イベントプロデューサー
イベントプロデューサーのAI活用法
業務別の例文と、なくならない仕事
「イベントプロデューサーはAIをどう使えばいいのか」「この仕事はAIでなくなるのか」。この記事は、その2つに答えます。前半は業務ごとの使い方と、そのまま貼れるプロンプト例文24本。後半は、自動化研究の4つの要因で、どの業務が変わりどの業務が残るかを分解します。
結論
結論:AIに任せるのは「画面の中で、型がある作業の下書き」です。企画書のたたき台、打合せの議事録、見積の費目整理、香盤表、会場イメージのラフ、英語の連絡文、報告書の下書きは、AIで大きく速くなります。一方、金額・日時・可否の確定、会場下見と当日運営、関係者の調整は人に残ります。自動化研究が「人に残る」とする4つの条件(現場がある・毎回変わる・判断が要る・対人が多い)にいずれも当てはまるため、イベントプロデューサーという職業がAIでなくなる根拠は研究上ありません。
早見表:イベントプロデューサーの業務別・AIの使いどころ
まず全体像です。左から順に「AIに任せる下書き」「人が確定すること」を並べました。右端の列は、その業務に向く道具の種類です(特定の製品名ではなく機能で書いています)。
| 業務 | AIに任せる下書き | 人が確定すること | 向く道具の種類 |
|---|---|---|---|
| 企画書 | コンセプト案の量産、構成、たたき台の文章 | 採用する案、演出の方向性、実現性 | 対話型の文章生成AI |
| 打合せ・議事録 | 文字起こし、要約、決定事項とToDoの抽出 | 何が「決定」かの判断、宿題の担当 | 文字起こし・議事録AI |
| 見積・予算 | 過去案件の費目の並べ替え、抜けの指摘 | 単価、金額、値引きの可否 | 文章生成AI+表計算 |
| 香盤表・進行表 | 時刻・担当・段取りの表への変換 | 段取りの妥当性、転換時間の余裕 | 文章生成AI、香盤表ツール |
| 会場イメージ(パース) | 会場写真やラフからのイメージ画像案 | 施工できるか、安全・動線、権利 | 画像生成AI |
| 英語・多言語の連絡 | メール・案内文の下書き、訳文の点検 | 条件・金額・日付の最終確認 | 翻訳AI、文章生成AI |
| 当日マニュアル | 箇条書きの手順書への整形、想定問答 | 緊急時の判断基準、連絡系統 | 文章生成AI |
| 告知文・SNS | 告知文の言い換え、媒体別の長さ調整 | 表現の可否、景品・表示のルール | 文章生成AI |
| 報告書・アンケート | 自由記述の分類、報告書の構成 | 評価、次回への提言 | 文章生成AI+表計算 |
| 会場下見・当日運営 | (AIは確認項目の洗い出しまで) | 現場での判断すべて | — |
| 関係者の調整・交渉 | (AIは論点の整理まで) | 合意形成そのもの | — |
Point
迷ったら「成果物が画面の中に残り、型があるか」で判断してください。残るならAIで下書きでき、残らない(現場・対面・その場の決定)なら人の仕事です。
そのまま使えるプロンプト例文24本(業務別)
〔 〕の中を自分の案件に置き換えて貼ってください。どの例文も、最後に「不明な点は推測せず質問して」と付けると、AIが勝手に条件を補うのを防げます。
企画書(3本)
- 「〔業種〕の〔目的:新商品発表/社員総会など〕イベントの企画コンセプトを、方向性が重ならないように5案出してください。各案に、ひとことのテーマ、来場者が持ち帰る体験、想定するリスクを添えてください。」
- 「次の箇条書きのメモを、企画書の構成(背景、目的、ターゲット、コンセプト、プログラム、運営体制、スケジュール、概算費用)に並べ替えて、各章の見出しと要点だけを書いてください。〔メモを貼る〕」
- 「この企画書を、決裁者の立場で読んで、反対されそうな点と、その点に答える一文を3つずつ挙げてください。〔企画書を貼る〕」
打合せ・議事録(3本)
- 「次の文字起こしから、①決定事項 ②未決事項 ③ToDo(担当・期限)を表にしてください。発言者が決めたのか提案しただけなのか曖昧なものは、未決事項に入れてください。〔文字起こし〕」
- 「この議事録を、クライアントに送る確認メールの本文にしてください。決定事項だけを箇条書きにし、認識違いがあれば〔日付〕までに返信をお願いする一文を入れてください。」
- 「次回の定例打合せのアジェンダを、前回の未決事項とToDoの進捗確認から始まる順で作ってください。〔前回の議事録〕」
見積・予算(3本)
- 「〔会場の種類〕で〔来場規模〕の〔イベント種別〕を行う場合に必要になりやすい費目を、会場費、施工・装飾、音響・照明・映像、人件費、制作物、運営、保険・手続き、予備費の区分で洗い出してください。金額は書かないでください。」
- 「次の見積の費目一覧と、上の洗い出しを比べて、抜けている可能性がある費目を指摘してください。〔見積の費目一覧〕」
- 「予算を〔割合〕削る必要があります。来場者の体験への影響が小さい順に、削減の候補と理由を挙げてください。」
香盤表・進行表(3本)
- 「次の進行メモを、時刻・項目・内容・担当・音響照明のきっかけ・備考の列を持つ香盤表にしてください。所要時間が書かれていない項目は空欄にして、質問してください。〔進行メモ〕」
- 「この香盤表で、転換時間が短すぎる箇所、同じ担当者が同時刻に重なっている箇所を指摘してください。」
- 「開演が〔遅れの時間〕遅れた場合に、終演時刻を守るためにどの項目をどう詰めるか、2案作ってください。」
会場イメージ・パース(2本)
- 「〔会場写真を添付〕この会場に、〔ブランドカラー〕を基調とした受付カウンターと、正面に横長のLEDビジョンを置いた状態のイメージ画像を作ってください。天井高と柱の位置は写真のまま変えないでください。」
- 「この展示ブースのラフ図から、来場者の目線の高さで見たイメージを作ってください。素材は木目と白、照明は暖色で。」
注意
AIの画像はあくまで「雰囲気を合わせるためのラフ」です。寸法・荷重・避難経路は反映されないので、施工図や消防への届出に使う図面とは別物として扱ってください。
英語・多言語の連絡(4本)
- 「海外の出演者のマネージャーに、出演依頼のメールを英語で書いてください。日時、会場、持ち時間、謝礼の支払い方法、返答期限を入れ、丁寧だが簡潔な文面にしてください。〔条件〕」
- 「次の英文メールを日本語に訳し、こちらに求められている対応と期限を最初に箇条書きにしてください。〔英文〕」
- 「私が書いた次の英文を、取引先に失礼がないか点検し、直した箇所とその理由を日本語で説明してください。〔英文〕」
- 「来場者向けの会場案内(入場、手荷物、撮影可否、緊急時の避難)を、やさしい日本語と英語で並べて書いてください。」
当日マニュアル・スタッフ向け(2本)
- 「次の運営メモを、受付・誘導・クローク・本部の持ち場ごとに、時系列の手順書にしてください。各持ち場の最後に『困ったら誰に連絡するか』の欄を空欄で作ってください。」
- 「受付スタッフが来場者から受けそうな質問と、その答え方の例を作ってください。答えがこの資料に無いものは『本部に確認』と書いてください。〔イベント概要〕」
告知文・SNS(2本)
- 「次のイベント概要から、告知用の文章を、ウェブサイト用(長め)、メール用(中くらい)、SNS用(短め)の3種類で書いてください。日時と申込方法は必ず入れてください。」
- 「この告知文の中に、誇大に受け取られそうな表現や、根拠が必要な言い切りがあれば指摘してください。」
報告書・アンケート(2本)
- 「次のアンケートの自由記述を、良かった点・改善点・要望に分類し、それぞれ多い順に代表的な意見を挙げてください。〔自由記述〕」
- 「実施報告書の構成(概要、目的に対する結果、来場者の反応、運営上の課題、次回への提言)で、次の材料から下書きを作ってください。数字は材料にあるものだけ使ってください。」
業務別の詳しい進め方は、イベント向けプロンプト集、AI議事録の使い方、企画書の書き方、香盤表の作り方、報告書の書き方で解説しています。
AIに入力する前のチェックリスト
- 来場者名簿・出演者の連絡先など、個人情報が入っていないか。入れる場合は、その利用目的の範囲内か、入力したデータが学習に使われない設定かを確かめる
- クライアントとの秘密保持の約束に触れる情報(未発表の商品名、予算額など)が入っていないか
- AIの出力に含まれる日付・金額・人数・固有名詞を、元の資料と1つずつ照合したか
- 許認可や届出(道路使用、消防、保健所など)の要否を、AIの答えだけで決めていないか。必ず所管の窓口で確認する
- 画像生成AIの出力を、そのまま告知物に使っていないか。既存の作品やロゴに似ていないかを確認する
- 英語の文面で、条件・金額・日付・キャンセル規定を自分で読み直したか
- AIを入れる前と後で、案件あたりの作業時間を記録しているか
個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、事業者が生成AIに個人情報を含むプロンプトを入力する場合について、「特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」としています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」)。名簿の扱いは名刺と個人情報も参考にしてください。
よくある失敗と防ぎ方
| 失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| AIの香盤表をそのまま配る | 転換時間が足りず、当日に押す | 所要時間の欄はAIに埋めさせず、人が入れる |
| 議事録の「提案」を「決定」として送る | クライアントと認識がずれる | 決定・未決を分けさせ、送る前に人が確認する |
| 見積の単価をAIに出させる | 根拠のない金額が独り歩きする | AIには費目の洗い出しだけを頼み、金額は過去実績と見積書から |
| 許認可の要否をAIに聞いて済ませる | 届出漏れ | 所管の窓口に確認する。AIは確認先の洗い出しまで |
| 企画案をAIの案だけで出す | 他社と似た企画になる | AIの案は叩き台にし、現場で得た情報を足して差を作る |
| 英文メールを読まずに送る | 条件の誤りがそのまま伝わる | 数字と日付は日本語の原文と照合してから送る |
なくなるのか:研究の4要因で見るプロデューサーの位置
1980年代以降のロボット工学・労働経済学と、2023年以降の生成AIの研究は、仕事が機械やAIに置き換えられやすいかを、ほぼ同じ4つの要因で見てきました。イベントプロデューサーの仕事を当てはめると、次のようになります。
| 要因 | プロデューサーの仕事 | 研究が示すこと |
|---|---|---|
| 定型か、変動か | 変動。会場・予算・出演者・天候が毎回違う | コンピュータが代替するのは手順を書き下せる定型タスク(Autor・Levy・Murnane 2003) |
| 画面の中か、現場か | 両方。企画・見積は画面、下見・当日は現場 | 知覚と操作は自動化の最も硬いボトルネック(Moravec 1988、Frey&Osborne 2013) |
| 実行か、判断か | 判断。予算配分、進行の可否、トラブル時の決定 | AIの能力の外側では、AIに頼った人の正答率が19ポイント下がる(#023) |
| 一人か、対人か | 対人。クライアント・会場・施工・出演者を束ねる | 対人スキルを要する職は、技術が進むほど雇用シェアを増やした(#056) |
4つとも「人に残る」側に寄っているため、AI時代の仕事タイプ診断では多くのプロデューサーが束ねる人(VPJS)に入ります。16タイプの中で、AIとの関係が最も補完的なタイプです。
早見表で「AIに任せる」とした業務には、成果物が画面の中に残り、型があるという共通点があります。文章作成の実験では、ChatGPTを使った人の所要時間が40%減り、品質が18%上がりました(#022)。一方、AIのアイデアを使うと個々の作品は新しくなるが、作品同士は似てくることもわかっています(#028)。演出の最終決定を人が持つべき理由は、ここにもあります。
Point
1人+AIが、2人のチームと同じ品質を出したという現場実験があります(#027)。プロデューサーにとってこれは「人が要らなくなる」ではなく、「1人で回せる案件の幅が広がる」という意味です。
注意
これは職業名での判定ではありません。同じプロデューサーでも、実務の大半が見積と資料作成なら「画面の中・実行」寄りになります。自分の業務の配分で見てください。
それでも気をつけるべき3つのこと
- 01新人の入口が狭くなる。米国では、AIに曝露する職の22〜25歳の雇用が、他の年齢層と比べて減っています(#035)。アシスタントが担ってきた資料作成をAIが引き受けると、若手が現場を学ぶ機会をどう作るかが課題になります。
- 02AIに頼りすぎると、判断力が落ちる。AIに3か月頼った内視鏡医は、AIなしでの検出率が下がりました(#091)。見積や進行表をAI任せにしても、数字と段取りの妥当性を自分で見る習慣は残してください。
- 03「速くなった」は体感では測れない。熟練の開発者は、AIで速くなったと信じたまま実際には19%遅くなっていました(#025)。AIを入れたら、案件あたりの作業時間を記録して比べるのが確実です。
今から業務をどう組み替えるか
- 01
画面の中の業務を棚卸しする
1案件で、企画書・見積・香盤表・議事録・報告書・英語の連絡にかけている時間を書き出します。ここがAIに任せられる部分の上限です。
- 02
下書きはAI、確定は人、と線を引く
AIに作らせるのはたたき台まで。金額、日時、可否、許認可の判断は必ず人が確定します。
- 03
浮いた時間を現場と調整に回す
下見の回数、クライアントとの対話、協力会社との段取り確認に時間を戻します。研究上、ここが価値の残る部分です。
- 04
判断の理由を残す
なぜその会場・その進行にしたかを記録します。AIに渡せない判断の基準が、チームの資産になります。
香盤表の時刻計算のように型が決まった作業は、香盤表・進行表作成のような道具でも自動化できます。案件全体の流れにAIを組み込む方法はイベント業務のAI化にまとめています。
日本のイベント現場で起きていること
日本では、AIで仕事が消えるより先に人が足りなくなっています。2040年には1,100万人の労働力が不足すると予測され(#067)、現場系の職種ほど求人倍率が高くなっています(#080)。施工・警備・運営スタッフを集める立場のプロデューサーにとって、AIで画面の中の業務を減らすことは、限られた人手を現場に回すための手段でもあります。
出典
本文の「#」付きの数字は、研究が示す100の事実の該当項目へのリンクです。各項目に一次文献を載せています。この記事の業務分解とプロンプト例文は、それらの研究の枠組みを当サイトがイベント制作の業務に当てはめたもので、イベントプロデューサーに固有の実証研究は2026年11月時点で見当たりません。
- 01個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf
- 01Autor, D. H., Levy, F., & Murnane, R. J. (2003). The Skill Content of Recent Technological Change: An Empirical Exploration. Quarterly Journal of Economics, 118(4), 1279–1333. https://doi.org/10.1162/003355303322552801
- 02Moravec, H. (1988). Mind Children: The Future of Robot and Human Intelligence. Harvard University Press. https://www.hup.harvard.edu/books/9780674576187
- 03Frey, C. B., & Osborne, M. A. (2013/2017). The Future of Employment: How Susceptible Are Jobs to Computerisation? Oxford Martin School working paper; Technological Forecasting and Social Change, 114, 254–280. 米国雇用の47%が高リスク。 https://doi.org/10.1016/j.techfore.2016.08.019
- 04Deming, D. J. (2017). The Growing Importance of Social Skills in the Labor Market. Quarterly Journal of Economics, 132(4), 1593–1640. https://doi.org/10.1093/qje/qjx022
この記事の要点
- AIに任せるのは「画面の中で、型がある作業の下書き」。企画書・議事録・見積の費目・香盤表・会場イメージ・英語連絡・報告書が当たる。
- 金額・日時・可否・許認可の確定、下見と当日運営、関係者の調整は人に残る。職業としてなくなる根拠は研究上ない。
- 個人情報と秘密情報は入力前に確認し、出力の数字と日付は元資料と照合する。導入前後の作業時間を記録して効果を測る。
FAQ
よくある質問
企画書のたたき台、打合せの議事録とToDoの抽出、見積の費目の洗い出し、香盤表の作成と点検、会場イメージのラフ、英語の連絡文、当日マニュアル、告知文、報告書とアンケートの整理です。いずれも成果物が画面の中に残り、型がある業務です。金額・日時・可否の確定は人が行ってください。
職業としてなくなる根拠は研究上ありません。身体を使う現場、毎回違う状況、最終判断の責任、多数の関係者の調整という、自動化研究が人に残るとしてきた条件に、いずれも当てはまるからです。ただし企画書や見積などの作成業務はAIで大きく変わります。
雰囲気を共有するためのイメージ画像なら、会場写真やラフ図から画像生成AIで作れます。ただし寸法・荷重・避難経路は反映されないため、施工図や届出用の図面の代わりにはなりません。既存の作品やロゴに似ていないかも確認してください。
使えます。英文メールの下書き、受け取った英文の要点整理、自分で書いた英文の点検に向いています。条件・金額・日付・キャンセル規定は、送る前に必ず自分で原文と照合してください。
個人情報保護委員会は、事業者が生成AIに個人情報を含むプロンプトを入力する場合、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。必要がなければ氏名や連絡先を消してから入れ、入れる場合は入力データが学習に使われない設定かを確かめてください。
資料作成をAIが引き受けると、若手が現場を学ぶ機会が減る恐れがあります。米国ではAIに曝露する職の22〜25歳の雇用が相対的に減っています。資料作成の代わりに、下見や当日運営に早くから入れる育て方が必要になります。
業務によります。文章作成では時間が4割減った実験がある一方、熟練の開発者がAIで遅くなった実験もあります。導入したら、案件あたりの作業時間を記録して比べてください。