医療機関
医療機関のイベント企画
種類の一覧・告知例文・医療広告と個人情報の注意点
結論から言うと、医療機関のイベントは「主催する」「職員が参加する」「業者として出展する」の3つで準備がまったく違います。主催する場合は、参加者の体調への配慮、感染対策、参加の事実を含むプライバシー、診療との両立、告知の表現(医療法の広告ルール)の5つを、内容より先に決めます。この記事では、種類の一覧表、そのまま使える告知文・申込同意文・当日アナウンスの例文、確認に回す表現の言い換え表、準備のチェックリストを順に示します。
結論
医療機関のイベントとは、病院・診療所が主催する健康教室・医療講演会・患者の会・職員研修・院内行事と、職員が参加する医療系のセミナー・学会・展示会、医療機器や医療情報システムの事業者が医療従事者向けに出展する展示会を合わせた呼び方です。主催する場合、告知は医療法第6条の5の「広告」に当たりうるため、表現の確認が企画の一部になります。
医療機関のイベントの種類と、準備の重さの違い
まず、自分がどの立場でイベントに関わるのかを決めます。同じ「医療機関のイベント」でも、主催と参加では決めることがほとんど重なりません。
| 種類 | 主な対象 | 主な目的 | 先に決めること |
|---|---|---|---|
| 健康教室・医療講演会 | 地域住民・患者さん | 病気の予防や療養の知識を伝える | 告知の表現、当日の体調不良への対応、個別相談をどこで受けるか |
| 患者の会・家族会 | 特定の疾患の患者さんと家族 | 体験の共有、療養の不安の軽減 | 参加の事実を外に出さない運営、名簿の管理 |
| 院内行事(季節行事・コンサートなど) | 入院患者さん・家族・職員 | 療養生活の気分転換 | 病棟ごとの参加可否、感染対策、診療業務との時間の切り分け |
| 職員研修・勉強会 | 医師・看護師・事務職員 | 知識の更新、院内ルールの共有 | シフトとの両立、欠席者への共有方法 |
| 病院見学会・オープンホスピタル | 地域住民・採用候補者 | 病院を知ってもらう、採用 | 立ち入り範囲、撮影の可否、患者さんとの動線の分離 |
| 医療系セミナー・学会に職員が参加 | 職員 | 情報収集、学び | 院内の参加申請、費用の扱い、持ち帰る報告の形 |
| 医療系の展示会を視察 | 職員(購買・情報システム担当など) | 機器・システムの比較 | 見たい製品の事前リスト、名刺交換後の営業連絡の受け方 |
| 医療従事者向けの展示会に出展(事業者側) | 医師・看護師・病院の購買担当 | 製品の紹介、商談 | 医薬品・医療機器の広告ルール(医薬品医療機器等法)との整合 |
Point
院内でイベントを企画する担当の方は次の章から、参加・視察できる医療系のイベントを探している方は「職員が外部の医療系イベントに参加・視察するとき」の章から読んでください。
主催する場合の企画の手順
- 01
目的と対象を一文で決める
「◯◯病(疾患名)で通院中の方と家族に、自宅でできる◯◯(療養の工夫)を知ってもらう」のように、誰に何を持ち帰ってもらうかを一文にします。対象が決まると、会場・時間帯・告知の場所が決まります。
- 02
院内の確認先を最初に押さえる
感染対策の担当、広報(告知の表現)、個人情報の担当、診療部門の責任者。企画書の段階でこの4か所の名前を書いておくと、直前の差し戻しを防げます。
- 03
日時と会場を診療から切り離す
外来や手術・検査が少ない時間帯、診療エリアから離れた会議室や別棟を選びます。設営と撤去の時間も、担当者のシフトに含めます。
- 04
当日の安全体制を決める
体調不良者が出たときの連絡先と対応者、AEDの位置、休憩できる場所、車椅子の方の動線を図にします。
- 05
告知文と申込フォームを作り、確認に回す
告知は医療法の広告ルールに関わりうるため、広報担当の確認を通してから掲示します。申込フォームで健康状態を聞く場合は、項目を必要なものに絞り、利用目的と同意の文を入れます。
- 06
当日のアナウンスと個別相談の受け方を決める
撮影・投稿の扱い、個別の症状の相談はその場で答えないこと、相談先の案内を、冒頭のアナウンス原稿にしておきます。
- 07
終了後の連絡とふり返り
体調不良の申し出の受付、アンケート、名簿の保管期間と廃棄の日を決めて記録します。
全体の段取りはイベント準備スケジュールの組み方、企画書の書き方はイベント企画書の書き方でも整理しています。
患者さんへの配慮と当日の安全体制
患者向けイベントでは、通院治療中の方、高齢の方、車椅子を使う方、聞こえや見え方に配慮が必要な方が同じ会場に集まります。立ったまま長く待つ設計は避け、座って参加できることを前提にします。
申込時に聞く項目(病歴ではなく、配慮の必要性を聞く)
- 車椅子の利用、付き添いの有無
- 長く座る・立つことに不安があるか
- 聞こえ・見え方について配慮してほしいこと(前方の席、文字の大きい資料など)
- 当日の緊急連絡先(任意)
Point
病名や治療内容は、イベントの運営に必要でなければ聞きません。病歴は個人情報保護法第2条第3項の要配慮個人情報に含まれ、取得には原則として本人の同意が要ります(同法第20条第2項)。聞く項目を絞ることが、そのまま安全な設計になります。
会場レイアウトと人の配置
- 座席は収容いっぱいまで入れず、通路と車椅子のスペースを先に確保する
- 段差・狭い箇所のない動線、トイレと休憩場所までの距離を確認する
- 体調を崩した方を休ませる場所を、他の参加者から見えにくい位置に用意する
- AEDの位置と、体調不良者が出たときに対応する職員・連絡の順番を決める
- 看護師などの医療職を会場に置くか、呼べば来られる待機にするかを決める
感染対策と衛生管理
感染対策の水準は、院内の感染対策の担当部門の方針に合わせます。イベントのために独自の基準を作るより、院内の基準をそのまま当てはめるほうが、職員も迷いません。
| 時期 | やること | 担当の例 |
|---|---|---|
| 企画時 | 流行期と重なるか、入院患者さんを対象に含めるか、飲食を出すかを決める | 企画担当・感染対策の担当 |
| 前日まで | 換気の方法、消毒する物(机・椅子・マイク)、手指消毒剤の置き場所を決める | 企画担当・施設管理 |
| 当日 | 体調のすぐれない方へ参加を控えてもらう案内、マスクの配備(着用の扱いは院内方針どおり) | 受付担当 |
| 終了後 | 消毒、体調不良の申し出の受付窓口の案内 | 企画担当 |
注意
感染対策の作業(前日準備・当日・終了後の消毒)は、職員の工数として企画書に書いておきます。書いていないと、当日に診療の担当者が抜けて対応することになりがちです。
告知の表現:医療法の広告ルールと言い換え
医療法第6条の5は、医業や病院・診療所について「医療を受ける者を誘引するための手段としての表示」を「広告」とし、虚偽の広告を禁じたうえで、他の病院・診療所と比べて優良である旨の広告や誇大な広告をしないことを求めています。イベントの告知チラシや院内掲示、ウェブ・SNSの投稿がこれに当たるかは、内容と載せ方によります。判断は、厚生労働省の医療広告ガイドラインと院内の広報担当の確認に任せ、企画担当は確認に回すべき表現を拾うことに集中します。
| 確認に回す表現の例 | 引っかかりうる理由 | 言い換えの例 |
|---|---|---|
| 「◯◯が治る食事法」 | 効果を断定している(誇大と読まれうる) | 「◯◯の治療中の食事で気をつけたいこと」 |
| 「地域で一番の◯◯外来」 | 他の医療機関と比べている | 「当院の◯◯外来のご紹介」 |
| 「絶対に失敗しない◯◯」 | 断定と誇大 | 「◯◯について医師が説明します」 |
| 患者さんの体験談・回復の写真 | 体験談の扱いは別に定めがあるため、掲載前に確認が必要 | 体験談は載せず、講演のテーマと講師名のみを載せる |
| 特定の薬や機器の名前と効き目 | 医薬品・医療機器の広告ルール(医薬品医療機器等法第66条)にも関わる | 製品名を出さず、治療の選択肢として一般的に説明する |
Point
表は判断の代わりではなく、確認に回す候補を見落とさないための目安です。表現の可否は広報担当と、必要に応じて外部の専門家に確認してください。
そのまま使える例文(告知・申込・当日・事後)
例文1:院内掲示・チラシ(健康教室)
◯◯(病名・テーマ)の治療中の食事で気をつけたいこと
――管理栄養士がお話しします――
日時:◯月◯日(◯)◯:◯◯〜◯:◯◯
会場:当院◯階 ◯◯会議室(外来受付とは別の入口です)
対象:当院に通院中の方とご家族、地域の方
参加費:無料/定員:◯◯名(先着順)
申込:◯階◯◯窓口、またはお電話(◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯ 平日◯時〜◯時)
※体調のすぐれない日は、無理をなさらずお休みください。
※個別の症状やお薬のご相談には、当日はお答えできません。主治医にご相談ください。
例文2:ウェブ・SNSの告知文
【参加者募集】◯月◯日(◯)に、地域の方向けの医療講演会「◯◯(テーマ)を知る」を開きます。◯◯科の医師が、◯◯の仕組みと受診の目安についてお話しします。参加無料・事前申込制です。申込はこちら(URL)。会場では参加者の撮影は行いません。
例文3:申込フォームの同意文
ご記入いただいた情報は、本講演会の参加受付、当日の座席・介助の準備、開催内容の変更や中止のご連絡、終了後の資料送付とお礼のご連絡にのみ使用します。ほかの目的での利用や、第三者への提供はいたしません。名簿は開催後◯か月で廃棄します。
□ 上記に同意して申し込みます
例文4:配慮事項を聞く欄の文言
当日の準備のため、差し支えのない範囲でお知らせください(任意)。
□ 車椅子を使用する □ 付き添いの方と参加する □ 前方の席を希望する □ 文字の大きい資料を希望する
その他、配慮してほしいこと:(自由記入)
※病名や治療内容のご記入は不要です。
例文5:当日の冒頭アナウンス
本日はお越しいただき、ありがとうございます。始める前に◯点お願いがございます。参加されている方のプライバシーを守るため、会場内での写真・動画の撮影と、SNSへの投稿はご遠慮ください。ご気分がすぐれなくなったときは、近くの職員にお声がけください。◯◯(場所)に休憩できる場所をご用意しています。個別の症状やお薬についてのご相談には、この場ではお答えできませんので、主治医にお尋ねください。
例文6:質疑で個別の相談が出たときの返し方
ご質問ありがとうございます。◯◯のような場合には、◯◯を検討することがあります。ただ、ご自身の場合に当てはまるかどうかは、診察をしたうえでないとお答えできません。次の受診の際に、今日のお話を主治医にお伝えいただくのがよいと思います。
医師法第20条は、医師が自ら診察しないで治療をすることなどを禁じています。講演の場で個人の症状に合わせた判断を示さないのは、この点からも慎重な運用といえます。
例文7:患者の会の案内(参加の事実に配慮)
◯◯の会 ◯月の集いのご案内
同じ病気と向き合う方どうしで、日々の工夫や気がかりを話し合う会です。会場は◯階◯◯室です(案内表示には会の名前を出していません)。お名前は受付で確認し、名簿は会の運営以外には使いません。途中の参加・退出も自由です。
例文8:職員研修の案内(院内メール)
件名:【◯月◯日締切】◯◯研修(◯月◯日開催)の参加登録のお願い
各部署 ご担当者様
◯◯委員会です。下記のとおり◯◯研修を開催します。
日時:◯月◯日(◯)◯:◯◯〜◯:◯◯/会場:◯◯会議室(オンライン同時配信あり)
対象:◯◯部門の職員
当日参加できない方には、後日録画をお送りします。シフトの調整が必要な場合は、所属長とご相談ください。
登録:(URL) 締切:◯月◯日(◯)
例文9:終了後のお礼と連絡(申込時に連絡の同意を得た方へ)
先日は◯◯講演会にご参加いただき、ありがとうございました。当日の資料を添付いたします。講演会の後に体調の変化があった場合や、お気づきの点がございましたら、◯◯(窓口・電話番号)までご連絡ください。
職員が外部の医療系イベントに参加・視察するとき
医療系の展示会、学会、病院経営や医療情報システムのセミナーには、職員として参加・視察する機会があります。主催側とは別に、次の準備をしておくと持ち帰りが変わります。
| イベントの形 | 向いている目的 | 準備 |
|---|---|---|
| 展示会(医療機器・システム・病院設備など) | 複数の製品を短時間で比べる | 見たい製品と質問を事前にリスト化、名刺交換後の営業連絡を誰が受けるか決める |
| セミナー・フォーラム(会場・オンライン・併用) | 経営やデジタル化の動向を知る | 院内で共有したい論点を先に決め、参加後に要点を共有する |
| 学会 | 専門領域の知識の更新 | 院内の参加申請と費用の扱いを確認する |
展示会の回り方は展示会の回り方、参加の稟議は展示会参加の稟議書にまとめています。
院内の参加申請の例:
件名:◯◯展(◯月◯日・◯◯会場)視察の申請
目的:◯◯(例:電子カルテ更新に向けた製品比較)
参加者:◯◯部 ◯◯、◯◯
見る予定の製品・テーマ:◯◯、◯◯
費用:交通費◯◯(入場料は事前登録で不要の場合はその旨)
報告:視察後◯営業日以内に、比較表と所感を◯◯会議で共有します。
注意
事業者として医療従事者向けの展示会に出展する場合、医薬品・医療機器の名称や効能・効果に関する表示は、医薬品医療機器等法第66条(誇大広告等)や第68条(承認前の広告の禁止)に関わります。出展の準備全般は展示会ブースの作り方を参照してください。
診療との両立:日時・会場・人の決め方
- 外来・手術・検査の多い曜日と時間帯を避ける(院内の実績で確認する)
- 診療エリアから離れた会議室・別棟を使い、イベントの参加者と外来の患者さんの動線を分ける
- 運営担当は診療シフトから外すか、外せない場合は担当を事務職員に寄せる
- 医師・看護師の関わり方(登壇のみ/会場待機/呼び出し待機)を事前に決める
- 設営と撤去の時間を予定に入れ、終了後すぐに診療に戻る職員を決めておく
よくある失敗と防ぎ方
| 失敗 | 起きる理由 | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 告知の差し戻しで掲示が遅れる | 広報担当の確認を最後に回した | 企画書の段階で確認先と期限を決める |
| 申込フォームで病名まで聞いてしまう | 「念のため」で項目を増やした | 運営に使わない項目は聞かない。病名は記入不要と書く |
| 質疑で個別の診療相談になる | 登壇者と事前に線引きを話していない | 返し方の例文を登壇者と共有しておく |
| 患者の会の参加者が外来で見られる | 会場の案内表示に会の名前を出した | 表示は部屋番号だけにする |
| 当日、診療の担当者が抜けて対応した | 感染対策や設営の工数を見込んでいない | 準備・当日・終了後の作業を工数として書く |
| 写真を広報に使って問い合わせが来る | 撮影と掲載の同意を取っていない | 撮影の有無を告知と冒頭で伝え、掲載する人からは個別に同意を取る |
主催前のチェックリスト
- 目的と対象を一文で書けている
- 感染対策・広報・個人情報・診療部門の確認先が決まっている
- 外来・手術・検査と重ならない日時になっている
- 会場が診療エリアから分かれ、車椅子の動線と休憩場所がある
- 体調不良者への対応者、連絡の順番、AEDの位置を共有した
- 告知文を広報担当が確認した(比較・誇大・効果の断定・体験談がない)
- 申込フォームの項目は運営に必要なものだけで、利用目的と同意の文がある
- 撮影・投稿の扱いを告知と冒頭アナウンスで伝える
- 個別相談には答えない運用を登壇者と確認した
- 名簿の保管期間と廃棄日を決めた
注意
写真をSNSに載せる場合はイベント写真のSNS投稿と個人情報、健康に関わる申し出の扱いはアレルギーの申し出は要配慮個人情報か、バリアフリーの準備はイベントのアクセシビリティを参照してください。
この記事の要点
- 医療機関のイベントは「主催」「職員が参加」「事業者として出展」で準備が違う。まず立場を決める。
- 主催する場合は、体調への配慮・感染対策・プライバシー・診療との両立・告知の表現の5つを先に決める。
- 告知は医療法第6条の5の広告に当たりうる。比較・誇大・効果の断定・体験談は広報担当の確認に回す。
- 病歴は要配慮個人情報に含まれる。申込で聞くのは配慮の必要性だけに絞り、利用目的と同意を示す。
- 質疑で個別の診療相談に答えない返し方を、登壇者と事前に共有する。
FAQ
よくある質問
健康教室や医療講演会、患者の会・家族会、院内の季節行事、職員研修、病院見学会などがあります。種類ごとの対象と先に決めることは、記事冒頭の一覧表にまとめています。
医療法第6条の5は、医業や病院・診療所について患者さんを誘引するための表示を「広告」としています。チラシや院内掲示、ウェブの告知が当たるかは内容と載せ方によるため、厚生労働省の医療広告ガイドラインと院内の広報担当の確認で判断してください。
運営に必要でなければ聞きません。病歴は個人情報保護法の要配慮個人情報に含まれ、取得には原則として本人の同意が要ります。配慮のための情報は、車椅子の利用や席の希望など、病名を含まない項目で足ります。
一般的な説明にとどめ、ご本人に当てはまるかは診察しないと答えられないことを伝えて、主治医への相談を勧めます。返し方の例文を事前に登壇者と共有しておくと、その場で迷いません。
禁止を強制することは難しいため、告知と冒頭アナウンスで「撮影・投稿はご遠慮ください」とお願いします。主催者が記録写真を撮る場合は、写る範囲と掲載先を伝え、掲載する方からは個別に同意を取ります。
院内の感染対策の方針に沿って、入院中の方を対象から外す、定員を減らすなどの判断はありえます。その場合は、条件と理由を告知の段階で示してください。
展示会の主催者のサイトや、医療・ヘルスケア分野のセミナー情報をまとめたサイトで探せます。参加前に、見たい製品・聞きたいテーマを決め、院内の参加申請を済ませておくと、持ち帰りが具体的になります。