であること、「担当者に伺ってください」が不適切である理由は、文化審議会答申「敬語の指針」(文化庁)の原文で確認しました。例文は当サイトで作成したものです。
この記事の要点
- 「伺う」は謙譲語Ⅰ。行き先・話を聞く相手を立て、「行く・訪ねる・聞く・尋ねる」に使う。
- 「参る」は謙譲語Ⅱ(丁重語)。話している相手に自分の側の「行く・来る」を改まって伝える。
- 質問・聞いた話は「伺う」、身内や出張先など立てる人がいない行き先は「参る」。
- 取引先へ行くときはどちらでもよい。メールは「伺います」が無難。
- どちらも相手の動作には使わない。相手が来るなら「お越しになる」「いらっしゃる」。
FAQ
よくある質問
「伺う」は行き先や話を聞く相手を立てる謙譲語Ⅰで、「行く」のほか「聞く」「尋ねる」の意味でも使います。「参る」は話している相手に対して自分の側の「行く・来る」を改まって伝える謙譲語Ⅱで、行き先が立てる相手でなくても使えます。
どちらも使えます。行き先の相手とメールの読み手が同じ人なので、同じように丁寧に働きます。行き先の相手をはっきり立てたいとき、メールで迷ったときは「伺います」が使いやすい言い方です。
形の上では二重敬語ですが、文化庁「敬語の指針」は「お伺いする」「お伺いいたす」を習慣として定着している例に挙げています。誤りではありません。重なりを気にする人もいるので、メールでは「伺います」とするのが無難です。
使えません。「伺う」は行き先の人を立てるため、「祖母のところに伺います」は自分の祖母を立てることになります。「祖母のところに参ります」と言います。
「参る」は自分の側の動作に使う言葉なので、相手には「お越しになる」「いらっしゃる」「お見えになる」を使います。
社外の人に対しては、自社の上司も自分の側として扱い、「弊社の◯◯が伺います」または「弊社の◯◯が参ります」と伝えます。
どちらも使えます。面接官や採用担当者を行き先の相手として立てるなら「伺います」が合います。メールでは「◯月◯日◯時に伺います」と書けば十分です。
相手に質問する、相手から話を聞く、という場面で使えます。「◯◯について伺いたいことがございます」「◯◯様から伺っております」のように使います。講演などを聞く場合は「拝聴する」も使えます。