個人情報
採用イベント・合同説明会の個人情報
職業安定法が重なる領域
採用イベントは、通常のイベントより一段重い領域です。理由は2つあります。1つは、個人情報保護法に加えて職業安定法が重なること。もう1つは、「そのイベントに参加していた」という事実自体が、本人にとって知られたくない情報になりうることです。在職中の転職活動、学生の併願状況。通常のセミナーとは前提が違います。
結論
採用イベントの主催者や出展企業は、職業安定法第5条の5第1項にいう「求人者」「労働者の募集を行う者」に当たりえます。同項は、求職者等の個人情報を収集・保管・使用するに当たって、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして収集し、当該収集の目的の範囲内で保管・使用しなければならないと定めています。第2項は適正に管理するために必要な措置を求めています。
根拠と、この記事の範囲
本記事の条文はe-Gov法令検索の職業安定法および個人情報の保護に関する法律から取得しています(2026年10月時点)。
Point
職業安定法第5条の5は「厚生労働省令で定めるところにより」としており、省令と指針の内容は本記事の取得範囲外です。 したがって収集してはならない情報の類型を、本記事では列挙しません。 他の記事に挙がっている項目一覧と、この記事の内容を混ぜないでください。
注意
自分が「求人者」「労働者の募集を行う者」に当たるかの判断も示しません。 採用に関わるイベントを企画する場合は、人事部門および弁護士・社会保険労務士に確認してください。
2つの法律が重なる
| 個人情報保護法 | 職業安定法第5条の5 | |
|---|---|---|
| 対象 | 個人情報・個人データ全般 | 求職者、労働者になろうとする者等の個人情報 |
| 収集の範囲 | 第17条「利用目的をできる限り特定」 | 「業務の目的の達成に必要な範囲内」 |
| 目的の扱い | 第21条「通知・公表・明示」 | 「当該目的を明らかにして」収集 |
| 使用の範囲 | 第18条等 | 「当該収集の目的の範囲内」で保管・使用 |
| 管理 | 第23条「必要かつ適切な措置」 | 第2項「適正に管理するために必要な措置」 |
…その業務の目的の達成に必要な範囲内で、厚生労働省令で定めるところにより、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。(職業安定法第5条の5第1項)
Point
職業安定法は「業務の目的の達成に必要な範囲内」という枠を、収集・保管・使用のすべてにかけています。 個人情報保護法の「利用目的をできる限り特定」とは、書き方が違います。2つを同時に満たす設計が必要です。
注意
第5条の5第1項のただし書は「本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合」としています。何が正当な事由に当たるかは本記事では扱いません。
「参加している」という事実自体が機微
通常のセミナーと決定的に違うのがここです。
- 在職中の転職希望者 — 現在の勤務先に知られると不利益が生じうる
- 学生 — どの企業の説明会に出たかは、他社や大学、周囲に知られたくないことがある
- 特定の属性を対象にしたイベント — 対象を限定した催しでは、参加の事実が属性を示してしまう
Point
だから一斉メールの事故が、通常のイベントより重くなります。 ToやCcで送信すれば、参加者全員に「誰がこのイベントに来たか」が伝わります。採用イベントでは、配信ツールを使うのを前提にしてください(一斉メールとBCC)。
- 一斉メールは必ず配信ツール(BCC運用にしない)
- 参加者名簿を会場で見える位置に置かない
- 名札に会社名を出すかを慎重に決める(在職中の参加者がいる)
- 写真・配信で参加者が映る範囲を制御する
- 出展企業への名簿提供の有無を設計する(三者の整理)
- 受付での呼び出しを氏名ではなく番号にする
注意
受付で氏名を呼ぶ運用は、周囲に誰が来ているかを伝えます。 受付番号での呼び出しに変えるだけで、この論点が消えます。
出展企業への情報提供
合同説明会では、主催者が集めた学生・求職者の情報を出展企業に渡す設計がありえます。個人情報保護法の第27条と、職業安定法の両方が関わります。
個人情報保護法側は、第27条第1項により原則としてあらかじめ本人の同意が必要で、第27条第5項第3号の共同利用を使うなら5項目をあらかじめ示す必要があります(共同利用の5項目)。
Point
職業安定法側では、受け取った出展企業も「求人者」「労働者の募集を行う者」に当たりえます。 つまり受け取った側にも第5条の5の枠がかかる構造です。出展規約で、収集の目的の範囲内での使用と適正な管理を求めてください。
- 出展企業に渡す項目を必要な範囲に絞った
- 渡す旨と範囲を申込の段階で示した
- 出展規約に利用の範囲を書いた
- 出展規約にさらに第三者へ渡さないことを書いた
- 選考に使うかどうかを明確にした
- イベント後の保管と消去を取り決めた
注意
「選考に使うかどうか」は必ず明確にしてください。 説明会の参加記録が選考の材料になるのか、ならないのか。参加者にとって重要な情報であり、収集の目的にも関わります。
設計の順番
- 01
自分がどの立場かを確認する
主催者か、出展企業か、運営を受託しているか。職業安定法第5条の5の名宛人に当たるかを人事部門・専門家に確認します。
- 02
収集の目的を定める
職業安定法は「業務の目的の達成に必要な範囲内」で、「当該目的を明らかにして」収集することを求めています。個人情報保護法の利用目的と整合させてください。
- 03
取得項目を最小にする
2つの法律が同じ方向を向いている部分です。必要な範囲内という枠がかかっている以上、多めに取るという判断が成り立ちにくい領域です。
- 04
参加の事実が漏れない運用にする
配信ツールでの一斉送信、番号での呼び出し、名簿を見える場所に置かない、写真・配信の画角。
- 05
出展企業への提供を設計する
渡すなら、申込の段階で示す。出展規約に利用の範囲と再提供の禁止を書く。
- 06
保管と消去を決める
採用に関する情報は、保持したい期間が長くなりがちです。収集の目的の範囲内という枠を意識して期間を決めてください。
Point
この領域は、通常のイベント運営の判断で進めないでください。 人事部門には採用に関する既存のルールがあります。イベント企画側だけで設計を完結させないのが、いちばん確実な進め方です。
注意
全体像は来場者名簿と個人情報保護法、文面の構成は個人情報の取扱いの書き方を参照してください。
この記事の要点
- 職業安定法第5条の5が個人情報保護法に重なる。主催者・出展企業は「求人者」「労働者の募集を行う者」に当たりえる。
- 職業安定法は「業務の目的の達成に必要な範囲内」という枠を収集・保管・使用のすべてにかけている。
- 省令・指針の内容は本記事の取得範囲外。 収集してはならない情報の類型は列挙していない。
- 「参加している」という事実自体が機微。 在職中の転職活動、学生の併願状況。
- 一斉メールは配信ツールを前提に。 BCC運用の事故が、通常のイベントより重くなる。
- 受付の呼び出しを番号にするだけで、周囲に誰が来たかが伝わる論点が消える。
FAQ
よくある質問
2点あります。1つは職業安定法第5条の5が重なることです。同項は、求職者等の個人情報を収集・保管・使用するに当たって、業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして収集し、収集の目的の範囲内で保管・使用しなければならないとしています。もう1つは、そのイベントに参加しているという事実自体が本人にとって知られたくない情報になりうることです。
条文は公共職業安定所、特定地方公共団体、職業紹介事業者および求人者、労働者の募集を行う者および募集受託者、特定募集情報等提供事業者ならびに労働者供給事業者等を挙げています。採用イベントの主催者や出展企業がこれに当たりうる構造ですが、個別の当てはめは本記事では示しません。人事部門および弁護士・社会保険労務士に確認してください。
職業安定法第5条の5は「厚生労働省令で定めるところにより」としており、省令と指針の内容は本記事の取得範囲外です。したがって本記事では収集してはならない情報の類型を列挙しません。人事部門には採用に関する既存のルールがあるはずなので、イベント企画側だけで設計を完結させないでください。
必ず配信ツールを使ってください。ToやCcで送ると、参加者全員に誰がこのイベントに来たかが伝わります。在職中の転職希望者や、併願状況を知られたくない学生にとっては、通常のイベントより影響が大きくなります。BCC運用は人の操作に依存するため、採用イベントでは配信ツールを前提にすることをおすすめします。
個人情報保護法側では、第27条第1項により原則としてあらかじめ本人の同意が必要で、第27条第5項第3号の共同利用を使うなら5項目をあらかじめ示す必要があります。あわせて、受け取った出展企業も職業安定法第5条の5の名宛人に当たりうるため、出展規約で収集の目的の範囲内での使用と適正な管理を求めてください。選考に使うかどうかを明確にすることも重要です。