撮影の実務
ロケハンとは
意味・やり方・確認事項とチェックリスト
結論:ロケハンは「撮影(やイベント)に使う場所の下見」です。確かめるのは、映りの良さと、その場所で撮影ができる条件(光・音・電源・車両・控室・管理者の了承)の両方。見落としやすいのは「画はきれいだったのに、当日使えなかった」という失敗です。このページでは、意味と使い方、誰が・いつ行くか、準備と持ち物、現場での確認事項、依頼とお礼のメール例文、資料のひな形、チェックリストまでを一度にまとめました。
結論
ロケハンとは、ロケーション・ハンティング(location hunting)の略で、撮影場所の候補を実際に見て回り、撮影に使えるかを確かめる下見のことです。英語では location scouting と言うことが多く、ロケハンは和製の言い方とされます。映像・写真の現場から広まった言葉で、イベント会場や店舗の下見を「ロケハン」と呼ぶ人もいます。
ロケハンの意味と、似た言葉との違い
ロケハンの目的は、候補地の中から撮影場所を決めることと、決めた場所でどこにカメラを置き、どう撮るかの見当をつけることです。絵コンテのどのカットをどこで撮るかを、現場を見ながら当てはめていきます。
| 言葉 | 意味 | ロケハンとの違い |
|---|---|---|
| ロケハン | 撮影場所の候補を見て、使えるかを確かめる | — |
| 下見・現地調査 | 場所を前もって見ておくこと全般 | 撮影に限らない。社外の人には「下見」のほうが通じやすい |
| シナハン | シナリオ・ロケハンの略とされ、脚本を書くために舞台となる土地を調べる取材 | 場所を決めるためではなく、話や設定の材料を集めるために行く |
| 会場下見(会場見学) | イベント会場の広さ・設備・費用を確かめる | 見るのは収容人数や設備が中心。カメラの位置や光はあまり問わない |
| ロケ | ロケーション撮影。スタジオの外で撮ること | ロケは撮影そのもの、ロケハンはその前の下見 |
会話・メールでの使い方(例文)
- 「来週の火曜に、候補地のロケハンに行ってきます。」
- 「ロケハンの写真を共有フォルダに上げました。カットごとに番号を振っています。」
- 「監督とカメラマンの日程が合えば、◯日にメインのロケハンを入れたいです。」
- 「社外の方には『撮影場所の下見』と言い換えたほうが伝わります。」(施設の管理者へは、業界の言葉を避けるのが無難です)
- 「イベント会場のロケハン」は伝わりますが、社内向けの言い方です。案内文では「会場の下見」と書きます。
誰が行くか、いつ行くか
| 誰が行くか(例) | 主に見ること |
|---|---|
| 監督・ディレクター | 演出の意図に合うか、カットの割り方 |
| カメラマン | 画角、光の向き、カメラの置き場所 |
| 照明 | 電源、照明機材を置ける場所、外光の入り方 |
| 録音 | 周りの音、同時録音ができるか |
| 美術 | 飾りを足す・隠す必要があるもの |
| 制作(プロデューサー・制作部) | 許可、車両、控室、トイレ、費用、近隣への配慮 |
誰が何人で行くかは、案件の規模や会社で違います。分け方の一例は次のとおりです(呼び方も現場で違います)。
- 01
候補探し(制作部だけで回る)
条件に合いそうな場所を広く回り、写真と条件を集めて候補を絞ります。
- 02
メインのロケハン(主要スタッフで回る)
監督・カメラマン・照明などが、絞った候補で画とカットの割り方を決めます。広告主が同行するかは案件次第です。
- 03
技術の下見(必要なときだけ)
電源の容量、機材の搬入、クレーンや特機を置く場所など、技術の条件だけを詰めに行きます。
いつ行くかに決まった日数はありません。撮影場所の了承と許可の手続き、PPMでの確認、香盤表の作成に間に合うよう、撮影日から逆算します。道路を使う撮影について、警察庁の通達(令和7年7月4日)は、十分な時間的余裕をもって事前相談することが有効だとしています。許可の相手が多い場所ほど、ロケハンも早めに入れます。
行く前の準備と持ち物
- 01
撮りたい条件を書き出す
絵コンテや企画書から「屋内か屋外か」「何人が映るか」「同時録音か」「使いたい時間帯」を書き出し、候補を選ぶ基準にします。
- 02
候補地を挙げて、管理者を調べる
候補ごとに、誰の了承が要るか(施設の管理者、店舗、自治体など)を先に調べます。了承が取れない場所は、画が良くても使えません。許可の相手の洗い出しは撮影許可申請書の書き方にまとめています。地域のフィルムコミッションに相談できる場合もあります。
- 03
下見の了承を取る
敷地の中を見る・写真を撮るなら、ロケハンの時点で管理者に断っておきます(下の例文を参照)。撮影の相談の入り口にもなります。
- 04
撮影予定と同じ時間帯に行く
光の向きや人通りは、時間帯と曜日で大きく変わります。撮影予定の時刻に合わせて回るか、行けない時間帯の様子を管理者に聞いておきます。
- 05
絵コンテと香盤の案を持っていく
どのカットをどこで撮るかを現場で当てはめるため、絵コンテを印刷するか端末で見られるようにしておきます。
持ち物の例
| 持ち物 | 使いみち |
|---|---|
| カメラまたはスマートフォン | 写真と短い動画。予定のカメラに近い画角で撮れると判断しやすい |
| 方角が分かるもの(コンパスのアプリなど) | 日の当たり方と、時間による変化を読む |
| メジャー | 通路の幅、天井の高さ、機材や車が通るか |
| 絵コンテ・候補地の地図と住所の一覧 | カットの当てはめ、回る順番 |
| 名刺・案件の概要を書いた紙 | 現地で管理者や近隣の方に説明する |
| 筆記具とメモ(または記録用のアプリ) | 位置と写真の番号を対応させる |
| モバイルバッテリー・天候に合わせた服装と靴 | 屋外を長く歩くため |
現場で確認すること
| 区分 | 確認すること |
|---|---|
| 画 | カメラを置いたときの背景(抜け)、映ってはいけない看板や他社のロゴ・個人の家、季節や工事で変わりそうなもの |
| 光 | 日の当たる向きと時間帯での変化、窓からの外光、室内の照明の色 |
| 音 | 車や電車、工事、空調、チャイムや館内放送。同時録音するなら特に重要 |
| 電源 | 使えるコンセントの位置と、借りられるかどうか。使えない場合の代わり |
| 車両・搬入 | ロケバスや機材車を停める場所、機材を運ぶ経路、エレベーター |
| 人の居場所 | 控室、メイク場所、トイレ、待機場所、食事をとれる場所 |
| 周囲 | 人通り、近隣の住宅や店舗、公道にはみ出さないか |
| 雨・安全 | 雨のときに逃げ込める場所、足元、段差、高所、非常口 |
| 条件・費用 | 使える時間帯、利用料の有無、禁止事項、原状回復の範囲 |
Point
カメラの位置だけでなく、機材・車両・人の待機場所も「どこを使うか」を確かめてください。 道路交通法第77条第1項第4号は、道路で「ロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような」使い方のうち、公安委員会が定めたものを警察署長の許可の対象にしています。敷地の中で撮るつもりでも、機材や車両、待機する人が道路にはみ出すなら、許可が要るかを管轄の警察署に確かめます。線引きはロケ撮影の道路使用許可、空撮をするならドローンの許可・承認を参照してください。
イベント会場のロケハンで足して見ること
イベントの会場を下見する場合は、撮影の項目に加えて次を見ます。詳しくはイベント会場の下見チェックリストにまとめています。
- 収容人数、天井の高さ、柱の位置(客席からステージが見えるか)
- 電源の位置と容量、Wi-Fiの品質、空調の効き
- 最寄り駅からの道順、駐車場、バリアフリーの経路
- マイク・スピーカー・照明など備え付けの設備と、持ち込みの可否
- 受付から客席までの動線、非常口、AEDの場所
- 基本料金以外にかかる費用(設備の使用料、延長など)とキャンセルの規定
ロケハンの依頼・お礼メールの例文
施設の管理者は撮影の言葉に慣れていないことがあります。「ロケハン」より「撮影場所の下見」と書き、何をしに行くかを具体的に伝えます。
施設に下見をお願いするメール
件名:撮影場所の下見のお願い(◯◯株式会社)
◯◯ご担当者様
突然のご連絡失礼いたします。◯◯株式会社の◯◯と申します。
現在、◯◯(商品名)の映像広告を制作しており、撮影場所の候補として貴施設を検討しております。
つきましては、撮影場所の下見として、施設内を拝見させていただくことは可能でしょうか。
■希望日時:◯月◯日(◯)◯時〜◯時(撮影予定と同じ時間帯を希望しております)
■人数:◯名(制作担当、カメラマンほか)
■内容:見学と、記録用の写真撮影(社内の検討にのみ使用します)
■撮影の予定:◯月◯日ごろ、◯時間程度、出演者◯名
ご都合の悪い日時や、立ち入りできない場所がございましたらお知らせください。
何卒よろしくお願いいたします。
下見のあとのお礼メール
件名:本日の下見のお礼(◯◯株式会社)
◯◯様
本日はお忙しいところ、施設をご案内いただき、ありがとうございました。
電源や搬入口の場所まで丁寧にご説明いただき、大変助かりました。
社内で検討のうえ、◯月◯日までに撮影のお願いをするかどうかをご連絡いたします。
お願いする場合は、撮影内容と日程をまとめた書面をあらためてお送りします。
引き続き、よろしくお願いいたします。
見送るときの連絡
件名:撮影場所の検討結果のご連絡(◯◯株式会社)
◯◯様
先日は下見の機会をいただき、ありがとうございました。
社内で検討いたしました結果、今回は撮影の内容との兼ね合いで、別の場所で撮影することになりました。
ご協力いただいたにもかかわらず、ご期待に沿えず申し訳ございません。
また別の機会にご相談させていただけますと幸いです。
スタッフへの集合連絡
件名:【ロケハン】◯月◯日(◯)◯◯案件
お疲れさまです。◯◯です。ロケハンの予定を共有します。
■集合:◯時◯分 ◯◯駅◯◯口(車で移動します)
■回る順:①◯◯公園 → ②◯◯ビル屋上 → ③◯◯商店街
■見たいカット:絵コンテ C3〜C7(添付)
■管理者の了承:①②は取得済み、③は外から見るだけ
■持ち物:カメラ、メジャー、方角が分かるアプリ
■解散:◯時ごろの見込み
雨天の場合は前日の◯時までにご連絡します。
注意
撮影が終わったあとのお礼は撮影のお礼メールに例文をまとめています。
写真の撮り方とロケハン資料のひな形
ロケハンの写真は、あとで来られなかった人が現場にいるつもりで判断できるように撮ります。
- 同じ場所を広く(全体)と寄り(細部)の両方で撮る
- カメラを置く予定の位置から、実際の画に近い高さと向きで撮る
- 反対側(カメラの後ろ側)も撮る。機材や人の置き場の判断に使う
- 電源、搬入口、駐車場所、控室、トイレも撮る
- 撮った時刻と方角をメモに残す。短い動画で周りを一周撮っておくと、位置関係が伝わる
- 写り込んだ人の顔や車のナンバーが分かる写真は、関係者の中だけで扱う
ロケハン資料に入れる項目
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 場所の基本 | 名称、住所、管理者と連絡先、了承の状況 |
| 写真 | 全景、カメラ位置からの画、反対側、設備 |
| 使うカット | 絵コンテのどのカットをここで撮るか |
| 条件 | 使える時間帯、利用料の有無、禁止事項 |
| 設備 | 電源、控室、トイレ、駐車 |
| 気になる点 | 音、人通り、映り込み、雨のときの案 |
| 評価 | 候補の中での順位と、その理由 |
1か所ごとのひな形(そのまま使えます)
【候補◯】◯◯(場所の名称)
住所:◯◯ / 管理者:◯◯(電話◯◯) / 了承:取得済み・相談中・未
見た日時:◯月◯日 ◯時〜◯時 天気:◯◯
使うカット:C◯、C◯
写真:No.◯〜◯(全景/カメラ位置/反対側/電源/搬入口/控室)
光:◯時ごろ◯側から日が入る。◯時以降は建物の影
音:◯◯の音あり(◯分おき程度)
電源:◯◯にあり、借用は要相談
車両・搬入:◯◯に◯台、搬入口からエレベーターあり
控室・トイレ:◯◯
道路にかかるか:かかる・かからない(かかる場合は道路使用許可を検討)
条件・費用:◯◯
気になる点:◯◯
評価:◎・○・△(理由:◯◯)
ロケハンでよくある失敗と防ぎ方
| 失敗 | 防ぎ方 |
|---|---|
| 晴れた昼に見て決めたが、撮影は夕方で逆光だった | 撮影予定と同じ時間帯に行く。方角を記録する |
| 平日に見たが、撮影の土日は人通りが多かった | 撮影と同じ曜日に行くか、管理者に混む日時を聞く |
| 同時録音のつもりが、空調や電車の音で使えなかった | その場で数分、音を録って持ち帰る |
| 画は良いが、機材車を停める場所がなかった | 駐車場所と搬入経路を写真に残す。道路にかかるかを確かめる |
| 写真だけでは位置関係が分からず、もう一度行くことになった | 全景・カメラ位置・反対側をそろえ、短い動画で一周撮る |
| 下見の了承を取らずに入り、撮影の相談がこじれた | 下見の段階で管理者に連絡し、目的を伝える |
| 了承を口頭だけで済ませ、担当者が替わって話が通っていなかった | 条件をメールや書面で残す |
ロケハンのチェックリスト
- 撮りたい条件(屋内外・人数・同時録音・時間帯)を書き出した
- 候補地ごとに、了承を取る相手が分かっている
- 下見の時点で、管理者に見学と写真撮影の了承を取った
- 撮影予定と同じ時間帯・曜日の光と人通りを確かめた
- 背景に映ってはいけないもの(看板・他社のロゴ・個人の家など)を確かめた
- 音(交通・工事・空調・放送)を確かめ、必要なら録って持ち帰った
- 電源の位置と、借りられるかを確かめた
- 車両の停め場所と、機材の搬入経路を確かめた
- 控室・メイク場所・トイレ・食事の場所を確かめた
- 機材や車両が公道にかかるかを確かめた
- 雨のときの代わりの場所や撮り方を考えた
- 写真に番号を振り、位置・時刻・方角をメモした
- 利用料と禁止事項、原状回復の範囲を管理者に聞いた
- 了承の内容をメールや書面で残した
- 結果をロケハン資料にまとめ、PPMと香盤表に反映した
この記事の要点
- ロケハンはロケーション・ハンティングの略で、撮影場所の下見のこと。社外には「撮影場所の下見」と言い換える。
- 画の良さだけでなく、光・音・電源・車両・控室・許可まで確かめる。
- 撮影予定と同じ時間帯・曜日に行くと、光と人通りの違いで失敗しにくい。
- 写真は広く・寄り・カメラ位置・反対側を撮り、位置と時刻をメモする。
- 了承はメールや書面で残し、決まったことはPPMの資料と香盤表に反映する。
FAQ
よくある質問
ロケーション・ハンティング(location hunting)の略です。撮影場所の候補を実際に見て回る下見を指します。英語では location scouting と言うことが多く、ロケハンは和製の言い方とされます。
ロケハンは撮影のための下見で、カメラの位置や光、撮影の条件まで見ます。下見は場所を前もって見ること全般を指す言葉です。社外の方には「撮影場所の下見」と伝えると通じやすくなります。
シナリオ・ロケハンの略とされ、脚本を書くために、物語の舞台となる土地を調べる取材を指します。撮影場所を決めるロケハンとは目的が違います。
監督・ディレクター、カメラマン、照明、録音、美術、制作部などが行きます。最初の候補探しは制作部だけで回り、絞り込んだあとに主要なスタッフで行くという分け方もあります。人数や顔ぶれは案件の規模や会社で違います。
決まった日数はありません。撮影場所の了承や許可の手続き、PPMでの確認、香盤表の作成に間に合うよう、撮影日から逆算して決めます。許可に時間がかかる場所ほど早めに動きます。
そう呼ぶ人もいますが、社内向けの言い方です。案内文や社外への連絡では「会場の下見」と書くほうが伝わります。見る項目は、収容人数や設備、費用が中心になります。
管理者がいる場所では、見学と写真撮影の了承を先に取っておくのが安全です。写真に写り込んだ人の扱いにも気をつけ、資料は関係者の中だけで使います。
場所によって違うため、下見に費用がかかるかは管理者に事前に確かめます。あわせて、回る人数分の交通費や人件費もかかるので、見積もりの段階で入れておきます。