RFP
イベントのRFP・提案依頼書の書き方
必須項目と評価基準の設計
提案の質は、提案する側の力量よりもRFPの質に規定されます。条件が曖昧なRFPには、各社が別々の前提で作った比較不能な提案が集まります。良いRFPは、発注側が判断に使える形で情報を返させる設計になっています。
結論
イベントのRFP(提案依頼書)とは、発注者が委託先候補に対してイベントの目的・条件・依頼範囲・評価基準・提出方法を文書で提示し、提案を求めるための書類です。契約書が「決まったことを固定する」書類であるのに対し、RFPは「比較可能な提案を集める」ための書類であり、評価基準を先に公開することがその機能の中核です。
RFPを書く目的と、契約書との違い
RFPは形式を整えるための書類ではありません。発注側の思考を整理する道具であり、書いている途中で「目的が定まっていない」「予算の根拠がない」といった自社の未決事項が露呈します。それを先に潰せることが最大の効用です。
| 書類 | 目的 | タイミング | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| RFI(情報提供依頼) | 市場と候補先の情報収集 | 候補選定の前 | 会社概要、実績、対応可能範囲 |
| RFP(提案依頼書) | 比較可能な提案を集める | 候補を絞った後、発注前 | 目的、条件、依頼範囲、評価基準、提出方法 |
| 仕様書 | 実施する内容を確定させる | 発注先決定の前後 | 数量、品質、納期、検収条件 |
| 契約書 | 権利義務を固定する | 発注時 | 業務範囲、対価、責任、解除、知財 |
Point
RFPと仕様書は目的が違います。RFPの段階で仕様を細かく固めすぎると、各社の提案が横並びになり、比べる意味がなくなります。譲れない条件は固定し、提案してほしい部分は開けておくという書き分けが要点です。
注意
契約段階で確認すべき条項はイベント制作の契約で扱っています。本記事は、その手前の「提案を集める段階」の書類を対象としています。
必須記載項目
以下が揃っていれば、提案側は前提を推測せずに提案できます。埋められない項目がある場合、それは社内で決まっていない事項なので、RFPを出す前に決めてください。
| 区分 | 記載項目 | 書き方の要点 |
|---|---|---|
| 1. 背景と目的 | なぜ実施するか、解決したい課題 | 社内事情も含めて率直に書く。きれいごとだけでは提案がぼやける |
| 2. 目標・KPI | 成功の定義、測定指標と目標値 | 参加人数だけでなく、その先の行動指標まで示す |
| 3. 対象者 | 誰に来てほしいか、想定人数と属性 | 「関係者」ではなく職種・役職・業種まで具体化する |
| 4. 開催概要 | 日時、会場(確定/未定)、形式、規模 | 未確定事項は「未定」と明記する。空欄にしない |
| 5. 依頼範囲 | 委託する工程、自社で行う工程 | 工程一覧を表にして○×で示すのが最も誤解が少ない |
| 6. 予算 | 総額のレンジ、含む費目、消費税の扱い | レンジで開示する。非開示は提案の質を下げる |
| 7. 制約条件 | 既定事項、使えない手法、社内規程、ブランド規定 | 後出しになると作り直しが発生する |
| 8. 提案してほしい内容 | 企画案、実施体制、スケジュール、見積 | 項目と分量の上限を指定する |
| 9. 評価基準と配点 | 何をどの重みで評価するか | 先に公開する。提案の焦点が合う |
| 10. スケジュール | 配布日、質問期限、回答日、提出期限、選定日、発注日 | 日付で明記する |
| 11. 提出方法 | 形式、ファイル形式、提出先、ページ数上限 | 指定しないと比較が難しくなる |
| 12. 留意事項 | 提案物の権利、提案料の有無、秘密保持、費用負担 | 提案物の扱いは必ず明記する |
提出前のセルフチェック
- 目的が「実施すること」ではなく「実施して何を得たいか」で書かれているか
- KPIに目標値が入っているか(測るだけの指標になっていないか)
- 依頼範囲と自社担当範囲が工程単位で切り分けられているか
- 予算のレンジと、その中に含む費目が明記されているか
- 未確定事項が「未定」と明示され、いつ確定するかが書かれているか
- 評価基準と配点が公開されているか
- 質問の受付期限と回答日が設定されているか
- 提案物の権利と提案料の有無が書かれているか
- 提出物の形式とページ数上限が指定されているか
- 問い合わせ窓口が一本化されているか
目的とKPIの書き方
RFPで最も差が出るのがこの部分です。目的が曖昧だと、提案は「派手さ」の競争になります。派手さは比べにくく、成果とも直結しません。
目的の書き方
| 悪い書き方 | 良い書き方 |
|---|---|
| ブランド価値を高めるイベントを実施したい | 既存顧客の上位層に新製品を先行体験してもらい、更新時期前の接点を作りたい |
| 社員のエンゲージメントを向上させたい | 部署間の接点がなく連携が滞っているため、他部署の業務を知る機会を作りたい |
| 新製品を広く認知させたい | 導入決裁に関わる情報システム部門の管理職に、導入事例を直接伝えたい |
| 周年を盛大に祝いたい | 創業からの歩みを社員と取引先に共有し、次の3年の方針への納得感を作りたい |
KPIの階層
- 実施指標:申込数、参加数、参加率、滞在時間。運営の成否を測る
- 体験指標:満足度、推奨意向、理解度、印象の変化。アンケートで取得する
- 行動指標:資料請求、商談化、問い合わせ、社内での提案件数。イベント後の行動
- 成果指標:受注額、継続率、採用応募数。最終的な事業への影響
RFPには最低でも実施指標と行動指標の目標値を書いてください。これがあると、提案側は「その数字を作るための設計」を考えます。数字がないと、提案は演出の話に寄ります。KPIの設計はイベントのKPI設計を参照してください。
Point
目標値に自信がなくても書いてください。「参加者数は◯名、アンケートの回収は◯割、終了後1か月以内の商談化は◯件を目標としています(初回のため精度は低い前提です)」と書けば、提案側は現実性を含めて提案してくれます。空欄よりはるかに有用です。
予算の開示と依頼範囲の切り分け
予算はレンジで開示する
「予算を言うと上限まで使われる」という懸念から非開示にする発注者がいますが、実務上は逆効果になることが多い判断です。
| 開示方針 | 起きること |
|---|---|
| 完全非開示 | 各社が別々の規模感で提案し、比較不能になる。過大/過小な提案が混在する |
| 上限額のみ提示 | 全社が上限に張り付いた見積を出す。価格差が出ない |
| レンジで提示 | レンジ内で何ができるかの提案が集まる。比較の軸が価格から中身に移る |
| レンジ+優先順位を提示 | 限られた予算での配分の考え方が提案に現れる。最も判断材料が増える |
推奨はレンジ+優先順位です。「総額◯◯〜◯◯万円(税別・会場費を含む)。優先順位は①当日の運営品質 ②集客 ③会場の装飾 の順です」と書けば、各社の配分の考え方が比較できます。
依頼範囲の切り分け表
RFPに以下のような表をそのまま載せると、誤解がほぼ消えます。
| 工程 | 自社 | 委託 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 目的・KPI設定 | ○ | 決定済み。本RFPに記載 | |
| 企画・コンセプト立案 | ○ | 提案対象 | |
| 会場選定・契約 | ○ | 会場は確定済み | |
| 協力会社の手配 | ○ | 音響・照明・映像・施工 | |
| 制作物のデザイン・制作 | ○ | ブランド規定に準拠のこと | |
| 集客・申込管理 | ○ | 自社の顧客リストを使用 | |
| 当日運営・進行管理 | ○ | スタッフ手配を含む | |
| 受付・誘導スタッフ | ○ | 人数は提案に含めること | |
| 撮影・記録 | ○ | 写真・動画の二次利用条件を提案に記載 | |
| アンケート設計・集計 | ○ | △ | 設計は協議、実施は自社 |
| 効果測定・報告 | ○ | データは自社に格納 |
注意
「△(協議)」の行を作れると、提案の幅が出ます。すべてを○×で固めるより、協議したい領域を明示する方が良い提案が集まります。
評価基準と配点、質問期間の設計
評価基準は先に公開する
配点を公開すると、各社は配点の高い項目に力を入れます。これは望ましい状態です。公開しないと、各社が推測した重みで提案を作るため、評価がぶれます。
| 評価項目 | 配点の例 | 何を見るか |
|---|---|---|
| 目的・課題の理解 | 20 | こちらの事情を正確に捉えているか。汎用提案の流用でないか |
| 企画の内容 | 25 | 目的に対する打ち手の妥当性、体験設計の具体性 |
| 実施体制 | 20 | 担当者の経験、当日の人数、再委託の構成、連絡体制 |
| 実現可能性・リスク対応 | 15 | スケジュールの現実性、想定リスクと対応策の具体性 |
| 見積の妥当性 | 20 | 総額だけでなく、内訳の透明性と配分の考え方 |
合計100点になるよう設計し、各項目を誰が採点するかも決めておきます。事業部門、広報、調達など立場によって重視点が異なるため、採点者の構成が結果を左右します。
質問回答期間の設計
- 01
配布と同時に質問受付を開始する
配布日を起点に、質問の受付期間を明示します。
- 02
質問期限を提出期限の中間より前に置く
提出期限の直前に質問を締め切ると、回答を反映する時間がありません。提出期限の1〜2週間前までに回答が出るよう逆算してください。
- 03
質問は書面で受け、回答は全社に共有する
1社の質問で明らかになった条件は、全社が同じ前提を持つべきです。質問者名は伏せて共有します。
- 04
回答で条件が変わったら、提出期限を延ばす
条件が実質的に変わったのに期限が同じだと、提案の質が落ちます。
- 05
追加質問の可否を明記する
回答後の追加質問を受けるか、打ち切るかを最初に書いておきます。
期間の目安
| 工程 | 期間の目安 | 短縮時のリスク |
|---|---|---|
| RFP配布〜質問期限 | 1週間程度 | 条件の誤解が残ったまま提案が作られる |
| 質問期限〜回答 | 2〜3営業日 | 回答が遅れると提案作成の時間が削られる |
| 回答〜提出期限 | 2〜3週間 | 企画の練り込みが浅くなる。既存案の流用が増える |
| 提出〜プレゼン | 1週間程度 | 評価者が読み込む時間がなくなる |
| プレゼン〜結果通知 | 1〜2週間 | 各社の次案件の調整に影響する |
Point
提案作成には各社で数十時間がかかります。提出期限まで1週間しかないRFPには、既存企画の流用しか集まりません。急ぐ場合は、提案の要求分量を減らす(企画は骨子のみ、見積は概算のみ)方が、良い提案が集まります。
悪いRFPの例と、比較可能にする工夫
RFPを配る相手の絞り方はイベント会社の選び方、集まった見積を同じ前提で並べる方法は見積書を比較するポイントで扱っています。
よくある悪いRFP
| 症状 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 目的が「イベントを実施する」になっている | 提案が演出の見栄え競争になる | 実施して何を得たいかを1文で書く |
| 予算が非開示 | 各社の規模感がばらつき比較不能 | レンジと含む費目、優先順位を書く |
| 依頼範囲が「一式」 | 見積の前提がバラバラになる | 工程一覧を表で○×△に切り分ける |
| 評価基準が非公開 | 各社が推測で力点を置く。評価がぶれる | 項目と配点を先に公開する |
| 提出形式の指定がない | 分量も構成もバラバラで読み比べられない | ページ数上限と必須章立てを指定する |
| 質問窓口が複数人 | 回答が食い違い、不公平が生じる | 窓口を1名に固定し、書面で受ける |
| 提出期限が極端に短い | 流用提案しか来ない | 分量を減らすか、期限を延ばす |
| 提案物の権利に触れていない | アイデアの流用をめぐるトラブルになる | 権利の帰属と、不採用時の扱いを明記する |
| 未確定事項が空欄 | 各社が違う仮定を置く | 「未定(◯月確定予定)」と明記する |
提案を比較可能にする5つの工夫
- 01必須の章立てを指定する:「①課題の理解 ②企画案 ③実施体制 ④スケジュール ⑤見積 の順で、各◯ページ以内」と指定すると、横並びで読めます
- 02見積フォーマットを配布する:費目の行を固定した表を渡し、それを埋めてもらいます。各社の費目の切り方の違いが消え、金額差の理由が見えます
- 03共通の前提条件表をつける:搬入出可能時間、電源容量、回線の有無、リハーサル可能日など、全社が同じ前提で積算できる材料を渡します
- 04提案してほしくない部分を書く:「会場は変更不可」「ノベルティは対象外」と書くだけで、無駄な提案が消え、比較軸が揃います
- 05オプション提案の枠を用意する:「予算内の必須提案に加えて、追加予算◯万円以内で効果が上がる施策があれば別枠で提案」とすると、各社の発想の差が見えます
Point
RFPは1回で完成しません。過去のRFPと、そのとき集まった提案の質を振り返るのが最も効率的な改善方法です。「どの項目の記載が薄かったから、この誤解が生じたか」を1件ずつ残しておくと、次回のRFPは確実に良くなります。
提案を受け取った後の比較と社内説明はイベント企画書の書き方、選定後の契約条項はイベント制作の契約を参照してください。
この記事の要点
- 提案の質はRFPの質に規定される。曖昧なRFPには比較不能な提案しか集まらない。
- RFPは仕様書ではない。譲れない条件は固定し、提案してほしい部分は開けておく。
- 予算はレンジ+優先順位で開示する。非開示は提案の質を下げる。
- 評価基準と配点は先に公開する。公開すると提案の焦点が合う。
- 質問の回答は全社に共有し、提出期限の1〜2週間前までに出す。
- 依頼範囲は工程一覧の○×△表で示す。「一式」は見積の前提を壊す。
FAQ
よくある質問
RFPを配る前に、どの工程を任せたいかを決め、その工程を主業務にしている会社から3社前後に絞ります。企画提案には各社の相当な作業がかかるため、実際に発注し得る相手だけに配るのが基本です。候補の型と探し方は「イベント会社の選び方」の記事で整理しています。
背景と目的、目標とKPI、対象者、開催概要、依頼範囲、予算、制約条件、提案してほしい内容、評価基準と配点、スケジュール、提出方法、提案物の権利など留意事項の12区分が基本です。埋められない項目は社内で未決の事項なので、配布前に決めてください。
RFPは比較可能な提案を集めるための書類、仕様書は実施内容を確定させる書類、契約書は権利義務を固定する書類です。RFPの段階で仕様を細かく固めすぎると提案が横並びになり、比較する意味がなくなります。
レンジで開示することを推奨します。非開示にすると各社が異なる規模感で提案し、比較できなくなります。上限額だけを示すと全社が上限に張り付くため、レンジと、その予算に含む費目、優先順位をあわせて書くのが最も判断材料が増えます。
公開してください。配点を示すと各社が配点の高い項目に力を入れ、提案の焦点が合います。非公開だと各社が推測した重みで提案を作るため、評価がぶれ、結果の説明も難しくなります。
企画提案を求める場合、質問への回答から提出まで2〜3週間が目安です。1週間では既存企画の流用しか集まりません。急ぐ事情がある場合は、期限を延ばすか、要求する提案の分量を減らしてください。
法律上の義務ではありませんが、本格的な企画提案を複数社に求める場合に設定する発注者もいます。提案料があると各社の投入工数が上がり、提案の具体性も向上します。支払う場合は、提案物の権利の帰属と不採用時の扱いをRFPに明記してください。
提案物の権利の扱いをRFPで取り決めていない場合、トラブルになります。原則として提案物の権利は提案者に帰属すると考え、採用時の扱い、不採用時の返却・破棄、流用の可否をRFPの留意事項に明記してください。