天候
夏の屋外イベントの熱中症対策
暑さ指数(WBGT)で基準を決め、判断者を置く
夏の屋外イベントの熱中症対策は、①判断の基準を気温ではなく暑さ指数(WBGT)で決める ②熱中症警戒アラート・熱中症特別警戒アラートが出たときに何を変えるか、中止の判断者を企画段階で決める ③待機列を日なたに作らない、休憩場所と飲料を確保するなど、運営の設計で暑さにさらす時間を減らす ④スタッフの暑熱対策と、倒れた人への対応手順を用意するの4つです。環境省は熱中症特別警戒アラートの呼びかけで、イベント主催者等の管理者に対し、全ての人が熱中症対策を徹底できているか確認し、徹底できていない場合はイベント等の中止、延期、変更等を判断するよう求めています。暑さ対策は、当日の気合いではなく主催者の判断事項です。
結論
暑さ指数(WBGT)は、環境省によると熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい①湿度 ②日射・輻射など周辺の熱環境 ③気温の3つを取り入れています。単位は気温と同じ摂氏度で示されますが、値は気温とは異なります。環境省は、イベント主催者や施設管理者に向けた「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン」(2020年3月改訂)を公表しており、本記事の準備項目はこのガイドラインのチェックリストに沿って整理しています。
暑さ指数(WBGT)の区分とアラート
環境省の熱中症予防情報サイトは、日本生気象学会の「日常生活における熱中症予防指針」に基づく区分を示しています。来場者向けの判断の言葉として、この区分をそのまま使えます。
| 暑さ指数(WBGT) | 区分 | 注意事項(環境省サイトの記載) |
|---|---|---|
| 31以上 | 危険 | 高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。 |
| 28以上31未満 | 厳重警戒 | 外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する。 |
| 25以上28未満 | 警戒 | 運動や激しい作業をする際は定期的に充分に休息を取り入れる。 |
| 25未満 | 注意 | 一般に危険性は少ないが激しい運動や重労働時には発生する危険性がある。 |
競技や体を動かすプログラムがあるイベントでは、日本スポーツ協会の「熱中症予防運動指針」も同じサイトに掲載されています。暑さ指数31以上は「運動は原則中止」、28以上31未満は「厳重警戒(激しい運動は中止)」とされ、厳重警戒では10~20分おきに休憩をとり水分・塩分の補給を行う、警戒(25以上28未満)では激しい運動で30分おきくらいに休憩をとる、と示されています。
熱中症警戒アラートと熱中症特別警戒アラート
| 情報 | 発表の基準(環境省) | 主催者に関わる呼びかけ |
|---|---|---|
| 熱中症警戒アラート | 府県予報区等内のいずれかの暑さ指数情報提供地点で、翌日・当日の日最高暑さ指数が33(予測値)に達する場合 | 管理者がいる場所やイベント等については、責任者が暑さ指数等の実測の上、適切な熱中症対策が取れていることの確認を求める |
| 熱中症特別警戒アラート | 都道府県内の全ての暑さ指数情報提供地点(一部の地点を除く)で、翌日の日最高暑さ指数が35(予測値)に達する場合等 | イベント主催者等の管理者は、対策を徹底できていない場合、イベント等の中止、延期、変更等を判断する |
注意
出典:環境省 熱中症予防情報サイト(暑さ指数について、熱中症警戒情報・熱中症特別警戒情報の概要)。同サイトは発表状況の地図を5時に「きょう」、14時と17時に「あす」の分を更新するとしています。また、個々の場所の暑さ指数は環境によって大きく異なるため、身近な場所の暑さ指数を同サイトで確認することや、黒球の付いたWBGT測定機器等で独自に測定することを勧めています。
判断基準と、決めることの表
環境省のイベント向けガイドラインは、中止の判断について判断する基準をあらかじめ作成しておくこと、判断をする責任者を決定しておくこと、中止した後の対応を事前に決めておくことが重要だとしています。次の表を企画段階で埋めてください。
| 項目 | 決める内容 | 確認先 |
|---|---|---|
| 判断者 | 暑さによる変更・中止を決める人と代理 | 社内 |
| 見る情報 | 環境省サイトの暑さ指数の予測と実況、アラートの発表状況、会場での実測値 | 環境省 熱中症予防情報サイト |
| 判断の時刻 | 前日(アラートの「あす」の更新後)、当日朝、開催中の測定間隔 | 社内 |
| 段階と対応 | 暑さ指数の区分やアラートごとに、何を変えるか(休憩の追加、屋外プログラムの短縮、時間帯の変更、中止) | 社内、会場、出演者 |
| 測定 | どこで(日なた・待機列・ステージ前など)、何で(黒球付きの測定器など)、誰が測るか | 機材業者、会場 |
| 救護 | 救護所の場所と体制、搬送先の医療機関、救急車の進入経路 | 会場、医療機関、消防 |
判断基準の書き方(コピー用)
判断者:◯◯(代理:◯◯) 測定担当:◯◯(測定場所:◯◯)
■前日:熱中症特別警戒アラートが発表された場合 → ◯◯(例:対策を徹底できるか確認し、できなければ中止・延期・変更)
■前日:熱中症警戒アラートが発表された場合 → ◯◯(例:屋外プログラムを◯◯に変更、休憩・給水を追加)
■開催中:会場の実測が「◯◯」の区分に入った場合 → ◯◯(例:屋外の◯◯を中断)
■中止後の対応:来場者の退場誘導、告知、返金の扱いは◯◯
Point
どの区分で何を変えるかは、来場者の属性で変えてください。環境省のガイドラインは、寒冷地でイベントを実施する場合や、参加者やスタッフ等に高齢者の占める割合が高いイベントを企画する場合には、当日の気象条件に応じて一層の対策を検討する必要があるとしています。子ども向け、高齢者が多い、体を動かすプログラムがある、といった条件では、より早い段階で対応を変える基準にします。
来場者向けの準備チェックリスト
環境省のガイドラインのチェックリストから、イベント準備時に確認する項目を中心に整理しました。
運営上の工夫
- 待機列を作らない工夫(再集合時刻の明示、整理券、指定席)と、日陰への誘導を計画したか
- 開場時・終了時の混雑緩和(ゲートや退場口を増やす、性急な退去を要請しない)を計画したか
- 給水所・自動販売機・売店・救護所の場所を分かりやすく表示したか
- 休息場所を確保し、待機列の場所を考慮して給水器・自動販売機を配置したか
- 飲料の欠品を防ぐ手配をしたか
- トイレを十分に確保し、案内表示をしたか
暑熱環境の把握と緩和
- 人が混雑する場所、日射・輻射が強く風通しの悪い場所を下見で特定したか
- 日陰の確保(テント、日除け)、地表面や壁面の高温化の抑制、送風やミストなどの冷却を検討したか
- 暑さ指数の測定結果を、スタッフと来場者にどう伝えるか(放送、掲示、サイト)を決めたか
呼びかけ・啓発
- 告知と入場時の配布資料に熱中症予防策を書いたか
- 待機時間・休憩時間を考慮して、放送で呼びかける計画を立てたか
- 会場に熱中症予防・早期発見・初期対応のポスター等を掲示したか
- SNSでの情報発信の担当を決めたか
スタッフの熱中症対策
スタッフは来場者より長く屋外にいて、持ち場を離れにくい立場です。環境省のガイドラインは、スタッフ向けの対策として次のような例を挙げています。
- イベントの1週間前くらいから、汗をかく程度の活動で計画的に暑さに慣れさせる(暑熱順化)
- すべてのスタッフに、熱中症の予防、初期症状、早期発見、初期対応、救急処置に関する教育を行う
- 屋外での仕事はなるべく風通しの良い日陰で行わせる
- 屋外で働くスタッフには空調の効いた休憩場所を設置し、スポーツ飲料を無料で提供する
- 特に暑熱な場所での仕事はなるべく短時間で交代させ、涼しい場所で休憩させる
- 制服や帽子は、光反射性・通気性・透湿性のよいものを選ぶ
- 仕事前に体調を確認し、前日の飲酒等による脱水状態、欠食、睡眠不足、体調不良があれば暑熱作業から外す
- 暑さ指数の予報、気象予報を周知徹底する
- 定期的に巡視し、スタッフの健康状態や、水分と塩分を摂っているかを確認する
事業者としての義務も確認する
厚生労働省(労働局)によると、令和7年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行され、WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間を超えて実施が見込まれる作業について、熱中症の重篤化を防止するための「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」が事業者に義務付けられました。同規則第612条の2は、熱中症の自覚症状がある場合や、熱中症が生じた疑いのある者を発見した場合に報告させる体制の整備と、作業からの離脱、身体の冷却、医師の診察・処置などの措置の内容と手順をあらかじめ定めて周知することを求めています。
注意
イベントの運営スタッフ、設営・撤去の作業員が誰に雇われているか(自社、派遣、業務委託先)で、義務を負う事業者が変わります。自社の従業員を屋外の持ち場に配置する場合は、どの作業が対象になるかを所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。交代の組み方は警備員の人数と交代表の作り方、交代表はシフト表・配置表の作成ツールで作れます。
当日の運用:役割・連絡・放送
| 役割 | 担当 | 暑い日にやること |
|---|---|---|
| 判断者 | ◯◯(代理◯◯) | 基準に沿って休憩の追加、プログラムの短縮・中断・中止を決める |
| 測定・情報担当 | ◯◯ | 決めた場所・間隔で暑さ指数を測り、環境省サイトの予測・アラートと合わせて判断者に報告する |
| 救護担当 | ◯◯ | 救護所の運営、傷病者の記録、救急要請と医療機関への連絡 |
| 動線・待機列担当 | ◯◯ | 待機列を日陰に誘導し、列が日なたで滞留しないよう整理券などに切り替える |
| スタッフ管理 | ◯◯ | 交代と休憩が予定どおりか、体調不良のスタッフがいないかを巡回して確認する |
| 放送・告知担当 | ◯◯ | 暑さ指数と給水・休憩場所の案内を、決めた間隔で放送・掲示する |
場内放送の文例(定時の呼びかけ)
ご来場の皆さまにお知らせいたします。現在、会場の暑さ指数は「◯◯」の段階です。のどが渇く前に、こまめに水分と塩分をとってください。給水所は◯◯と◯◯、日陰の休憩スペースは◯◯にございます。気分が悪くなった方、周りに具合の悪そうな方がいらっしゃる場合は、近くのスタッフにお声がけください。
場内放送の文例(屋外プログラムの中断)
ご来場の皆さまにお知らせいたします。暑さが厳しくなっているため、安全のため、屋外ステージのプログラムを◯時◯分まで中断いたします。◯◯(屋内)で休憩いただけます。再開する場合は、この放送でお知らせいたします。
傷病者が出たときの流れ
環境省のガイドラインは、熱中症が疑われる緊急時の応急措置を次の流れで示しています。救護担当だけでなく、全スタッフに配置前に伝えてください。
- 01
熱中症を疑う症状があるか
めまい・失神・筋肉痛・筋肉の硬直・大量の発汗・頭痛・不快感・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感・意識障害・けいれん・手足の運動障害・高体温。
- 02
呼びかけに応えるか
応えなければ救急車を呼び、到着までの間に応急処置を始める。呼びかけへの反応が悪い場合には無理に水を飲ませてはいけない。
- 03
涼しい場所へ避難し、服をゆるめ体を冷やす
氷のう等があれば、首、腋の下、太腿のつけ根を集中的に冷やす。
- 04
水分を自力で摂取できるか
できれば水分・塩分を補給する。大量に汗をかいている場合は、塩分の入ったスポーツドリンクや経口補水液、食塩水がよい。できなければ医療機関へ。
- 05
症状がよくなったか
よくならなければ医療機関へ。本人が倒れたときの状況を知っている人が付き添って、発症時の状態を伝える。
注意
救護所の体制(医師・看護師・救急救命士の配置など)をどこまで用意するかは、規模と来場者の属性によって変わります。会場、地域の医療機関、消防と事前に相談してください。
よくある失敗
- 気温だけで判断する:湿度や日射・輻射を含む暑さ指数で見ないと、蒸し暑い日や照り返しの強い会場の危険を見落とす
- 近くの観測地点の値だけを見る:個々の場所の暑さ指数は環境によって大きく異なる。待機列やステージ前で実測しない
- 開場前の待機列を日なたに作る:イベントが始まる前に来場者が暑さにさらされる
- 中止の判断者と基準が決まっていない:アラートが出ても誰も止めると言えない
- スタッフの休憩場所が屋外のテントだけ:交代しても体が冷えない
- 飲料が欠品する:休憩時間に給水が集中することを見込んでいない
Point
終了後は、救護者数、暑さ指数が各区分を超えていた時間、対策(日除け、ミスト、送風など)の効果、スタッフの休憩・給水が回ったかを記録してください。環境省のガイドラインも、イベント実施後に次回へ向けて効果を検証し、記録・整理することをチェックリストに入れています。
この記事の要点
- 判断の基準は気温ではなく暑さ指数(WBGT)で決める。区分は環境省サイトの指針を使う。
- 熱中症特別警戒アラートでは、主催者は対策を徹底できなければ中止・延期・変更を判断するよう求められている。
- 中止の判断基準、判断者、中止後の対応を企画段階で決める(環境省のイベント向けガイドライン)。
- 個々の場所の暑さ指数は環境で大きく異なるため、待機列やステージ前など会場で実測する。
- スタッフには暑熱順化、教育、空調の効いた休憩場所、短時間の交代を。事業者としての義務も確認する。
FAQ
よくある質問
暑さ指数(WBGT)を使った判断基準、判断者と代理、熱中症警戒アラート・熱中症特別警戒アラートが出たときの運用、会場での測定の方法、救護体制、中止した後の対応です。環境省の「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン」は、中止を判断する基準をあらかじめ作成し、判断する責任者を決め、中止後の対応を事前に決めておくことが重要だとしています。
環境省のサイトに掲載された日常生活の指針では31以上が「危険」、運動の指針では31以上が「運動は原則中止」とされています。ただし、イベントを中止するかどうかは、来場者の属性、屋外で過ごす時間、日陰や休憩場所の有無、プログラムの内容によって主催者が判断することです。どの区分で何を変えるか(休憩の追加、屋外プログラムの短縮、中止)を事前に決めておいてください。
環境省によると、府県予報区等内のいずれかの暑さ指数情報提供地点で、翌日・当日の日最高暑さ指数が33(予測値)に達する場合に発表されます。熱中症特別警戒アラートは、都道府県内の全ての暑さ指数情報提供地点(一部の地点を除く)で翌日の日最高暑さ指数が35(予測値)に達する場合等に発表されます。
環境省は、イベント主催者等の管理者に対し、全ての人が熱中症対策を徹底できているか確認し、徹底できていない場合はイベント等の中止、延期、変更等を判断するよう呼びかけています。発表されたら一律に中止と定められているわけではありませんが、主催者が対策の徹底を確認し、判断することが求められています。
環境省は、個々の場所の暑さ指数は環境によって大きく異なるため、身近な場所の暑さ指数を熱中症予防情報サイトで確認することや、黒球の付いたWBGT測定機器等で独自に測定することを勧めています。アラートの発表時には、イベント等の責任者が暑さ指数等を実測したうえで適切な対策が取れていることを確認するよう求めています。待機列やステージ前など、来場者が長くいる場所で測ってください。
厚生労働省(労働局)によると、令和7年6月1日施行の改正労働安全衛生規則により、WBGT28度以上又は気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間を超えて実施が見込まれる作業について、報告体制の整備、措置の手順の作成、関係者への周知が事業者に義務付けられています。スタッフを誰が雇っているかで義務を負う事業者が変わるため、所轄の労働基準監督署などに確認してください。
環境省のガイドラインの応急措置の流れでは、熱中症を疑う症状があるかを確認し、呼びかけに応えなければ救急車を呼びます。応える場合は涼しい場所へ避難させて服をゆるめ体を冷やし、自力で水分を摂取できれば水分・塩分を補給します。自力で飲めない、症状がよくならない場合は医療機関へ。呼びかけへの反応が悪い人に無理に水を飲ませてはいけません。