撮影の実務
絵コンテの書き方
初心者でも書ける手順とテンプレート・記入例
先に結論です。絵コンテは①伝えたいことを一文にする → ②シーンに分ける → ③カットに割る → ④枠に絵を描く → ⑤動きとカメラワークを書く → ⑥セリフ・音・テロップを入れる → ⑦尺を合計して調整するの順に書けば、初めてでも形になります。広告の現場で求められるのは絵のうまさより、全員が同じ映像を思い浮かべられることで、棒人間でも、カットごとに「何が映り、何が聞こえ、何秒か」がそろっていれば役目を果たします。このページでは、そのまま写して使えるテンプレートの欄、記号の書き方、場面の違う記入例3つ、よくある失敗とチェックリストをまとめました。
結論
絵コンテとは、映像をカット(カメラが途切れずに撮るひと続きの単位)ごとに分け、画面の絵と、内容・セリフ・音・尺を書き添えた設計図です。英語ではストーリーボード(storyboard)と呼ばれます。広告主への提案、撮影の準備、編集の基準として、制作の最初から最後まで使われます。
まず結論:最低限そろえる5つ
時間がないときは、カットごとに次の5つが埋まっていれば、撮影の打ち合わせに出せる絵コンテになります。
- 01カット番号:会話で「何番のカット」と呼ぶため
- 02画:何がどこに、どの大きさで映るか(棒人間で可)
- 03動き:人・物・カメラがどう動くか
- 04音と言葉:セリフ、ナレーション、BGM、効果音
- 05尺:そのカットの秒数。合計が全体の尺と合うこと
注意
テロップ(画面の文字)が入る広告は、6つ目としてテロップの欄も最初から作ります。理由は下の「よくある失敗」で説明します。
絵コンテを書く理由
絵コンテを省いて撮影に入ると、撮り終わってから「思っていた映像と違う」が起きます。書く理由は、主に次の3つです。
| 役割 | 具体的に防げること |
|---|---|
| 完成像をそろえる | 広告主・監督・撮影スタッフ・編集者が、それぞれ別の映像を想像したまま進むこと |
| 準備の抜けを見つける | 必要な出演者・衣装・小道具・撮影場所が、撮影当日になって足りないと分かること |
| 尺と予算の見通しを立てる | 撮るカットの数が多すぎて、撮影時間や編集の手間が想定を超えること |
企画コンテ・撮影コンテ・ビデオコンテの違い
広告の制作では、同じ絵コンテでも段階によって役割が変わります。呼び方は会社や業界で違いますが、おおむね次のように分かれます。
| 種類 | 目的 | 見る人 | 書き込みの細かさ |
|---|---|---|---|
| 企画コンテ | 企画の内容を広告主に伝え、了承をもらう | 広告主、代理店 | 雰囲気が伝わるよう色や絵を整える。カメラの細かい指示は少なめ |
| 撮影コンテ(演出コンテ) | 撮影の準備と当日の進行に使う | 監督、撮影・照明・美術などのスタッフ | カメラの位置や動き、小道具、衣装替えまで書く |
| ビデオコンテ(Vコン) | 絵や仮の素材を動画にして、尺や流れを確かめる | 広告主、制作スタッフ | 仮のナレーションや音を当てて、テンポを確かめる |
企画の段階から撮影の段階に進むと、カットが増えたり順番が入れ替わったりします。どの版が最新かを表紙に書いておくと、PPMで混乱しません(PPMとは)。
用途別に気をつける点
書き方の基本は同じでも、どこで流す映像かによって、絵コンテで先に決めておくことが変わります。
| 用途 | 絵コンテで先に決めること |
|---|---|
| テレビCM | 尺がきっちり決まっているので、カットごとの秒数とナレーションの文字量を早めに固める。最後の商品・ロゴのカットの長さも確保する |
| ウェブの動画広告(横長) | 冒頭で見るのをやめられることがある前提で、商品や伝えたいことを最初のカットに寄せる。音を出さずに見られる場合に備え、テロップで内容が分かるようにする |
| 縦型のSNS広告 | 枠を縦長で描く。画面の上下にアプリの表示が重なることがあるので、文字や商品を中央寄りに置く |
| イベントのオープニング映像 | 会場のスクリーンの比率に合わせて枠を描く。映像が終わる瞬間と、司会・照明・音響のきっかけ(キュー)を欄の外に書く |
| 社内向け・説明動画 | 画面に出す資料や操作画面を、どのカットで何を見せるか一覧にしておく。話す人の言葉を先に原稿にする |
注意
各媒体の細かい規定(入稿の形式や表示の決まり)は、媒体社・プラットフォームの最新の案内で確認してください。
そのまま使えるテンプレートの欄
書式は会社で違いますが、縦にカットを並べ、横に次の欄を並べる形がよく使われます。表計算ソフトやスライドに、この欄をそのまま写して使えます。
| 欄 | 書くこと | 書き方のコツ |
|---|---|---|
| カット番号 | 1から順に | 差し込みは「3A」「3B」のように枝番にすると、後ろの番号を振り直さずに済む |
| 画(絵) | 画面に映るもの。人物の位置、商品の向き、背景 | 枠は流す画面と同じ比率で描く |
| 内容・動き | 人物や物がどう動くか、カメラがどう動くか | 動きは矢印、カメラは記号(下の表)で |
| セリフ・ナレーション | 話す言葉と、誰が話すか | 「NA」「人物名」のように話し手を頭に書く |
| 音 | BGM、効果音(SE)、無音にする場所 | 音が入る・切れる位置をカット番号で示す |
| テロップ・文字 | 画面に入れる文字、注意書き、ロゴ | 文言が未確定なら「仮」と書いて残す |
| 尺 | そのカットの長さ(秒) | 最後の行に合計を出し、全体の尺と比べる |
| 備考 | 小道具、衣装、撮影場所、縦型でも撮るか | 撮影当日の準備に使う情報はここへ |
表紙(1枚目)には次の項目を書いておきます。
- 案件名・映像のタイトル
- 版(第◯版)と更新日、前の版から変えた点
- 全体の尺と、流す場所(テレビ・ウェブ・SNS・会場)と画面の比率
- 伝えたいことの一文
- 作成者と連絡先
絵コンテの書き方(7つの手順)
- 01
伝えたいことを一文にする
「この映像を見た人に何を思ってほしいか」を一文で書きます。カットを足すか迷ったとき、この一文に戻ります。
- 02
シーンに分ける
場所や時間が変わるところで区切ります。例:「朝の通勤」「オフィス」「商品の紹介」。台本がある場合は、台本の場面の区切りに合わせます。
- 03
シーンをカットに割る
ひと続きで撮る単位に分けます。表情を見せたいところは寄り、場所を見せたいところは引き、のように画の大きさを変えながら割ります。同じ大きさの画が続くと単調になります。
- 04
枠に絵を描く
流す画面と同じ比率の枠の中に、人物・商品・背景の位置関係が分かる程度の絵を描きます。棒人間、丸と四角、写真の切り抜きでも構いません。
- 05
動きとカメラワークを書き込む
人物の動きは枠の中の矢印で、カメラの動きは枠の外の矢印と記号で書きます(下の表)。
- 06
セリフ・音・テロップを入れる
話す言葉と音を入れ、ストップウォッチで計りながら声に出して読み、尺に収まるか確かめます。
- 07
尺を合計して調整する
全体の尺に合わない場合は、カットを減らすか、セリフを短くします。削るときは、最初に書いた一文に関係の薄いカットから外します。
シーンとカットの割り方
初心者がいちばん迷うのが、どこでカットを割るかです。迷ったら、次のどれかに当てはまる場所で割ります。
- 見せたいものが変わるとき(人物の顔 → 商品)
- 画の大きさを変えたいとき(引きで場所を見せる → 寄りで表情を見せる)
- 視点が変わるとき(話している人 → 聞いている人)
- 時間や場所が飛ぶとき(これはシーンの区切りにもなる)
反対に、意味もなくカットを増やすと、撮影の手間と準備が増えます。一つのカットで動きを見せられるなら、カメラを動かす(パンやフォロー)ほうが手早いこともあります。
カメラワーク・場面転換の書き込み方
| 言葉 | 意味 | 絵コンテへの書き方の例 |
|---|---|---|
| アップ(寄り) | 顔や商品を大きく映す | 枠いっぱいに対象を描き「UP」と書く |
| バストショット | 胸から上を映す | 胸から上の人物を描く |
| ロング(引き) | 場所全体や全身を映す | 人物を小さく、背景を広く描く |
| パン | カメラを左右に振る | 枠の外に横向きの矢印と「PAN」 |
| ティルト | カメラを上下に振る | 枠の外に縦向きの矢印と「TILT」 |
| ズーム(イン・アウト) | レンズで画を寄せる・引く | 枠の中に小さな枠を描き、矢印でつなぐ |
| ドリー・移動 | カメラごと前後・左右に動く | カメラの通り道を矢印で描き「移動」と書く |
| フォロー | 動く人や物を追いかけて撮る | 追う対象に矢印を付け「FOLLOW」と書く |
| フィックス | カメラを動かさない | 「FIX」と書く |
| ナメ | 手前に人や物を入れ込んで奥を映す | 手前の肩や物を枠の端に描く |
| 俯瞰(ふかん)・アオリ | 上から見下ろす・下から見上げる | 「俯瞰」「アオリ」と書き、地面の線を斜めに描く |
カットとカットのつなぎ方(場面転換)は、カットの間に書きます。
| つなぎ方 | 意味 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| カット(切り替え) | そのまま次の画に切り替える | 何も書かなければこの扱いにすることが多い |
| OL(オーバーラップ) | 前の画が消えながら次の画が重なる | カットの間に「OL」 |
| F.I./F.O. | 黒や白から出てくる・黒や白に消える | 「F.O.(黒)」のように色を添える |
| ワイプ | 画面を拭き取るように切り替わる | 向きを矢印で添えて「WIPE」 |
注意
記号の使い方は現場で違うことがあります。迷う記号は、表紙の下に「記号の意味」を一行ずつ書いておくと確実です。現場で使う言葉は撮影用語一覧にまとめています。
記入例1:CM・ウェブ動画広告(横長)
架空の「出張の精算が早くなる業務アプリ」の広告の例です。尺は◯で伏せています。
| カット | 画 | 内容・動き | セリフ・音 | テロップ | 尺 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 夜のオフィス。机に領収書の山(引き) | 社員がため息をつく。FIX | SE:時計の音 | なし | ◯秒 |
| 2 | 社員の手元(寄り) | 領収書をめくる手 | NA「出張のあと、まだこれ?」 | 同じ文言を字幕で | ◯秒 |
| 3 | スマートフォンの画面(UP) | 領収書を撮ると項目が入力される | SE:入力音 | 商品名 | ◯秒 |
| 4 | 昼のオフィス。肩ナメで社員の笑顔 | 同僚に画面を見せる。ゆっくりPAN | BGM入る | なし | ◯秒 |
| 5 | 商品ロゴ(白い背景) | ロゴが出る | NA「精算は、撮るだけ。」 | ロゴ、注意書き | ◯秒 |
縦型の動画やSNS向けに比率の違う素材を作る予定なら、どのカットを縦でも撮るかを備考の欄に書いておきます。撮影のあとで作り足すのは難しいことが多いためです。素材の使い道を決めておく話は二次利用とはにあります。
記入例2:縦型のSNS広告
架空の「駅前の焼き菓子店」の新商品を知らせる縦型動画の例です。音なしで見られても伝わるよう、テロップを中心に組んでいます。
| カット | 画(縦長の枠) | 内容・動き | 音 | テロップ | 尺 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 焼きたての菓子を割る手元(UP) | 割った断面から湯気。FIX | SE:割れる音 | 「焼きたて、◯時から」 | ◯秒 |
| 2 | 店の外観(引き) | 入口に向かって移動 | BGM | 店名 | ◯秒 |
| 3 | ショーケースの新商品(寄り) | ゆっくりTILT DOWN | BGM | 商品名と価格 | ◯秒 |
| 4 | 店員が商品を手渡す(バスト) | 客の肩ナメ | BGM | 「期間限定」 | ◯秒 |
| 5 | 店名ロゴと地図 | ロゴが出る | BGM終わり | 店名、住所、営業時間 | ◯秒 |
縦型では、文字を画面の中央寄りに置き、画面の上下は空けておきます。価格や期間など変わりやすい情報は、テロップの欄に確認した日付を添えると差し替えの漏れを防げます。
記入例3:イベントのオープニング映像
架空の「社内表彰式」の開始に流す映像の例です。会場で流す映像は、映像の外の進行(照明・音響・司会)とつながるので、きっかけの欄を足しています。
| カット | 画 | 内容・動き | 音 | テロップ | 会場のきっかけ |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 黒い画面 | F.I. | BGM入る | なし | 客席の照明を落とす |
| 2 | 社員の働く様子の写真(引き) | 写真がゆっくりズームイン | BGM | 「この一年の挑戦」 | なし |
| 3 | 部署ごとの集合写真 | 写真がOLで切り替わる | BGM | 部署名 | なし |
| 4 | 表彰式のタイトル | タイトルが出る | BGM盛り上がる | 式の名前と年度 | なし |
| 5 | 黒い画面 | F.O. | BGM終わり | なし | 司会にスポットライト、司会の第一声 |
会場のきっかけは、司会・照明・音響のスタッフが見るキューシートにも同じ内容を書き写しておきます。
よくある失敗と防ぎ方
| 失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| テロップの欄がない | 撮影後に注意書きや字幕を入れる場所がなく、画面に収まらない | テロップの欄を最初から作り、文字が入る位置を絵にも描く |
| 枠の比率が流す画面と違う | 横長で描いたのに縦型で流し、商品や顔が切れる | 表紙に比率を書き、その比率の枠で描く |
| 尺を計っていない | ナレーションが入りきらず、撮影や編集のあとで削ることになる | 声に出してストップウォッチで計り、カットごとに書く |
| 版の管理がない | 古い版を見たスタッフが、変更前の小道具や衣装を用意する | 表紙に第◯版・日付・変更点を書き、ファイル名にも版を入れる |
| 絵を描き込みすぎる | 清書に時間がかかり、直しのたびに描き直しになる | 撮影コンテは位置関係が分かる程度にとどめ、言葉で補う |
| 伝えたいことが複数ある | カットが増え、どれも印象に残らない | 一文に絞り、関係の薄いカットは外す |
共有する前のチェックリスト
- 表紙に案件名・版(第◯版)・日付・変更点を書いた
- 流す場所と画面の比率を書き、その比率の枠で描いた
- 伝えたいことの一文と、カットの内容がずれていない
- 尺の合計が全体の尺に合っている
- セリフとナレーションを声に出して計り、尺に収まった
- テロップや注意書きの入る場所がある
- 商品・ロゴの向きと見え方が分かる
- 出演者の人数と、衣装の替えが分かる
- 比率の違う素材を作るなら、どのカットが対象か書いた
- 撮影場所がまだ決まっていないカットに印をつけた
- 記号の意味が分からない人がいないか、表紙に凡例を書いた
この記事の要点
- 絵コンテに必要なのは絵のうまさより、全員が同じ映像を思い浮かべられること。
- 書く順番は一文 → シーン → カット → 絵 → 動き → 音と言葉 → 尺。
- 欄はカット・画・内容・セリフ・音・テロップ・尺・備考をそろえ、表紙に版と比率を書く。
- 枠は流す画面と同じ比率で描き、テロップの入る場所を最初から決めておく。
- セリフは声に出して計り、合わなければ一文に関係の薄いカットから削る。
FAQ
よくある質問
書けます。棒人間や丸と四角、写真の切り抜きでも、人物や商品の位置関係とカメラの向きが分かれば役目を果たします。広告主に見せる企画コンテは、イラストを描く人に清書してもらうこともあります。
呼び方が違うだけで、指すものはほぼ同じです。海外の制作会社や英語の資料とやり取りするときは「storyboard」と書けば通じます。社内で両方の言葉が混ざっている場合は、どちらかに統一しておくと、別の資料だと勘違いされずに済みます。
カット番号、画(絵)、内容・動き、セリフ・ナレーション、音(BGM・効果音)、テロップ、尺、備考の欄を作るとまとまります。注意書きが必要な広告では、テロップの欄を最初から設けておきます。
シーンは場所や時間がひと続きの場面のまとまりで、カットはカメラで途切れずに撮る一つの単位です。一つのシーンを、引きや寄りなど複数のカットに割って撮ります。
決まった枚数はありません。全体の尺を、一つのカットを見せたい長さで割ると、おおよその枚数が出ます。テンポよく見せたい映像はカットが多く、じっくり見せたい映像は少なくなります。
撮影する人と企画する人が違う場合や、広告主の確認が必要な場合は、短い動画でも書いておくと撮り直しを防げます。一人で撮る簡単な動画なら、カットと尺を並べた一覧だけでも役に立ちます。
表計算ソフトやプレゼンテーションソフトに、欄を並べた枠を作っておくと共有しやすくなります。手描きの絵をスキャンや写真で取り込んで貼る方法もあります。会社で使っている書式があればそれに合わせます。
カット番号で「何番のカットの、どの欄を、どう変えるか」を伝えます。修正後は版の番号を上げ、表紙に変更点を書いておくと、古い版で準備を進める人が出ません。