法令
チケット不正転売禁止法を主催者側から読む
「特定興行入場券」になる3つの要件
チケット不正転売禁止法の解説の多くは「買う側・転売する側」の視点で書かれています。しかし主催者にとって重要なのは別の点です。この法律が守ってくれるのは、自分のチケットが「特定興行入場券」に当たる場合だけで、そのためには条文が定める3つの要件をすべて満たす必要があります。券面に「転売禁止」と書いただけでは、要件を満たしません。
結論
チケット不正転売禁止法(特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律・平成30年法律第103号)は、第3条で「何人も、特定興行入場券の不正転売をしてはならない」と定めています。この「特定興行入場券」は第2条第3項で定義され、不特定又は多数の者に販売され、かつ第1号から第3号の要件のいずれにも該当するものとされています。要件を満たさない券は、この法律の対象外です。
根拠となる法律
本記事の条文はe-Gov法令検索から取得しています(2026年10月時点)。正式名称は「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」、略称はチケット不正転売禁止法です。
注意
本記事は条文の構造を整理するためのものです。自分のチケットが要件を満たすかどうかの最終的な判断や、券面・規約の文言は、弁護士に確認してください。 法的な断定をするものではありません。
「興行」の定義
「興行」とは、映画、演劇、演芸、音楽、舞踊その他の芸術及び芸能又はスポーツを不特定又は多数の者に見せ、又は聴かせること(日本国内において行われるものに限る。)をいう。(第2条第1項)
「日本国内において行われるものに限る」という限定が条文に入っています。
第2条第3項 — 3つの要件を全部満たす必要がある
第2条第3項は、「特定興行入場券」を興行入場券であって、不特定又は多数の者に販売され、かつ、次の要件のいずれにも該当するものと定義しています。「いずれにも」です。1つでも欠ければ該当しません。
第1号 — 譲渡禁止の明示と、券面への表示
興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨を当該興行入場券の券面に表示し又は当該興行入場券に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に当該興行入場券に係る情報と併せて表示させたものであること。
- 売買契約の締結に際し明示する — 購入の過程で示す必要がある
- かつ、券面に表示する — 規約に書いてあるだけでは条文の後半を満たさない
- 電子チケットの場合 — 通信端末機器の映像面に、券の情報と併せて表示させる
Point
「明示」と「表示」の両方が要求されている点に注意してください。購入ページの規約に書いてあるだけ、あるいは券面に小さく書いてあるだけ、ではなく、契約の締結に際しての明示と、券面(または映像面)への表示の両方です。
第2号 — 日時・場所と、入場資格者または座席の指定
興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者(興行主等が当該興行を行う場所に入場することができることとした者をいう。)又は座席が指定されたものであること。
- 特定の日時が指定されていること
- 場所が指定されていること
- 入場資格者または座席のいずれかが指定されていること
注意
日時や場所が特定されていない券、座席も入場資格者も指定されていない券は、第2号を満たしません。 会期中いつでも使える通し券のような形態を検討している場合は、この要件との関係を確認してください。
第3号 — 購入者情報を確認する措置と、その旨の表示
興行主等が、当該興行入場券の売買契約の締結に際し、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める事項を確認する措置を講じ、かつ、その旨を第一号に規定する方法により表示し又は表示させたものであること。
| 区分 | 確認する事項(条文の文言) |
|---|---|
| イ 入場資格者が指定された興行入場券 | 入場資格者の氏名及び電話番号、電子メールアドレスその他の連絡先 |
| ロ 座席が指定された興行入場券(イに掲げるものを除く) | 購入者の氏名及び連絡先 |
Point
第3号は「確認する措置を講じ」に加えて、「その旨を第1号に規定する方法により表示」することまで求めています。つまり購入者情報を確認していることを、券面(または映像面)に表示する必要がある、という構造です。確認するだけでは足りません。
不正転売の定義と罰則
第2条第4項 — 何が「不正転売」か
「特定興行入場券の不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であって、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするものをいう。
条文の要素を分解すると次のとおりです。
- 01興行主の事前の同意を得ないこと
- 02業として行う有償譲渡であること
- 03販売価格を超える価格をその販売価格とするものであること
注意
定価以下での譲渡や、業として行うものでない個別の譲渡は、この定義には当たりません。 条文が対象にしている範囲を、実態より広く説明しないでください。主催者として規約でどこまで制限するかは、法律の射程とは別の論点です。
第3条と第9条
何人も、特定興行入場券の不正転売をしてはならない。(第3条)
第三条又は第四条の規定に違反した者は、一年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(第9条第1項)
主催者がチケットを設計するときの手順
この法律を自分の興行で機能させたいなら、券の設計と購入フローを、3つの要件に合わせて作ることになります。
- 01
どの販売形態を採るかを決める
入場資格者を指定するのか、座席を指定するのか。第2号と第3号で確認すべき情報が変わります(入場資格者指定なら入場資格者の氏名・連絡先、座席指定なら購入者の氏名・連絡先)。
- 02
購入フローで「明示」する設計にする
第1号は売買契約の締結に際しての明示を求めています。購入画面のどこで、どう示すか。規約に埋め込むだけの設計になっていないかを確認してください。
- 03
券面・映像面の表示を設計する
紙の券なら券面、電子チケットなら端末の映像面に券の情報と併せて。表示すべきは①同意のない有償譲渡を禁止する旨 ②購入者情報を確認する措置を講じている旨の2つです。
- 04
購入者情報を確認する仕組みを入れる
第3号は「確認する措置を講じ」と書いています。どういう方法で確認するかを決め、運用に落としてください。
- 05
日時・場所・座席等の指定を券に反映する
第2号の要件です。通し券のような形態を検討しているなら、要件との関係を先に確認してください。
- 06
弁護士に文言を確認する
券面の文言、購入フローの表示、規約。要件を満たしているかの判断は、条文の構造を知ったうえで専門家に見てもらうのが確実です。この記事はその相談を具体的にするためのものです。
- 入場資格者を指定するのか座席を指定するのかを決めた
- 同意のない有償譲渡を禁止する旨を、購入の過程で明示している
- 同じ旨を券面(電子なら映像面に券情報と併せて)に表示している
- 特定の日時と場所が券に指定されている
- 入場資格者または座席が指定されている
- 購入者(または入場資格者)の氏名と連絡先を確認する措置を講じている
- 確認する措置を講じている旨を券面(または映像面)に表示している
- 券面・購入フローの文言を弁護士に確認した
Point
「転売禁止」と券面に書くだけでは、3つの要件のうち第1号の一部しか満たしません。 第2号の指定と、第3号の購入者情報の確認措置とその表示が揃って、はじめて「特定興行入場券」になります。
運用側で決めておくこと
券の設計だけでなく、当日と事前の運用にも影響します。
- 本人確認を当日に行うのか。行うなら、何をもって確認するか、列がどれだけ伸びるか
- やむを得ない事情で来場できない購入者への対応をどうするか(公式の譲渡・リセールの仕組みを用意するか)
- 同行者がいる場合の扱い
- 確認した個人情報の取り扱い(取得目的の明示、保管、廃棄)
- 現場スタッフへの説明。当日に判断を迫られるのは受付スタッフ
注意
購入者情報を確認する措置を入れると、個人情報を扱うことになります。 取得の目的、保管の方法と期間、廃棄の手順を事前に決めてください。受付の運用は受付の設計、当日の体制はイベント運営チェックリストと合わせて設計すると漏れが減ります。
本人確認を入れると受付の処理時間が変わるため、入場にかかる時間の見積もりを作り直してください。待機列の設計は当日のリスクに直結します(イベントのリスク管理)。
この記事の要点
- この法律が対象にするのは「特定興行入場券」だけ。要件を満たさない券は対象外。
- 要件は第2条第3項の第1号〜第3号すべて(条文は「いずれにも該当するもの」)。
- 第1号: 同意のない有償譲渡を禁止する旨を契約締結に際し明示し、かつ券面(電子は映像面)に表示。
- 第2号: 特定の日時及び場所と、入場資格者または座席が指定されていること。
- 第3号: 購入者(または入場資格者)の氏名と連絡先を確認する措置を講じ、その旨も表示すること。
- 不正転売は①事前の同意なし ②業として行う有償譲渡 ③販売価格を超える価格の3つを満たすもの。罰則は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、併科あり。
FAQ
よくある質問
この法律で守られる「特定興行入場券」にするには、第2条第3項の3つの要件をすべて満たすように券と購入フローを設計します。販売時に同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示して券面(電子チケットなら映像面)にも表示する、日時・場所と入場資格者または座席を指定する、購入者の氏名と連絡先を確認する措置をとってその旨を表示する、の3つです。文言が要件を満たすかは弁護士に確認してください。
なりません。第2条第3項は3つの号を挙げ、「いずれにも該当するもの」を特定興行入場券としています。譲渡禁止の明示と券面表示は第1号の内容で、ほかに第2号(特定の日時及び場所と、入場資格者または座席の指定)と第3号(購入者等の氏名・連絡先を確認する措置を講じ、その旨を表示すること)が必要です。
第1号は、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を売買契約の締結に際し明示し、かつその旨を券面に表示すること(電子チケットは端末の映像面に券情報と併せて表示させること)。第2号は、興行が行われる特定の日時及び場所と、入場資格者または座席が指定されていること。第3号は、入場資格者が指定された券なら入場資格者の氏名と電話番号・電子メールアドレスその他の連絡先を、座席が指定された券なら購入者の氏名と連絡先を確認する措置を講じ、その旨を第1号の方法で表示すること。これらをすべて満たし、かつ不特定又は多数の者に販売されるものが特定興行入場券です。
第2条第4項は不正転売を「興行主の事前の同意を得ない特定興行入場券の業として行う有償譲渡であつて、興行主等の当該特定興行入場券の販売価格を超える価格をその販売価格とするもの」と定義しています。販売価格を超える価格であることが要素に含まれています。主催者として規約でどこまで制限するかは、この法律の射程とは別の論点になります。
第9条第1項は、第3条または第4条の規定に違反した者を1年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると定めています。
個人情報を扱うことになるため、取得の目的、保管の方法と期間、廃棄の手順を事前に決めてください。あわせて、当日に本人確認を行うかどうか、行う場合に受付の処理時間がどれだけ延びるかを見積もり直してください。来場できなくなった購入者への対応や同行者の扱いも、現場スタッフが判断を迫られる前に決めておく必要があります。