個人情報
イベントの「個人情報の取扱いについて」
条文から逆算して何を書くか
「個人情報の取扱いについて」の文面は、他社のものをコピーしても機能しません。 書くべき内容が、自分たちが実際に何に使うかで変わるからです。この記事は文例を丸ごと提供するものではなく、個人情報保護法のどの条文が、文面のどの部分を要求しているのかを逆算して示します。構成要素が分かれば、自分の案件に合わせて書けます。
結論
イベントの申込で個人情報を取得する場合、文面に関わる条文は主に3つです。第17条第1項は利用目的をできる限り特定すること、第21条第2項は本人から直接書面(電磁的記録を含む)に記載された個人情報を取得する場合にあらかじめ明示すること、第27条第1項は原則としてあらかじめ本人の同意なく個人データを第三者に提供してはならないことを定めています。
根拠と、この記事の立場
本記事の条文はe-Gov法令検索の個人情報の保護に関する法律から取得しています(2026年10月時点)。
Point
この記事は「この文例を使えば適法」という保証をしません。 必要な記載は、取得する項目、使う場面、提供先によって変わります。本記事が示すのは条文が要求している構成要素です。実際の文面は、これを埋めたうえで弁護士に確認してください。
注意
全体像は来場者名簿と個人情報保護法に整理しています。本記事は文面を作る作業に絞っています。
コピーが機能しない理由
他社の文面をそのまま使うと、たいてい2つの問題が起きます。
- 01自分たちが実際に使う場面が書かれていない — 第17条第1項は「できる限り特定」を求めています。借りてきた文面には、自分たちの用途が入っていません。
- 02書いていない用途には使えなくなる — 第17条第2項は、利用目的の変更を「変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲」に限っています。あとから足せません。
個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的(以下「利用目的」という。)をできる限り特定しなければならない。(第17条第1項)
Point
文面を書く作業は、文章を考える作業ではありません。 「自分たちはこの情報を何に使うのか」を全部洗い出す作業です。洗い出しが終われば、文面はほぼ自動的に決まります。
構成要素 — 条文が要求しているもの
条文ごとに、文面に反映すべきものを並べます。
| 条文 | 文面に必要なもの |
|---|---|
| 第17条第1項 | 利用目的を、使う場面の単位でできる限り特定して書く |
| 第21条第2項 | それをあらかじめ明示する(送信前に読める位置に置く) |
| 第27条第1項 | 第三者に提供する予定があるなら、その旨(同意を取る設計にする) |
| 第27条第5項第3号 | 共同利用にするなら、条文が挙げる5項目を事前に示す |
| 第23条 | 安全管理について講じる措置(具体の記載内容は条文にない) |
| 第32条〜 | 本人からの開示等の請求の受付窓口 |
注意
第23条の安全管理措置について、何をどこまで文面に書くかは条文に定めがありません。 本記事では「こう書けばよい」という定型を示しません。
利用目的 — ここが文面の中身
もっとも手を抜かれやすく、もっとも重要な部分です。「イベント運営のため」では特定できているとは言いにくいでしょう。実際に使う場面を分解してください。
イベントで発生する利用場面を洗い出す
- 参加申込の受付と確認(受付番号の発行、確認メールの送信)
- 当日の受付(本人確認、名札の作成)
- 開催前後の連絡(会場変更、中止・延期の連絡、資料の送付、お礼)
- 配慮の申し出への対応(合理的配慮の準備)
- 参加状況の集計と報告書の作成
- アンケートの集計と分析
- 次回以降のイベントの案内
- 自社の商品・サービスの案内(営業活動)
- 共催・協賛企業への提供(→ 第27条の論点)
- 登壇者・出展者への提供(→ 第27条の論点)
Point
「次回以降の案内」と「営業活動」は、書き忘れるとあとで困ります。 第17条第2項により、利用目的の変更は「変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲」を超えられません。使う可能性があるなら、最初に書いておく。
注意
一方で、使わない用途を念のため書き足すのも良くありません。読む側の判断材料が増えるだけで、申込の離脱につながります。本当に使う場面だけを、具体的に。
第三者提供を書く場合
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。(第27条第1項)
条文が挙げる除外(法令に基づく場合、生命身体財産の保護、公衆衛生・児童の健全育成、国等への協力、学術研究機関等)に、協賛企業へのリスト提供は当たりません。したがってあらかじめ本人の同意が原則になります。
共同利用という枠組みを使う場合
第27条第5項第3号は、一定の場合に提供先が「第三者に該当しないものとする」としています。ただし条件があり、次の5つをあらかじめ本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置いていることが必要です。
- 01共同して利用する旨
- 02共同して利用される個人データの項目
- 03共同して利用する者の範囲
- 04利用する者の利用目的
- 05当該個人データの管理について責任を有する者の氏名又は名称及び住所(法人にあっては、その代表者の氏名)
Point
5項目すべてです。 「共催各社で共有します」とだけ書いても、②③④⑤が欠けています。とくに⑤の管理責任者は忘れられがちです。詳しくは共催セミナーと共同利用に整理しています。
注意
委託(第27条第5項第1号)と共同利用(第3号)は別の枠組みです。 本記事ではどちらを選ぶべきかの判断を示しません。構成が決まっていない段階で文面を書き始めないでください。
どこに、どう置くか
第21条第2項は「あらかじめ」「明示」という書き方です。つまり置き場所と見え方が条文の要求に関わります。
個人情報取扱事業者は、前項の規定にかかわらず、本人との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電磁的記録を含む。以下この項において同じ。)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合その他本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。(第21条第2項)
- 送信ボタンを押す前に読める位置にある
- 別ページへのリンクだけになっていないか検討した
- スマートフォンで表示したときにも読める(折りたたみの中に隠れていないか)
- 紙の申込書なら記入欄と同じ面にある
- 当日その場で記入してもらう用紙にも同じ記載がある
- 問い合わせ先が書かれている
Point
当日の紙のアンケートが抜けやすいところです。 ウェブの申込フォームは整えたのに、会場で配るアンケート用紙には何も書いていない、という状態がよくあります。個人情報を書いてもらう紙は全部、同じ目で点検してください。
記入用の骨組み
構成要素を並べると、文面はおおむね次のような骨組みになります。◯◯の部分と利用目的の行は、自分たちが実際に使う場面に合わせて書き換えてください。使わない行は消します。これは記入の手がかりで、この文面で適法になることを保証するものではありません。
個人情報の取扱いについて / ◯◯株式会社(以下「当社」)は、本イベントのお申込みでいただいた個人情報を、次の目的で利用します。①お申込みの受付と確認のご連絡 ②当日の受付と名札の作成 ③開催に関するご連絡(会場・時間の変更、資料の送付、お礼) ④アンケートの集計と今後のイベントの改善 ⑤当社が主催する今後のイベントのご案内。いただいた個人情報は、法令に基づく場合などを除き、ご本人の同意なく第三者に提供しません。個人情報に関するお問い合わせ、開示等のご請求は、◯◯部(メールアドレス:◯◯)までご連絡ください。
- 共催・協賛企業に渡す予定がある場合:第三者提供として同意を取るのか、共同利用にするのかを先に決め、その枠組みに沿った記載を足します(前章)
- 営業の案内に使う場合:「当社の商品・サービスのご案内」のように、利用目的の行に明記します
- 配慮の申し出を受ける場合:何のために聞くのか、誰が見るのかを書き添えます
注意
申込フォームの項目そのものを絞る考え方はイベント申込フォームの設計、参加者から削除を求められたときの対応は情報の削除を求められたらで整理しています。
文面を作る手順
- 01
取得する項目を決める
氏名、会社名、部署、役職、メールアドレス、電話番号、業種、アンケートの回答。何に使うか説明できない項目は取らない。 ここを削るのが、いちばん効く作業です。
- 02
利用場面を全部書き出す
前章のチェックリストを使ってください。将来使う可能性があるものも含めて書き出し、そのうえで実際に書くものを選びます。
- 03
第三者提供の有無を決める
協賛・共催・登壇者・出展者。渡す予定があるなら、委託か共同利用か通常の第三者提供かを先に決める。 構成が決まらないと文面は書けません。
- 04
条文ごとに要素を埋める
利用目的(第17条)、第三者提供(第27条)、共同利用の5項目(第27条第5項第3号)、開示等の請求の窓口。条文を見ながら埋めてください。
- 05
置き場所を点検する
ウェブフォーム、紙の申込書、当日のアンケート用紙。個人情報を書かせるもの全部に同じ記載があるか。
- 06
弁護士に確認する
最後は必ず。 本記事は構成要素を示すものであり、適法性を保証するものではありません。
注意
アンケート用紙の記載はアンケートの個人情報の注意書き、名刺を受け取る場合は名刺は個人情報か、オンライン開催はウェビナーの個人情報を参照してください。
この記事の要点
- 他社の文面のコピーは機能しない。 第17条第1項が求めるのは「できる限り特定」した利用目的で、それは自分たちの用途で決まる。
- 第17条第2項により利用目的の変更は「関連性を有すると合理的に認められる範囲」まで。使う可能性があるなら最初に書く。
- 第21条第2項は「あらかじめ明示」。送信ボタンを押す前に読める位置に置く。
- 協賛企業への提供は第27条第1項の除外に当たらない。あらかじめ本人の同意が原則。
- 共同利用(第27条第5項第3号)は5項目を事前に示すことが条件。「共催各社で共有します」だけでは足りない。
- 当日の紙のアンケートが抜けやすい。 個人情報を書かせるものは全部点検する。
FAQ
よくある質問
記事内に記入用の骨組みを載せています。利用目的の行は、申込の受付、当日の受付、開催前後の連絡、アンケートの集計、今後の案内など、自分たちが実際に使う場面だけを残して書き換えてください。第三者に渡す予定がある場合や営業の案内に使う場合は、その記載を足します。骨組みは記入の手がかりで、その文面で適法になることを保証するものではないため、最後は弁護士に確認してください。
条文から逆算すると、利用目的(第17条第1項で「できる限り特定」)、第三者に提供する予定があるならその旨(第27条第1項)、共同利用にするなら条文が挙げる5項目(第27条第5項第3号)、開示等の請求の受付窓口が構成要素になります。これをあらかじめ明示する必要があります(第21条第2項)。本記事は構成要素を示すもので、特定の文例の適法性を保証するものではありません。
おすすめしません。第17条第1項は利用目的を「できる限り特定」することを求めており、特定すべき内容は自分たちが実際に何に使うかで決まります。また第17条第2項により、利用目的の変更は変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行えないため、借りてきた文面に自分たちの用途が入っていないと、あとから使えなくなります。
第17条第1項は「できる限り特定しなければならない」としています。イベントでは、申込の受付、当日の受付、開催前後の連絡、参加状況の集計、次回以降の案内、営業活動では性質が異なります。使う場面の単位で書くのが出発点です。ただし、使わない用途を念のため書き足すと申込の離脱につながるため、本当に使う場面だけを具体的に書いてください。
足りません。第27条第5項第3号は、共同して利用する旨に加えて、共同して利用される個人データの項目、共同して利用する者の範囲、利用する者の利用目的、当該個人データの管理について責任を有する者の氏名または名称および住所(法人はその代表者の氏名)を、あらかじめ本人に通知し、または本人が容易に知り得る状態に置いていることを求めています。5項目すべてが必要です。
個人情報を記入してもらう書面であれば、第21条第2項の「本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合」に当たりえます。ウェブの申込フォームは整えたのに当日のアンケート用紙には何も書いていない、という状態になりがちです。個人情報を書かせるものは全部、同じ目で点検してください。