言葉の使い分け
押印と捺印の違い
記名押印・署名捺印の使い分けと例文
結論から言うと、「押印」と「捺印」はどちらも印を押すことで、意味は同じです。違いが出るのは名前の書き方のほうで、本人が手で書けば「署名」、ゴム印・印刷・パソコン入力なら「記名」。そこに印を押すと、「署名捺印(署名押印)」と「記名押印」になります。迷ったら書類の欄に書かれた言葉どおりにするのが確実で、依頼の一文は「契約書の所定の欄にご署名・ご捺印のうえ、ご返送いただけますでしょうか。」で足ります。このページでは、法律での扱い、押す位置、契印・割印などの種類、そのまま使える例文14本、返送前のチェックリストをまとめました。
結論
押印(おういん)・捺印(なついん)は、どちらも印鑑を押すことです。署名(しょめい)は本人が自分の手で氏名を書くこと、記名(きめい)は手書き以外の方法で氏名を記すこと(ゴム印、印刷、パソコンでの入力、他の人による代筆など)を指します。
30秒でわかる違い
| 知りたいこと | 答え |
|---|---|
| 押印と捺印の意味の差 | ない。どちらも印を押すこと |
| どちらの字を使うか | 常用漢字で書くなら「押印」。「捺」は常用漢字表にない字。お願いの言い方としては「ご捺印」も使われる |
| 署名と記名の差 | 手で書くのが署名、ゴム印・印刷・入力が記名 |
| よく見る組み合わせ | 「署名捺印(署名押印)」と「記名押印」 |
| 欄に「署名または記名押印」とあったら | 手で名前を書くか、ゴム印などで名前を記して印を押すか、どちらかでよい |
| 迷ったとき | 書類の欄の言葉に合わせる。それでも分からなければ発行元に確かめる |
それぞれの意味
押印と捺印
「押」も「捺」も「おす」という意味の字で、押印と捺印は同じ意味で使われています。違いは字のほうにあり、常用漢字表では「押」の音「オウ」の例に「押印」が挙がっている一方、「捺」は常用漢字表にない字です。常用漢字の範囲で書くなら「押印」になり、取引先へのお願いでは「ご捺印」という言い方も使われます。
「押印=記名押印、捺印=署名捺印」という説明について
「押印は記名に押すもの、捺印は署名に押すもの」と分けて説明されることもあります。これは「記名押印」「署名捺印」という組み合わせの略として使い分ける考え方で、字そのものの意味に差があるわけではありません。実務では、どちらの言葉が使われているかより、名前を手で書くのか(署名)、ゴム印などでよいのか(記名)を確かめるほうが大切です。
署名と記名
署名は、本人が自分の手で氏名を書くことです。筆跡が残るので、本人が書いたことを示しやすいのが特徴です。英語の「サイン」に近い言葉で、取引先へのお願いでは「ご署名」と書くと丁寧です。
記名は、手書き以外の方法で氏名を記すことです。会社名と代表者名のゴム印、印刷済みの氏名、パソコンで入力した氏名などがあたります。記名だけでは本人が確認したかどうかが分かりにくいため、記名に押印を添えた「記名押印」の形で使われます。
Point
押印=捺印(印を押す)。署名=自分の手で書く、記名=手書き以外で記す。違いを決めるのは印ではなく名前の書き方。
法律ではどう扱われているか
条文を見ると、署名と押印、記名押印がどう扱われているかが分かります。いずれも e-Gov 法令検索で原文を確かめたものです。
| 法令 | 定めていること(要旨) | 読み取れること |
|---|---|---|
| 民事訴訟法 第228条第4項 | 私文書は、本人または代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する | 署名と押印のどちらか一方でも、本人が作った文書だと推定される |
| 民事訴訟法 第229条第1項 | 文書の成立の真否は、筆跡または印影の対照によっても証明できる | 手書きの署名は筆跡、押印は印影という手がかりを残す |
| 商法 第546条第1項 | 仲立人は結約書を作成し、「署名し、又は記名押印した後」各当事者に交付する | 法律の条文でも、署名と記名押印が並べて扱われている |
| 電子署名法 第3条 | 電磁的記録は、本人による一定の電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する | 電子契約では、印の代わりに電子署名が同じ役割を担う |
四つの組み合わせで何が残るか
民事訴訟法第229条の「筆跡又は印影の対照」に照らすと、書き方によって後から確かめられる手がかりが変わります。
| 書き方 | 筆跡 | 印影 | 使われる場面の例 |
|---|---|---|---|
| 署名+捺印(署名捺印) | 残る | 残る | 契約書、重要な合意書 |
| 署名のみ | 残る | 残らない | 申込書、同意書、受領のサイン |
| 記名+押印(記名押印) | 残らない | 残る | 会社名・代表者名のゴム印を使う契約書 |
| 記名のみ | 残らない | 残らない | 社内の回覧、参加者名簿 |
注意
ここに書いたのは条文の要旨です。個別の書類で何が必要か、どの程度の効力があるかは、書類の発行元や法務の担当者、専門家に確かめてください。
使い分けの早見表
| 言葉 | 意味 | よく組む語 | 例文 |
|---|---|---|---|
| 押印 | 印を押すこと | 記名押印、押印欄、押印漏れ | 請求書に押印して送付します。 |
| 捺印 | 印を押すこと(押印と同じ) | 署名捺印、ご捺印 | ご署名・ご捺印をお願いいたします。 |
| 署名 | 本人が自分の手で氏名を書くこと | 署名欄、自署、署名捺印 | 同意書の署名欄にご署名ください。 |
| 記名 | 手書き以外の方法で氏名を記すこと | 記名押印、記名欄、無記名 | 会社名と代表者名を記名のうえ押印してください。 |
注意
メールの末尾に付ける名前や連絡先も「署名」と呼びますが、手書きの署名とは別の使い方です。メールの署名の作り方はメールの署名の書き方と例にまとめています。
印を押す位置と押し方
- 01
欄があれば欄の中に押す
「印」「押印欄」と書かれた枠があれば、その枠の中に押します。枠からはみ出したり、文字に大きく重なったりすると読み取りにくくなります。
- 02
欄がなければ記入例を確かめる
押す場所の指定がない書類は、まず発行元の記入例や案内を確かめます。それもなければ、氏名のすぐ右横(縦書きなら下)など、どの名前の印か分かる位置に、他の文字に重ならないように押します。
- 03
印鑑の種類を確かめる
実印(印鑑登録をした印鑑)を求められているのか、認印でよいのかを確かめます。社名のゴム印に押す社印も、会社によって決まりがあります。
- 04
下に柔らかいものを敷いて押す
印鑑マットなどを敷き、まっすぐ押し下げると、欠けやかすれが出にくくなります。押したあとは乾くまで重ねないようにします。
- 05
かすれたら上から重ねず、近くに押し直す
失敗した印影に重ねて押すと、どちらの印か分からなくなります。訂正の方法は書類の発行元の指示に従います。
押印の種類(契印・割印・訂正印・捨印・消印)
「押印」と一口に言っても、目的によって呼び名が変わります。依頼メールで名前を出すときに迷わないよう、意味を並べておきます。
| 呼び名 | 何のために押すか | 押す場所の例 |
|---|---|---|
| 契印(けいいん) | 複数枚の書類が一続きであることを示す | ページの綴じ目や、製本テープと表紙の境目 |
| 割印(わりいん) | 2通以上の書類(契約書の正本と副本、原本と控えなど)が互いに関連することを示す | 書類を少しずらして重ね、両方にかかるように押す |
| 訂正印 | 書き間違いを直したことを示す | 訂正した箇所の近く |
| 捨印(すていん) | 軽い誤りを相手が訂正してよいことを、あらかじめ認める | 書類の余白 |
| 消印 | 収入印紙を使ったことを示す | 印紙と書類にまたがる位置 |
収入印紙は、印紙税法第8条と施行令第5条により、印章または署名で消すことになっています。印紙の扱いは領収書の書き方にまとめています。捨印は、後から内容を直されるおそれもあるので、求められたときだけ押し、必要がなければ押さないでおくと安心です。
電子契約・電子印鑑との関係
電子契約では、紙の押印の代わりに電子署名が使われます。電子署名法第3条は、本人だけが行うことができるように管理された電子署名が行われた電磁的記録について、真正に成立したものと推定すると定めています。
一方で、印影の画像を書類に貼り付けるだけの「電子印鑑」は、見た目は押印に近くても、仕組みによっては電子署名の条件を満たしません。取引先から「電子印鑑で可」と言われた場合も、どのサービス・どの形式でよいかを確かめておくと行き違いがありません。
そのまま使える例文14本(場面別)
1. 契約書の署名・捺印をお願いする(取引先へ)
件名:◯◯業務委託契約書ご署名・ご捺印のお願い
株式会社◯◯
◯◯様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
先日お打ち合わせいたしました◯◯業務委託契約書を、本日郵送にてお送りいたしました。
内容をご確認のうえ、2部とも所定の欄にご署名・ご捺印いただき、1部をご返送いただけますでしょうか。
返信用封筒を同封しております。どうぞよろしくお願いいたします。
2. 記名押印でよいことを伝える(取引先へ)
署名欄は、手書きのご署名のほか、会社名・ご役職・ご氏名のゴム印による記名に、ご押印いただく形でも差し支えございません。
3. 手書きの署名をお願いする(取引先へ)
お手数ですが、同意書の署名欄は、ご本人様の手書きでのご署名をお願いいたします。ゴム印や印字でのご記名はお受けできかねますので、ご了承いただけますと幸いです。
4. 実印での押印をお願いする(取引先へ)
本契約書には、ご登録の実印でのご捺印をお願いいたします。あわせて、印鑑登録証明書を1通同封いただけますでしょうか。
5. 押印の漏れを伝える(取引先へ)
件名:◯◯申込書ご返送のお礼と一点ご確認のお願い
◯◯様
お世話になっております。株式会社△△の□□です。
申込書をご返送いただき、ありがとうございました。
一点、2枚目の押印欄が空欄のままになっておりました。お手数をおかけし恐縮ですが、ご押印のうえ、改めてお送りいただけますでしょうか。
6. 印影がかすれていたことを伝える(取引先へ)
ご返送いただいた契約書のうち、1ページ目の印影が一部かすれており、判読が難しい状態でした。大変恐縮ですが、新しい契約書をお送りしますので、改めてご捺印いただけますでしょうか。
7. こちらの押印漏れをお詫びする(取引先へ)
先日お送りした請求書に弊社の押印が漏れておりました。大変失礼いたしました。押印済みのものを本日改めてお送りしましたので、お手数ですが、先にお送りしたものは破棄していただけますでしょうか。
8. 契印・割印をお願いする(取引先へ)
契約書は2部とも、各ページの綴じ目に契印を、2部をずらして重ねた上部に割印をお願いいたします。押す位置には付箋を貼っております。
9. 訂正印をお願いする(取引先へ)
申込書の2行目のご住所に誤りがございました。お手数ですが、誤っている箇所に二重線を引き、正しいご住所をお書き添えのうえ、近くに訂正印をお願いできますでしょうか。
10. 押印は不要と案内する(取引先・参加者へ)
本書類はご署名のみで受け付けております。押印は不要ですので、ご署名のうえそのままご返送ください。
11. 電子契約での署名をお願いする(取引先へ)
本契約は電子契約サービスで締結させていただきたく存じます。後ほど届く案内メールのリンクから内容をご確認いただき、電子署名をお願いいたします。紙へのご捺印は不要です。
12. 社内で押印を依頼する
◯◯部長
お疲れさまです。□□です。
◯◯社との契約書について、法務の確認が終わりましたので、記名押印をお願いできますでしょうか。押印箇所には付箋を貼っております。
13. 申込書の書き方を案内する(参加者へ)
参加申込書の「ご署名」欄は、ご本人様がご自分の手でお名前をお書きください。押印は不要です。
14. 電話で押印の有無を確かめる(取引先へ)
お世話になっております。△△の□□です。いただいた発注書の件で一点だけ確認させてください。代表者様のお名前はゴム印でご記名いただき、社印をご押印いただく形でよろしいでしょうか。
注意
契約書の送り方そのものは契約書送付のメールの例文や送付状の書き方、契約書の中身はイベントの契約書、社内の決裁は稟議書の書き方を参考にしてください。
書類の記入欄に添える注記テンプレート
こちらが書類を作る側のときは、欄の横に何をしてほしいかを書き添えておくと、返送後のやり直しが減ります。
- 署名でも記名押印でもよいとき:「※ご署名、またはご記名のうえご押印ください」
- 手書きが必要なとき:「※ご本人様の手書きでご署名ください(ゴム印・印字は不可)」
- 押印が要らないとき:「※ご署名のみで結構です(押印不要)」
- 実印が必要なとき:「※ご登録の実印でご捺印のうえ、印鑑登録証明書を添えてください」
- 法人の場合:「※会社名・役職・氏名をご記入(ゴム印可)のうえ、社印をご押印ください」
返送前のチェックリスト
- 欄の言葉(署名/記名押印/押印)どおりに書いた
- 手書きが求められている欄に、ゴム印や印字を使っていない
- 指定された印鑑(実印・社印・認印)で押した
- 印影が欠けたり、かすれたりしていない
- 押印欄がすべて埋まっている(2枚目以降も含めて)
- 契印・割印が必要な書類は、その分も押した
- 書き直した箇所に、指定どおりの訂正をした
- 控えを残す書類は、手元用の1部を取り分けた
よくある失敗と書き方
| よくある失敗 | 気になる点 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 「署名捺印」の欄にゴム印を押した | ゴム印は手書きではないので記名にあたる | 署名が求められているなら手で書く。記名押印でよいかは相手に確認する |
| 押印と捺印を一つの書類で混ぜる | 意味は同じだが、表記がそろっていないと読み手が迷う | 一つの書類の中ではどちらかにそろえる |
| (取引先に)サインください | くだけた印象になりやすい | ご署名いただけますでしょうか |
| 押印して下さい | 補助的に使う「ください」はひらがなで書くのが公用文の考え方 | ご押印ください/押印をお願いいたします |
| 「記名」を手書きの意味で使う | 記名は手書き以外も含む言葉で、手書きを指すなら署名 | ご自身の手で書いてほしいときは「ご署名」と書く |
| 求められていないのに捨印を押す | 余白の印を使って内容を直されるおそれがある | 依頼されたときだけ押す |
| かすれた印影に重ねて押し直す | どちらの印か判別しにくくなる | 発行元の指示に従い、近くに押し直すか書類を差し替える |
覚え方
- 押も捺も「おす」:押印=捺印。常用漢字で書くなら「押印」、お願いでは「ご捺印」も使う。
- 「署」は自分で書く:自署(じしょ)の署。本人の筆跡が残るのが署名。
- 「記」は記しておく:ゴム印・印刷・入力でもよいのが記名。だから押印を添えて「記名押印」。
- 組み合わせは二つ:「署名(捺印)」か「記名押印」。
この記事の要点
- 押印と捺印は同じ意味(印を押すこと)。「捺」は常用漢字表にない字。
- 違いを決めるのは名前の書き方。署名=手で書く、記名=手書き以外で記す。
- 法律の条文も「署名し、又は記名押印」と、署名と記名押印を並べて扱っている。
- 契印・割印・訂正印・捨印・消印は、押す目的による呼び名の違い。
- 取引先へは「ご署名・ご捺印のうえ、ご返送いただけますでしょうか」。
FAQ
よくある質問
意味は同じなので、どちらでも通じます。常用漢字で書きたい様式や社内文書なら「押印」、取引先へのお願いでは「ご捺印」という言い方も使われます。一つの書類の中ではそろえておくと読みやすくなります。
言葉による差はありません。民事訴訟法第228条第4項は「署名又は押印」があれば私文書は真正に成立したものと推定するとしており、押印か捺印かという呼び方は問題になりません。手がかりとして残るのが筆跡か印影かは、署名か記名かで変わります。
署名は本人が自分の手で氏名を書くこと、記名はゴム印・印刷・パソコンでの入力など、手書き以外の方法で氏名を記すことです。
ゴム印や印刷などで氏名を記し、そこに印鑑を押すことです。会社名と代表者名のゴム印に社印を押す形がよく見られます。
パソコンでの入力は記名にあたります。署名が求められている欄であれば、自分の手で書くか、記名押印でよいかを書類の発行元に確かめてください。
書類の求め方によります。欄に「署名または記名押印」とあれば、手書きの署名だけで足ります。「署名捺印」とあれば印も求められているので、発行元の指示に合わせてください。
「印」の枠があれば枠の中に押します。指定がなければ、まず記入例や発行元の案内を確かめます。それもなければ、氏名のすぐ右横(縦書きなら下)など、どの名前の印か分かる位置に、他の文字に重ならないように押します。
印影の画像を貼るだけのものと、電子署名法に沿った電子署名とでは仕組みが違います。取引先から指定がある場合は、どの形式でよいかを確かめてください。
「所定の欄にご署名・ご捺印のうえ、ご返送いただけますでしょうか」と、何をどこにしてほしいかと返送の方法をあわせて伝えると、行き違いが減ります。