個人情報
ウェビナー・オンラインイベントの個人情報
データはツールの中にも残る
オンライン開催は、対面よりも多くのデータが自動的に残ります。 参加者情報だけでなく、いつ入室していつ退出したかという視聴ログ、チャットの発言、質問、そして録画。そのほとんどが自社のサーバーではなく、外部ツールの中にあります。この記事は、条文に戻って何を整理しておく必要があるかをまとめます。
結論
ウェビナーで扱う情報のうち、第2条第1項の「特定の個人を識別することができるもの」に当たるものは個人情報として扱われます。外部の配信ツールにデータを預ける構図は第27条第5項第1号の委託に当たるかという整理が必要になり、預けたデータについては第23条の安全管理措置が関わります。録画を後から公開する場合は、第17条の利用目的に入っているかが問題になります。
根拠と、この記事の範囲
本記事の条文はe-Gov法令検索の個人情報の保護に関する法律から取得しています(2026年10月時点)。
Point
特定の配信ツールの仕様については書きません。 設定項目も保存期間も、ツールとプランによって違い、更新もされます。本記事はどのツールを使う場合でも確認すべき論点を条文から整理します。実際の設定は、使うツールの公式ドキュメントで確認してください。
注意
外国にある事業者への提供(第28条)の論点は本記事の取得範囲外です。海外のツールを使う場合に別の検討が必要かどうかは、本記事では扱いません。弁護士に相談してください。
何が残るのかを一覧にする
最初の作業は、どこに何が残るかを把握することです。把握していないものは管理できません。
- 申込時の入力情報(氏名、会社名、メールアドレス等)
- 入室・退出のログ(誰が、いつ、どれだけ視聴したか)
- チャットの発言(氏名と紐づいている)
- Q&Aの質問(匿名設定でも管理画面では識別できる場合がある)
- 投票・アンケートの回答
- 録画データ(参加者のカメラ・音声が入っている場合)
- 参加者の画面表示名
- 登録時のIPアドレス等(ツールが取得している場合)
Point
視聴ログが対面にはないデータです。 「誰が何分見たか」は営業上は価値がありますが、利用目的に書いていなければ使えません(第17条)。使う予定があるなら、申込の文面に入れておいてください。
外部ツールに預ける構図を整理する
個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合(第27条第5項第1号)
配信ツールにデータが入る構図が、この委託に当たるかを整理しておく必要があります。当たる場合、提供先は第三者に該当しないものとするとされます。
注意
どのツールのどの利用形態が委託に当たるかは、本記事では判断しません。 契約の形と実際のデータの流れによります。利用規約とデータ処理に関する条項を確認し、必要なら弁護士に相談してください。
第23条 — 預けた先も含めた安全管理
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。(第23条)
注意
具体的に何をすれば足りるかは条文に書かれていません。 以下はウェビナー運営で確認すべき箇所の洗い出しであり、法令上の要件の列挙ではありません。
- ツールの管理者アカウントを誰が持っているか
- 共同ホスト・パネリストに設定した外部の人が参加者情報を見られないか
- 録画の保存先(クラウドかローカルか)と、アクセスできる人
- ダウンロードした参加者リストがどの端末に入ったか
- 退職・契約終了時のアカウントの扱い
- 無料プランのアカウントに過去のイベントのデータが残っていないか
- 登壇者が使う自分のアカウント経由でデータが残らないか
Point
登壇者や協力会社のアカウントが盲点です。 共同ホストに設定すると参加者情報が見える場合があります。誰にどの権限を付与するかを、当日の運営設計に入れてください。
録画を後から使う場合
録画はその場の配信とは別の利用です。第17条第1項は利用目的をできる限り特定することを求めており、第17条第2項は変更の範囲を「変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲」に限っています。
| 録画の使い方 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 参加者へのアーカイブ配信 | 申込時の利用目的に入っているか |
| 欠席者への共有 | 同上 |
| 一般公開(Webサイト・動画サイト) | 同上。参加者の映像・音声が入っていないか |
| 営業資料への転用 | 同上 |
| 社内の記録としてのみ保存 | 保存期間を決めているか(第22条) |
Point
参加者のカメラ・音声・チャットが録画に入るかどうかで、話が変わります。 質疑応答で参加者が顔を出して話した部分を一般公開するなら、その参加者との関係で別の検討が必要です。録画の範囲を設定で制御できるなら、制御するのがいちばん簡単です。
注意
肖像権に関する論点は、本記事では扱いません。 個人情報保護法とは別の枠組み(判例法理)であり、条文の裏付けを示せないためです。参加者が映る録画を公開する予定があるなら、弁護士に相談してください。
申込から終了後までの設計
- 01
残るデータを一覧にする
申込情報、視聴ログ、チャット、Q&A、投票、録画。使う予定がないものも含めて書き出します。残ることと使うことは別です。
- 02
使うものを決め、利用目的に書く
とくに視聴ログ。営業に使う予定があるなら、申込の文面に入れてください(個人情報の取扱いの書き方)。
- 03
録画の使い道を先に決める
アーカイブ配信、一般公開、営業転用。開催後に決めると、利用目的の変更の問題になります。
- 04
権限を設計する
管理者、共同ホスト、パネリスト。外部の登壇者や協力会社に何を見せるかを決めます。
- 05
参加者への案内文に反映する
録画すること、チャットが記録されること、アーカイブの予定。開始時のアナウンスだけでなく、申込の段階で書いておきます。
- 06
終了後の処理を決める
ツール内のデータ、ダウンロードしたリスト、録画。誰が、いつ、何を消すのか。 第22条は努力義務ですが、決めていなければ消えません。
- 残るデータを一覧にした
- 視聴ログを使うなら利用目的に書いた
- 録画の使い道を開催前に決めた
- 参加者の映像・音声が録画に入る範囲を設定で制御した
- 共同ホスト・パネリストの権限を決めた
- 外部ツールの利用が委託に当たるかを整理した
- 終了後に誰が何を消すかを決めた
- ハイブリッド開催なら会場側の論点も確認した
注意
ハイブリッド開催の設計はハイブリッドイベント、オンライン開催全般はオンラインイベントの進め方、全体像は来場者名簿と個人情報保護法を参照してください。
この記事の要点
- オンラインは対面より多くのデータが自動的に残る。申込情報・視聴ログ・チャット・Q&A・投票・録画。
- 視聴ログは対面にないデータ。営業に使う予定があるなら、第17条の利用目的に書いておく。
- 外部ツールに預ける構図が第27条第5項第1号の委託に当たるかを整理する。利用規約を確認し、必要なら弁護士に。
- 共同ホスト・パネリストの権限が盲点。 外部の登壇者が参加者情報を見られる設定になっていないか。
- 録画の使い道は開催前に決める。 後から決めると第17条第2項の利用目的の変更の問題になる。
- 終了後に誰が何を消すかを決める。 第22条は努力義務だが、決めていなければ消えない。
FAQ
よくある質問
場面で分かれます。申込フォームで本人から直接取得するなら、利用目的をあらかじめ明示することが求められます(第21条第2項)。配信ツールに参加者情報が入るのが利用目的の達成に必要な範囲の委託に当たる整理なら、第三者提供の同意は要りませんが、委託先の監督が必要です。共催者や協賛企業に参加者情報を渡す場合は、原則としてあらかじめ本人の同意が必要です(第27条第1項)。
第2条第1項は個人情報を「特定の個人を識別することができるもの」等と定義しています。申込時の入力情報のほか、氏名と紐づいた視聴ログ、チャットの発言、Q&Aの質問、投票の回答がこれに当たりうる構造です。まずどこに何が残るかを一覧にすることをおすすめします。残ることと使うことは別なので、把握したうえで使うものだけを利用目的に書いてください。
第17条第1項は利用目的をできる限り特定することを求めており、第17条第2項は利用目的の変更を変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲に限っています。誰が何分視聴したかを営業に使う予定があるなら、申込の段階で利用目的に書いておいてください。後から足すのは難しくなります。
第27条第5項第1号は、利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いの全部または一部を委託することに伴って提供される場合、提供先は第三者に該当しないものとするとしています。配信ツールの利用がこれに当たるかは、契約の形と実際のデータの流れによります。本記事では判断しません。利用規約とデータ処理に関する条項を確認し、必要なら弁護士に相談してください。
開催前に利用目的に入れておく必要があります。第17条第2項により、利用目的の変更は変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行えません。また参加者のカメラ・音声・チャットが録画に入る場合は、その参加者との関係で別の検討が必要です。録画の範囲を設定で制御できるなら、制御するのが最も簡単です。なお肖像権は個人情報保護法とは別の枠組みなので、本記事では扱っていません。
第22条は、利用する必要がなくなったときに個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならないとしています。努力義務の書き方で具体的な期間は条文にありません。ツール内のデータ、ダウンロードした参加者リスト、録画について、誰がいつ何を消すのかを決めてください。無料プランのアカウントに過去のイベントのデータが残ったまま、という状態になりがちです。