スピーチ
スピーチ暗記のコツ
忘れない覚え方とカンペ例
「途中で忘れたらどうしよう」。スピーチの不安の多くはここにあります。原稿を一字一句そのまま再生しようとすると、言い回しが一つ崩れたところで話全体が止まりやすくなります。崩れにくいのは、話の順番と要所の言葉だけを覚え、言い回しはその場に任せるやり方です。このページでは、覚えやすい原稿への直し方、覚え方の手順、準備期間別の練習計画、場面別にそのまま使えるカンペの例、本番で詰まったときのつなぎ方までを一つにまとめました。
結論
スピーチを忘れないコツは次の四つです。①話題を一つに絞り、結論を最初と最後に置く ②最初の一文と最後の一文だけは正確に覚える ③途中は話の順番(見出し)とキーワードで覚え、原稿を伏せて思い出す練習をする ④見出しとキーワードを大きく書いたカンペを手元に置く。全文暗記は、乾杯の発声のような短い決まり文句だけで十分です。
結論:全文暗記より「順番とキーワード」で覚える
| 覚え方 | 本番での強さ | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 一字一句すべて暗記 | 言い回しが一つ崩れると止まりやすい | 短い決まり文句、乾杯の発声など |
| 順番とキーワードを覚え、言葉はその場で | 言い回しが変わっても話は続く | 朝礼、歓送迎会、自己紹介、社内の挨拶など多くの場面 |
| 原稿を読む | 忘れる心配がない | 式典の式辞・祝辞、正式な謝辞など |
多くのスピーチは、二つ目の「順番とキーワード」で足ります。言い回しが原稿と少し違っても、聞き手はほとんど気づきません。目立つのは、止まってしまうことのほうです。
Point
最初の一文と最後の一文だけは、正確に覚えてください。出だしが決まると落ち着き、終わり方が決まっていれば話を締められます。途中で迷っても、最後の一文に飛べば終えられます。
暗記の前に:覚えやすい原稿に直す
覚えられないのは、記憶力より原稿の作りが原因のことがよくあります。練習を始める前に、次の五点で原稿を直すと覚える量そのものが減ります。
| 直すところ | 覚えにくい原稿 | 覚えやすい原稿 |
|---|---|---|
| 話題の数 | 趣味・仕事・家族と話題を並べる | 話題は一つに絞り、一つの出来事を詳しく話す |
| 結論の位置 | 最後まで何の話か分からない | 最初に結論を言い、最後にもう一度言う |
| 一文の長さ | 「〜で、〜ので、〜けれど」と続く | 一文を短く切り、一文に一つの内容 |
| 言葉づかい | 書き言葉・難しい漢語が多い | ふだん口にする話し言葉 |
| 目印 | 抽象的な言葉が続く | 人名・場所・数字・出来事など、思い出す手がかりになる具体語が入っている |
直す前と後の例(自己紹介)
【直す前】◯◯部に配属されました◯◯です。趣味は映画鑑賞と料理とランニングで、休日はいろいろなことをしています。前職では営業や事務など幅広く担当しておりました。どうぞよろしくお願いいたします。
【直した後】◯◯部に配属されました◯◯です。休日は走っています。先月、初めて地元のマラソン大会を完走しました。途中で足が止まりかけたとき、沿道の方の声援で最後まで走れました。仕事でも、周りの方に助けていただきながら一歩ずつ進みたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
直した後のほうが文は多くても、「マラソン→足が止まる→声援→仕事でも」と一本の流れになっているので、順番を思い出すだけで話せます。話題を並べた原稿は、項目の順番そのものを覚える必要があり、抜けやすくなります。
覚え方の手順
- 01
原稿を段落に分け、見出しを付ける
「挨拶」「結論」「エピソード」「お願い」「結び」のように、段落ごとに短い見出しを付けます。
- 02
段落ごとにキーワードを一つか二つ選ぶ
その言葉を見れば段落の中身を思い出せる言葉を選びます。人名・数字・出来事の名前などが向いています。
- 03
原稿を伏せて、思い出しながら声に出す
読み返すより、原稿を見ずに思い出そうとするほうが覚えたかどうかがはっきりします。見出しとキーワードだけを見て話し、言い回しが変わってもかまいません。
- 04
詰まった段落だけ原稿で答え合わせをする
全体を読み直さず、詰まったところだけ確認して、もう一度その段落の見出しから話します。
- 05
立って、本番の速さで通す
座ったままの練習と、立って話す本番では感覚が違います。タイマーで時間も計ります。
- 06
場所や時間を変えて通す
同じ机の前でしか話せない状態を避けるため、通勤中に頭の中で、家では声に出して、など条件を変えて通します。
- 07
前日に通し、当日は確認だけにする
前日に一度通して詰まりやすい段落を把握しておけば、当日の朝は最初の一文と見出しの順番、その段落だけを確かめれば足ります。
注意
原稿の長さが持ち時間に合っているかはスピーチの文字数と時間の目安で確かめてください。長すぎる原稿は、覚える前に削るのがいちばんの近道です。
練習のやり方と、それぞれの使いどころ
| 練習のやり方 | 具体的には | 向いている使いどころ |
|---|---|---|
| 声に出して話す | 小声でなく、本番に近い声量で話す | どの段階でも。黙読だけでは本番の口の動きに慣れない |
| 原稿を伏せて思い出す | 見出しだけ見て話し、あとで原稿と照らし合わせる | 覚え始めから。どこが抜けるかが分かる |
| 録音して聞き返す | スマートフォンの録音で一回通し、聞き返す | 通せるようになってから。早口・口癖・間の取り方に気づける |
| 人に聞いてもらう | 家族や同僚に一度聞いてもらう | 本番の数日前。人の目がある状態に慣れる |
| 指で数えながら話す | 段落ごとに指を一本ずつ折る | 段落の数が多いとき。抜けた段落にすぐ気づける |
| 場所に順番を結びつける | 自宅の玄関・廊下・台所…と歩く順に、段落を一つずつ割り当てて思い浮かべる | 順番がどうしても入れ替わるとき |
| 書き出す | 見出しとキーワードだけを白紙に書き出す | 声を出せない場所での確認 |
全部やる必要はありません。「原稿を伏せて声に出す」と「立って時間を計って通す」の二つを軸にし、残りは自分の詰まり方に合わせて足してください。
準備期間別の練習計画
前日しか時間がないとき
- 01原稿を見直し、話題を一つに絞って長すぎる段落を削る
- 02段落ごとに見出しとキーワードを付け、カンペを作る
- 03最初の一文と最後の一文を、何も見ずに言えるまで口に出す
- 04カンペを見ながら立って通す。詰まった段落だけ原稿で確認する
- 05寝る前にもう一度、カンペだけで通す
- 06当日の朝、最初の一文と見出しの順番だけ確認する
時間がないときほど、全文を覚えようとせず、カンペを使う前提で準備するほうが確実です。
数日前から準備できるとき
| 時期 | やること |
|---|---|
| 初日 | 原稿を書き、覚えやすい形に直す。段落と見出しを決める |
| 二日目以降 | 原稿を伏せて思い出す練習。詰まった段落だけ答え合わせ |
| 本番の数日前 | 立って時間を計って通す。録音するか、人に聞いてもらう |
| 前日 | カンペを清書し、カンペだけで通す。固有名詞の読み方を最終確認 |
| 当日 | 最初の一文と見出しの順番を確認し、それ以上は詰め込まない |
場面別:どこまで覚えるか
| 場面 | 覚える範囲の目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 朝礼スピーチ | 順番とキーワード。カンペは手のひら大 | 話題は一つ。結論を最初に言う |
| 自己紹介 | 名前・所属・最後の挨拶は正確に。途中は順番だけ | エピソードを一つ入れると流れで思い出せる |
| 歓送迎会の挨拶 | 相手の名前・在籍期間・結びは正確に | 思い出の出来事を一つに絞る |
| 結婚式の祝辞(友人・上司) | 最初と最後は正確に。途中は順番とキーワード | 新郎新婦の名前と読み方は必ず確認。原稿を読む形でも失礼ではない |
| 式典の式辞・謝辞 | 原稿を読む前提で、読みやすく準備 | 読み間違えやすい語や固有名詞にふりがなを振り、段落ごとに行を空けて清書する |
| 会議・発表 | スライドの順番とキーワード | スライドそのものを目印にし、読み上げない |
| 英語のスピーチ | 最初と最後の文、言いにくい単語は正確に | 日本語と同じく段落ごとのキーワードで覚え、発音しにくい語は言い換えておく |
朝礼の話題選びは朝礼スピーチのネタと例文、送別の挨拶は送別会の挨拶、話し方そのものはスピーチの話し方のコツも参考にしてください。
カンペ(手元メモ)の作り方とそのまま使える例
カンペは「原稿の縮小版」ではなく、ちらっと見て次に話すことが分かる目印です。書きすぎると、かえってどこを見ればよいか分からなくなります。
書き方のルール
- 文章で書かず、見出しとキーワードだけを書く
- 大きな字で、手に持った距離から読める太さにする
- 最初の一文と最後の一文だけは文章で書いておく
- 人の名前・役職・社名など間違えてはいけない固有名詞は、ふりがな付きで正確に書く
- 時間が押したときに飛ばす段落に印を付けておく
- 紙は片面だけに書き、複数枚ならページ番号を振る
空欄テンプレート(どの場面にも使える形)
【最初の一文】____________(文章で書く)
① 結論:____(キーワード)
② 出来事:____ → ____
③ そこから思ったこと:____
(押したら③は飛ばす)
④ お願い・今後:____
【最後の一文】____________(文章で書く)
【固有名詞】____(ふりがな)
例:朝礼スピーチ
【最初】おはようございます。◯◯部の◯◯です。
① 結論:「確認の一言」
② 先週の出来事:◯◯さんの電話 → 行き違いを防げた
③ 自分も:送る前に一度読み返す
(押したら③は飛ばす)
④ お願い:今週も一言確認を
【最後】本日もよろしくお願いいたします。
例:歓送迎会の挨拶
【最初】皆さん、お疲れさまです。ただいまご紹介いただきました◯◯です。
① ◯◯(ふりがな)さん、長い間ありがとうございました
② 思い出:◯◯の立ち上げ、遅くまで一緒に
③ 教わったこと:「まず相手の話を聞く」
④ 新しい部署でも
【最後】◯◯さんのますますのご活躍をお祈りして、私の挨拶とさせていただきます。
例:結婚式の友人代表スピーチ
【最初】◯◯さん、◯◯さん、ご結婚おめでとうございます。ご両家の皆さまにも、心よりお祝い申し上げます。新婦の友人の◯◯と申します。
① 出会い:学生時代のサークル
② 人柄の出来事:試験前のノート → 自分より先に人のこと
③ 新郎へ:その優しさを一番近くで
(押したら③は短く)
【最後】お二人の末永いお幸せをお祈りして、お祝いの言葉とさせていただきます。本日は誠におめでとうございます。
【名前】新郎 ◯◯(ふりがな)さん/新婦 ◯◯(ふりがな)さん
例:異動・配属の自己紹介
【最初】本日から◯◯部に配属になりました◯◯と申します。
① 前の部署:◯◯の担当
② 休日:マラソン → 声援で完走
③ 仕事でも:助けていただきながら一歩ずつ
【最後】どうぞよろしくお願いいたします。
例:会議での報告・発表
【最初】◯◯の進み具合についてご報告します。
① 結論:予定どおり/遅れあり
② 理由:◯◯の確認待ち
③ 対策:◯◯さんと調整、来週中に
④ お願い:◯◯のご判断
【最後】以上です。ご質問があればお願いします。
Point
役職名と名前の読み方は、カンペに書く前に本人か周りの人に確認してください。スピーチで言い間違えて気まずくなりやすいのは、内容より固有名詞です。
原稿やカンペを持って話してよいか
| 場面 | 原稿・カンペの扱いの例 |
|---|---|
| 朝礼・社内の短い挨拶 | 手のひらに収まる大きさのカードかメモなら、持っていても目立ちにくい |
| 歓送迎会・懇親会の挨拶 | 小さなメモを手元に。グラスを持つ場合は、ポケットに入れておき必要なら出す |
| 結婚式の祝辞 | 便箋や奉書紙に清書した原稿を読む形も見られる。読む場合も段落の頭で顔を上げる |
| 式典の式辞・祝辞・謝辞 | 原稿を読み上げる形もよく見られる。紙を胸の高さに持ち、ときどき顔を上げる |
| 演台のある会場 | 演台に置き、手は演台の縁か体の横に |
原稿を見ることは失礼ではありません。気をつけたいのは、ずっと紙に目を落としたまま話すことです。段落の頭で紙を見て、話すときは顔を上げる、という切り替えを練習しておくと自然に見えます。式典の挨拶の例文は表彰式の挨拶や開会の挨拶にまとめています。
よくある失敗と直し方
| よくある失敗 | 起きること | 直し方 |
|---|---|---|
| 全文を丸暗記した | 一語つまずくと最初から言い直したくなり、止まる | 順番とキーワードで覚え直す。言い回しは毎回変わってよい |
| 黙読だけで練習した | 本番で口が回らない、時間が延びる | 必ず声に出し、立って時間を計る |
| 最初から通すだけの練習 | 前半ばかり上手になり、後半で詰まる | 詰まった段落だけを取り出して練習する |
| 話題を詰め込みすぎた | 順番が入れ替わる、時間が足りない | 話題を一つに絞り、残りは削る |
| カンペに文章を書いた | どこを読めばよいか分からず、読み上げになる | 見出しとキーワードだけに書き直す |
| 直前まで原稿を読み込んだ | 頭の中が言い回しでいっぱいになり、かえって焦る | 直前は最初の一文と見出しの順番だけ確認する |
| 名前の読みを確認しなかった | 本番で言い間違える | 前日までに本人か周りの人に確認し、カンペにふりがなを書く |
本番で頭が真っ白になったときのつなぎ方
言葉が出なくなったときは、黙って考え込むより、つなぎの一言で間を作るほうが落ち着いて戻れます。
| 状況 | つなぎの一言の例 |
|---|---|
| 次に何を話すか忘れた | 「少し話がそれましたが、お伝えしたいのは◯◯ということです」(結論に戻る) |
| 言葉に詰まった | 「失礼しました」と一言添えて、カンペを見る |
| 名前や言葉を言い間違えた | 「失礼しました、◯◯さんです」とその場で言い直す |
| 段落を一つ飛ばしたと気づいた | 飛ばしたまま進める。どうしても必要なら「一つ付け加えますと」と後で足す |
| 緊張で声が震える | 一度ゆっくり息を吐き、「緊張しておりますが」と正直に添えてから続ける |
| 話が長くなってしまった | 「最後に一つだけ」と言って結びの一文に進む |
注意
どうしても続かないときは、結びの一文に飛んで終えてかまいません。聞き手の印象に残りやすいのは、途中の言い回しより、最後に何を言ったかです。緊張への備えは発表で緊張しないための準備、司会の立場で場をつなぐ言い回しは司会のつなぎの言葉を参照してください。
前日までのチェックリスト
- 話題を一つに絞り、結論を最初と最後に置いた
- 原稿を段落に分け、見出しとキーワードを付けた
- 最初の一文と最後の一文を、何も見ずに言える
- 原稿を伏せて、見出しだけで最後まで声に出して話せた
- 立って、時間を計って通した
- カンペは見出し・キーワード・固有名詞だけを大きな字で書いた
- 名前と役職の読み方を確認した
- 時間が押したときに飛ばす段落に印を付けた
- 原稿を持つか、演台に置くか、ポケットに入れるかを決めた
- 詰まったときのつなぎの一言を一つ決めた
この記事の要点
- スピーチは全文暗記より、順番とキーワードで覚える。
- 暗記の前に話題を一つに絞り、結論を最初と最後に置くと覚える量が減る。
- 最初の一文と最後の一文だけは正確に。練習は原稿を伏せて声に出す。
- カンペは見出しとキーワードを大きな字で。固有名詞はふりがな付きで。
- 原稿を見るのは失礼ではない。詰まったらつなぎの一言、最悪は結びの一文に飛ぶ。
FAQ
よくある質問
全文ではなく、話の順番とキーワードを覚えます。原稿を段落に分けて見出しを付け、原稿を伏せて見出しだけで声に出して話す練習を繰り返します。最初の一文と最後の一文だけは正確に覚えておくと、途中で言い回しが変わっても話を続けられます。
まず話題を一つに絞って原稿を短くし、見出しとキーワードのカンペを作ります。最初の一文と最後の一文を何も見ずに言えるまで口に出し、カンペを見ながら立って通します。全文を覚えようとせず、カンペを使う前提で準備するほうが確実です。
原稿の作りが原因のことがよくあります。話題をいくつも並べている、一文が長い、書き言葉が多いといった原稿は順番を思い出しにくくなります。話題を一つに絞り、具体的な出来事でつなぐと覚えやすくなります。
文章ではなく、段落の見出しとキーワード、間違えてはいけない名前や役職を書きます。最初の一文と最後の一文は文章で書いておくと安心です。ちらっと見て分かるよう、大きな字で書きます。
暗記しなくてもかまいません。清書した原稿を読む形も見られます。読む場合も、段落の頭で原稿を見て、話すときは顔を上げると気持ちが伝わりやすくなります。新郎新婦の名前と読み方は必ず確認してください。
日本語と同じく、段落ごとに見出しとキーワードを決めて順番で覚えます。最初と最後の文、発音しにくい単語は正確に言えるまで練習し、言いにくい語は言いやすい語に置き換えておくと詰まりにくくなります。
失礼ではありません。式典の式辞や祝辞では原稿を読み上げる形もよく見られます。ずっと紙を見たままにならないよう、段落の頭で紙を見て、話すときは顔を上げるようにすると自然です。
「失礼しました」と一言添えてカンペを見るか、「お伝えしたいのは◯◯ということです」と結論に戻ります。続かないときは結びの一文に進んで終えてもかまいません。