言葉の使い分け
「致します」と「いたします」の違い
使い分けと場面別の例文40
即答:メールや文書では「お願いいたします」「ご連絡いたします」「失礼いたします」とひらがなで書けば間違いありません。「致します」と漢字で書いても誤りではありませんが、前の言葉に添えて「する」を改まって言うだけの使い方は、補助的な用法を仮名で書く公用文の考え方に沿ってひらがなにそろえるのが無難です。漢字にするのは「不徳の致すところ」「思いを致す」のように、招く・及ぼすという意味が残る言い回しだけと覚えておけば迷いません。このページでは、3ステップの見分け方、早見表、そのまま使える場面別の例文40、「します」「させていただきます」との比較、よくある失敗、送信前のチェックリストをまとめました。
結論
「致す(いたす)」は「する」を改まって言う言葉です。文化審議会答申「敬語の指針」では、「参る」「申す」「おる」と並ぶ謙譲語Ⅱ(丁重語)に分類され、自分側の行為を話や文章の相手に対して丁重に述べる働きを持ちます。常用漢字表には「致」の訓として「いたす」が載っているため、漢字で書くことも認められた書き方です。
結論:迷ったらこの3つだけ覚える
| 使い方 | 書き方 | 例 |
|---|---|---|
| 前の言葉に添える(ご〜いたす/お〜いたす/〜いたす) | ひらがな | お願いいたします/ご連絡いたします/失礼いたします |
| 「する」の代わりに単独で使う | どちらでもよい(一通の中でそろえる) | そのようにいたします/そのように致します |
| 招く・及ぼすの意味が残る言い回し | 漢字 | 不徳の致すところ/思いを致す |
注意
社内に表記ルールがある場合はそちらを優先してください。ルールがなければ、すべてひらがなにそろえるのがいちばん揺れが出にくい書き方です。
「致す」の意味と敬語としての働き
「致」という字にはある所まで行き着かせる・招くという意味があり、常用漢字表でも音読みの例に「誘致」「合致」が挙がっています。この意味が残るのが「不徳の致すところ(自分の至らなさが招いた結果)」「思いを致す(考えを及ぼす)」といった言い回しです。
一方、ビジネスで使う「いたす」のほとんどは「する」の改まった言い方です。「敬語の指針」では、次の3つの形に整理できます。
| 形 | 敬語の種類(敬語の指針) | 働き | 例 |
|---|---|---|---|
| いたす(←する) | 謙譲語Ⅱ(丁重語) | 自分側の行為を、話や文章の相手に丁重に述べる | では、そのようにいたします。 |
| ……いたす | 謙譲語Ⅱの一般形 | 「〇〇する」の形の動詞を丁重にする | 利用いたします/失礼いたします |
| お(ご)……いたす | 謙譲語Ⅰ兼謙譲語Ⅱ | 行為の向かう先の人を立て、同時に相手へ丁重に述べる | お待ちいたします/ご案内いたします |
表の2行目・3行目は、どちらも前の言葉に「する」の意味を添えているだけで、「致」の字が持つ「招く」の意味はありません。だから、ここはひらがなで書くのが筋の通った書き分けです。
Point
根拠:文化審議会の建議「公用文作成の考え方」は、常用漢字表に漢字があっても仮名で書くものとして動詞・形容詞などの補助的な用法を挙げ、「~(し)て頂く→ていただく」「~(し)て下さる→てくださる」などを例示しています。実際の動作を表す場合は「賞状を頂く」のように漢字を使う、とも書かれています。「いたす」そのものは例に挙がっていないため、「いたします」のひらがな書きは、この考え方を当てはめた書き分けです。民間のメールを縛る決まりではありませんが、書き分けの目安になります。
3ステップの見分け方
- 01
「いたす」の前に言葉がくっついているか見る
「お願い」「ご連絡」「失礼」「お待ち」のように前の言葉と一続きなら、添える使い方です。ひらがなで書きます。
- 02
「招く」「及ぼす」に置き換えられるか試す
「不徳が招いたところ」「思いを及ぼす」と言い換えて意味が通るなら、字の意味が生きています。漢字で書きます。
- 03
どちらでもなければ、一通の中でそろえる
「私がいたします」「そのようにいたします」のような単独の使い方は、漢字でもひらがなでも構いません。同じメールの中で混ぜないことだけ守ります。
よく使う言い回しの早見表
| 言い回し | おすすめの書き方 | 理由 |
|---|---|---|
| よろしくお願いいたします | ひらがな | 「お願い」に添える使い方 |
| ご連絡いたします/ご報告いたします | ひらがな | ご〜いたす(謙譲語Ⅰ兼Ⅱ) |
| お送りいたします/お待ちいたします | ひらがな | お〜いたす(謙譲語Ⅰ兼Ⅱ) |
| 失礼いたします/感謝いたします | ひらがな | 「〇〇する」に添える一般形 |
| お伺いいたします | ひらがな | 敬語の指針が習慣として定着した例に挙げる形 |
| いたしかねます | ひらがな推奨(漢字も可) | 単独の「する」だが、お断りは柔らかく見せたい |
| そのように致します | どちらでも可 | 単独の「する」。一通の中でそろえる |
| 不徳の致すところ | 漢字 | 招くの意味が残る |
| 思いを致す | 漢字 | 及ぼすの意味が残る |
そのまま使える例文40(場面別)
依頼・お願い(1〜6)
- 01お手数ですが、ご確認のほどよろしくお願いいたします。
- 02ご多用のところ恐縮ですが、◯日までにご返信をお願いいたします。
- 03引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
- 04今後ともご指導のほど、よろしくお願いいたします。
- 05何卒ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
- 06恐れ入りますが、添付の書類にご記入のうえご返送をお願いいたします。
連絡・報告(7〜12)
- 01社内で確認のうえ、明日中にご連絡いたします。
- 02進捗につきまして、下記のとおりご報告いたします。
- 03日程が決まりしだい、改めてご連絡いたします。
- 04本日の打ち合わせの内容を共有いたします。
- 05担当者が戻りましたら、折り返しお電話いたします。
- 06変更点がございましたら、すぐにお知らせいたします。
送付・案内(13〜18)
- 01ご依頼の見積書を添付にてお送りいたします。
- 02資料は本日中に郵送いたします。
- 03会場までの道順をご案内いたします。
- 04下記のとおり、説明会を開催いたします。
- 05新しい担当者をご紹介いたします。
- 06当日は受付にてお待ちいたします。
訪問・電話・会議(19〜24)
- 01では、◯日の◯時に御社へお伺いいたします。
- 02お忙しいところ失礼いたします。株式会社△△の□□と申します。
- 03それでは、本日の会議を始めます。まず私から議題をご説明いたします。
- 04お先に失礼いたします。
- 05本日はお時間をいただき、ありがとうございました。これにて失礼いたします。
- 06資料の内容について、私から補足いたします。
お礼・お詫び(25〜30)
- 01おかげさまで無事に終えることができました。皆さまのご協力に心より感謝いたします。
- 02ご迷惑をおかけいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。
- 03ご心配をおかけいたしましたが、本日無事に解決いたしました。
- 04部下の失敗も、上司である私の不徳の致すところです。
- 05大変失礼いたしました。以後、十分に注意いたします。
- 06確認が行き届かず、申し訳ございません。確認の手順を改善いたしました。
お断り・保留(31〜34)
- 01誠に恐縮ですが、ご要望にはお応えいたしかねます。
- 02大変申し訳ございませんが、今回は辞退いたします。
- 03検討のうえ、◯日までにお返事いたします。
- 04あいにくその日は都合がつかないため、別の日程をご提案いたします。
単独の「いたす」と漢字の「致す」(35〜40)
- 01承知しました。では、そのようにいたします。
- 02会議室の予約は、私がいたしますのでご安心ください。
- 03その作業は、明日の朝いちばんにいたします。
- 04被災された方々の暮らしに思いを致し、支援を続けてまいります。
- 05式典の中止は、主催者である私どもの不徳の致すところでございます。
- 06創業からの歩みに思いを致し、次の計画を立てました。
注意
35〜37の単独の「いたす」は「致します」と書いても構いません。38〜40は、招く・及ぼすの意味が残るため漢字で書いています。
メール全文の型(送付)
件名:◯◯のお見積書送付のご案内
株式会社◯◯
◯◯様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
ご依頼いただいた◯◯のお見積書を添付にてお送りいたします。
内容をご確認のうえ、ご不明な点がございましたらお知らせください。
どうぞよろしくお願いいたします。
メール全文の型(お詫び)
件名:納品遅延のお詫び
株式会社◯◯
◯◯様
いつもお世話になっております。株式会社△△の□□です。
このたびは納品が遅れ、ご迷惑をおかけいたしました。ひとえに弊社の不徳の致すところと、深く反省しております。
本日、発送を完了いたしました。到着は◯日の予定です。
今後は工程の確認を見直し、同じことがないよう努めてまいります。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
注意
「よろしくお願いいたします」の言い換えは「よろしくお願いいたします」の言い換え、送るの敬語の選び方は「お送りします」と「ご送付いたします」の違いにまとめています。
「します」「いたします」「させていただきます」の違い
| 言い方 | 敬語の種類 | 丁重さ | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| ご連絡します | 謙譲語Ⅰ+丁寧語 | ふつう | 社内、やり取りが続いている相手 |
| ご連絡いたします | 謙譲語Ⅰ兼Ⅱ+丁寧語 | より改まる | 取引先、初めての相手、文書 |
| ご連絡させていただきます | 相手の許可・恩恵を前提にした形 | 場面による | 相手の了承を得て行うとき |
「敬語の指針」は、「(お・ご)……(さ)せていただく」を、相手の許可を受けて行い、そのことで恩恵を受ける場合に使う形と説明しています。許可の条件がない場面ではやや冗長になり、「発表いたします。」の方が簡潔に感じられるとも述べています。許可をもらう場面でなければ「いたします」で十分です。
同じ建議「公用文作成の考え方」では、解説・広報などの文章で「おります」「いたします」は必要に応じて使うが多用しないとしています。一通のメールに「いたします」が三つ以上続くときは、一部を「します」「お送りします」に変えると読みやすくなります。
(書き換え前)資料をお送りいたします。ご確認をお願いいたします。追ってご連絡いたします。
(書き換え後)資料をお送りします。ご確認をお願いいたします。詳細は追ってご連絡しますので、少々お待ちください。
同じ考え方で書き分ける言葉
| 添える使い方(ひらがな) | 実際の動作(漢字) | メモ |
|---|---|---|
| 確認していただく | 賞状を頂く | 漢字の例は公用文作成の考え方より |
| 送ってくださる | 贈物を下さる | 同上 |
| 持っていく | 街へ行く | 同上 |
| 試してみる | しっかり見る | 同上 |
| お願いいたします | 不徳の致すところ | このページのテーマ |
くわしくは「いただく」と「頂く」、「ください」と「下さい」をご覧ください。
よくある失敗と直し方
| 失敗例 | どこがまずいか | 直し方 |
|---|---|---|
| 一通の中に「お願い致します」と「ご連絡いたします」が混在 | 表記の揺れが目につく | どちらかにそろえる(迷ったらひらがな) |
| 受付でお名前をご記入いたしてください | 「いたす」は自分側の行為に使う言葉。相手の行為には使えない | 受付でお名前をご記入ください |
| ご注文いたしましたか(客に) | 同じく相手の行為をへりくだらせている | ご注文なさいましたか/ご注文はお済みでしょうか |
| 待ちいたします | 「……いたす」は「〇〇する」の形の動詞にしか付かない | お待ちいたします/待っております |
| 「お伺いいたします」は二重敬語だから避ける | 敬語の指針は習慣として定着した例に挙げている | そのまま使ってよい |
| 文ごとに「いたします」を重ねる | くどく、堅く読める | 「します」「お送りします」を交ぜる |
| 変換候補のまま「致します」を送る | 変換で漢字が先に出ることがあり、意図せず混在する | 送信前に「致」で検索して確認する |
| 不徳のいたすところ | 誤りではないが、招くの意味が残る言い回し | 不徳の致すところ |
送信前のチェックリスト
- 「お願い」「ご連絡」「失礼」などに添えた「いたします」はひらがなになっている
- 「致」の字が残っているのは「不徳の致すところ」「思いを致す」だけ
- 一通の中で「致します」と「いたします」が混ざっていない
- 相手の行為に「いたす」を使っていない(ご記入ください、ご確認ください)
- 「いたします」が三つ以上続いていない
- 許可をもらう場面でないのに「させていただきます」を重ねていない
- 社内の表記ルールがある場合は、それに合わせている
この記事の要点
- どちらも誤りではないが、メールは「お願いいたします」とひらがなにそろえるのが無難。
- 「ご〜いたす」「〜いたす」は前の言葉に添える使い方。補助的な用法は仮名という公用文の考え方に沿ってひらがな。
- 「不徳の致すところ」「思いを致す」は招く・及ぼすの意味が残るので漢字。
- 「いたす」は謙譲語Ⅱ。相手の行為には使わない。
- 単独の「そのようにいたします」はどちらでもよく、一通の中でそろえる。
FAQ
よくある質問
失礼ではありません。常用漢字表に「致」の訓「いたす」が載っているので、漢字も認められた書き方です。ただ、前の言葉に添える使い方なので、ビジネスメールでは「お願いいたします」とひらがなにしておくと、公用文の書き分けの考え方とも合い、迷いがありません。
前の言葉に「する」の意味を添えるだけで、「致」の字が持つ「招く」の意味がないからです。文化審議会の建議「公用文作成の考え方」は、動詞などの補助的な用法を仮名で書くとしています(例は「ていただく」「てくださる」などで、「いたす」そのものは挙がっていません)。
「失礼する」に添える一般形の「……いたす」なので、「失礼いたしました」とひらがなにするのが無難です。
「敬語の指針」は「お伺いいたす」を、習慣として定着している二重敬語の例に挙げています。ビジネスで使って問題ありません。
「いたします」の方が改まった言い方です。取引先や文書では「いたします」、社内の連絡や「いたします」が続きすぎるときは「します」を交ぜると読みやすくなります。
単独の「する」の改まった言い方なので、どちらでも誤りではありません。お断りの文は柔らかく見せたいので、ひらがなの「いたしかねます」をおすすめします。
社内の表記ルールに合わせてください。このページの書き分けは公的な目安を当てはめたもので、会社や業界の決まりが優先されます。