看護師・介護職
看護師・介護職はAIでなくなるのか
任せる業務・残る業務と、明日からの使い方
結論から言うと、看護師の仕事はAIでなくなりません。介護職も同じです。理由は3つあります。法律で看護師にしかできない業務が決まっていること、需要が供給を上回る推計が出ていること、そして身体を使い目の前の人に応える仕事は自動化研究が最も人に残るとしてきた領域であることです。変わるのは記録・申し送り・勤務表・見守りです。この記事では、業務ごとの一覧表、現場での使い方、そのまま使える指示文、患者情報を扱うときの注意までまとめます。
結論
看護師・介護職がAIでなくなる根拠は、法律上も統計上もありません。保健師助産師看護師法は、療養上の世話と診療の補助を看護師の業と定め、看護師でない者が行うことを禁じています。需給では、2025年の看護職員の需要188万〜202万人に対し供給175万〜182万人、介護職員は2040年度に約272万人が必要と推計されています。AIとロボットが変えるのは記録・見守り・夜間の巡視・事務で、身体介助、観察、声かけ、判断は人に残ります。
結論:なくならない3つの理由
| 理由 | 根拠 | 意味すること |
|---|---|---|
| 法律で業務が決まっている | 保健師助産師看護師法 第5条・第31条 | 療養上の世話と診療の補助を業として行えるのは、看護師(ほかに医師・保健師・助産師など法律で認められた者)に限られる。AIは「看護師の道具」にはなれても、看護師の代わりにはなれない |
| 人が足りない側にいる | 厚生労働省の看護職員・介護職員の需給推計 | 仕事が消えるより先に、人手が足りなくなる。AIは人を減らす道具ではなく、足りない人手を補う道具として入ってくる |
| 身体と対面の仕事は自動化が最も難しい | 生成AIの曝露研究(下の「変わること」を参照) | 強く影響を受けるのは事務職で、身体介助・処置・観察は影響が小さい |
Point
「なくなるか」より「どの業務がAIに移るか」を考えるほうが実用的です。記録と事務がAIに移るほど、患者・利用者と向き合う時間が増える、というのが今の方向です。
法律で看護師にしかできない業務
保健師助産師看護師法 第5条は、看護師を「傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者」と定めています。第31条は「看護師でない者は、第五条に規定する業をしてはならない」としています(医師法・歯科医師法に基づく場合、保健師・助産師は例外)。
つまり、AIやロボットが看護の一部を手伝うことはあっても、療養上の世話や診療の補助を業として担う主体は看護師です。AIが出した提案を採るかどうかを決め、その結果に責任を持つのも人です。
注意
同法 第42条の2は、看護師・准看護師に「正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない」と定めています(看護師でなくなった後も同様)。生成AIに患者の情報を入れるときは、この守秘義務がそのままかかる点に注意してください。
統計で見る、看護と介護の人手
| 指標 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 看護職員の需要と供給(2025年推計) | 需要 188万〜202万人、供給 175万〜182万人 | 厚生労働省 看護職員需給分科会(2019) |
| 介護職員の必要数(2026年度) | 約240万人(2022年度 215万人から約25万人の追加) | 厚生労働省(2024) |
| 介護職員の必要数(2040年度) | 約272万人(約57万人の追加) | 同上 |
| 賞与込み給与(月) | 介護職員 31.4万円、看護師 42.0万円、全産業平均 39.6万円 | 厚生労働省(令和7年賃金構造基本統計調査) |
介護関係職種の有効求人倍率は、全職業より高い水準が続いています。日本全体でも、2040年の労働供給不足率は24.1%と推計され、介護を週4日必要な人が週3日しか受けられない水準とたとえられています(#070)。
業務別:AIに任せやすい業務・残る業務の一覧
看護・介護の業務を、AIや機器がどう関わるかで4つに分けました。「AIが下書き」は、AIが作った案を必ず人が確かめて仕上げる、という意味です。
| 業務 | AIの関わり方 | AIができること | 人が必ずやること |
|---|---|---|---|
| 看護記録・介護記録 | AIが下書き | 音声入力の文字起こし、定型の文への整形 | 事実と違う記述がないか確かめ、署名して確定する |
| 申し送り・カンファレンスの要約 | AIが下書き | 長いメモを要点に絞る、抜けやすい項目を並べる | 優先度の判断と、口頭での補足 |
| 勤務表・シフト案 | AIが下書き | 希望休・人数・資格の条件を満たす案を出す | 職員の事情や組み合わせの相性を見て決める |
| マニュアル・勉強会資料・説明文書 | AIが下書き | 構成案、やさしい言葉への言い換え | 院内・施設の手順と合っているか確かめる |
| 夜間の見守り・巡視 | 機器が知らせる | 見守りセンサーで離床や異常を知らせる | 通知を現場で確かめ、対応を決める |
| バイタルの記録と傾向の整理 | 機器が知らせる | 測定値の自動記録、変化の傾向を示す | 数値と目の前の様子を合わせて判断する |
| 問診・情報収集 | AIは材料集め | 事前の質問票の回収と整理 | 聞き取れていないこと、言葉にされない訴えを拾う |
| 看護計画・ケアプラン | AIは材料集め | 一般的な観察項目・ケアの候補を並べる | その人の生活・価値観に合わせて立てる(個別性) |
| 身体介助・処置・清潔ケア・体位変換 | 人 | (物品の搬送などの周辺作業) | 身体と五感を使う仕事そのもの |
| 状態の観察と変化への気づき | 人 | — | 表情・顔色・声・いつもとの違いから異変に気づく |
| 急変時の対応と優先順位の判断 | 人 | — | 情報が足りない中で決め、医師やチームを動かす |
| 声かけ・心のケア・家族への説明 | 人 | 説明文の下書き | 相手を読み、信頼を作り、その場で言葉を選ぶ |
Point
迷ったら「成果物が画面の中に残る作業か」で分けてください。記録・資料・表のように画面に残る作業はAIで下書きでき、身体・対面・その場の判断は人の仕事です。
AI時代の仕事タイプ診断では、介護職員はおもてなしの人(RPES)や寄り添う人(VPES)、病棟を回す看護師は現場の指揮者(RPJS)に入ることが多くあります。いずれもAIの直接の影響が小さい側です。
AIとロボットで変わること(研究と実証)
- 見守り機器で、夜勤の巡視が減る。厚生労働省の実証では、見守り機器を導入した22施設で、夜勤職員の「直接介護+巡視・移動」の時間が平均277分から261分に減りました。前後比較でRCTではなく、施設によっては増えた例もあります。
- 身体を使う仕事は、自動化が最も難しい。人間に簡単な知覚と操作ほど機械には難しい、という観察は今も頑健です。生成AIに強く曝露する職業群は事務職で、他の職業群の高曝露は1〜4%にとどまりました(#017)。
- AIは専門職の仕事を広げる道具にもなる。米国では、看護師の上位資格であるナース・プラクティショナーが2011〜22年に3倍に増えました(#061)。Autor は、AIが専門的な判断をより多くの人に開く可能性を論じています。
現場でAIが使われている場面
製品名ではなく、どんな種類の仕組みが入ってきているかで整理します。導入するかどうかは、施設の規模と、どの業務の負担が大きいかで決まります。
| 場面 | 仕組みの種類 | 減る負担 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 記録 | 音声入力・電子カルテの文章作成支援 | 記録にかかる時間、残業 | 誤変換と、言っていないことが書かれる誤り |
| 夜勤 | 見守りセンサー・離床センサー | 定時巡視の回数、夜間の訪室 | 通知の多さと、通知が出ない異変 |
| 受付・外来 | 事前問診の入力システム | 問診の聞き取りと転記 | 入力が苦手な高齢者への対応 |
| 病棟の管理 | 勤務表の自動作成 | 勤務表づくりにかかる管理者の時間 | 条件の入れ漏れ |
| 転倒・褥瘡の予防 | 記録や画像からリスクを示す仕組み | 評価の手間 | 示されたリスクと現場の見立てが違うときの判断 |
| 物品の運搬 | 搬送ロボット | 検体・薬剤・物品の運搬で歩く時間 | 動線と安全の確保 |
AIを入れるメリットと、起きやすい失敗
メリット
- 記録と事務の時間が減り、患者・利用者のそばにいる時間が増える。
- 夜勤の負担が軽くなる。見守り機器で、必要なときに必要な部屋へ行けるようになる。
- 経験の差が縮まる。観察項目や手順をAIで並べると、新人の抜け漏れを減らす助けになる。
よくある失敗
- AIの記録をそのまま確定する。生成AIは、もっともらしい誤り(ハルシネーション)を混ぜます。記録はケアの根拠として残る文書なので、確定するのは必ず人です。
- 患者の氏名や病名をそのまま汎用AIに入れる。守秘義務と、病歴が要配慮個人情報に当たる点(個人情報保護法 第2条第3項)を忘れがちです。
- 通知に頼り、巡視の目を失う。機器は「知らせてくれる異変」しか拾えません。いつもと違う様子に気づくのは人です。
- 操作を覚える時間を取らずに導入する。使い方が人によって違うと、かえって手間が増えます。最初に誰が教えるかを決めておきます。
そのまま使える指示文(個人情報を入れない形)
院内・施設で使ってよいと認められた生成AIで使う前提です。患者・利用者を特定できる情報は入れず、[ ]の部分を置き換えてください。
1. 申し送りメモを要点に絞る
以下は夜勤の申し送りメモです(個人名は伏せています)。①日勤ですぐ対応が要ること ②経過観察でよいこと ③家族・他職種への連絡事項 に分けて、箇条書きにしてください。メモに書かれていないことは補わず、不明な点は(不明)と書いてください。
[メモを貼る]
2. 家族への説明文を、やさしい言葉にする
次の内容を、医療の知識がない家族にも伝わる言葉に直してください。専門用語には短い説明を添え、内容は増やしも減らしもしないでください。
[説明したい内容を貼る]
3. 勤務表の条件を整理する
来月の勤務表を作ります。条件は次のとおりです。[職員数・夜勤の人数・希望休・資格の条件]。条件をすべて満たす案を表で出し、満たせない条件があればどれかを先に示してください。
4. 勉強会の資料の骨組みを作る
新人看護師向けに[テーマ:例 転倒予防]の30分の勉強会をします。目的、話す順番、確認クイズ3問の構成案を出してください。院内の手順に合わせて直すので、一般的な内容でかまいません。
5. 記録の文章を整える
次の観察メモを、看護記録の文体(事実と判断を分ける)に整えてください。書かれていない観察結果や数値は絶対に足さないでください。
[メモを貼る]
6. 介護の記録を家族向けの連絡帳にする
次の介護記録をもとに、家族向けの連絡帳の文を3〜4文で書いてください。様子が伝わるように、できたこと・楽しまれていたことを先に書いてください。
[記録を貼る]
Point
どの指示文にも「書かれていないことは補わない」と入れているのがポイントです。この一文がないと、AIは空欄を埋めようとして事実と違う内容を混ぜることがあります。
患者・利用者の情報をAIに入れる前のチェックリスト
- そのAIは、院内・施設で使ってよいと認められたものか。私物のアカウントや無料版を勝手に使っていないか
- 氏名・生年月日・病室番号・ID など、個人を特定できる情報を消したか
- 入力したデータが学習に使われない設定か、契約で確かめたか
- AIの出力にある数値・薬剤名・時刻を、元の記録と1つずつ照合したか
- AIの出力を、そのまま確定せず人が読んで直したか
- 迷ったときに相談する先(情報システム担当・管理者)を知っているか
注意
医療機関の情報システムについては、厚生労働省が医療情報システムの安全管理に関するガイドラインを公表しています。あわせて、まず院内・施設の規程を確認してください。
AI時代の看護師・介護職に求められる力
| 力 | なぜ必要か | 今日からできること |
|---|---|---|
| 確かめる力 | AIや機器の提案を採るかどうかを決めるのは人 | 通知や下書きを、元の記録・現場の様子と照らして直す習慣をつける |
| アセスメントと個別性 | 一般論はAIが出せる。その人に合わせるのは人 | なぜその計画にしたかを1行で言葉にして残す |
| 多職種をつなぐ力 | 情報が増えるほど、誰に何を伝えるかの判断が要る | 申し送りで「誰が・いつまでに」を必ず言う |
| 道具を使いこなす力 | 使えない人が多いと導入の効果が出ない | 記録の音声入力や要約など、1つの機能から使ってみる |
- 01
記録と事務からAIを使う
記録の音声入力、申し送りの要約、シフト作成など、画面の中の作業を減らし、利用者・患者と向き合う時間に回します。
- 02
機器の検知を「確かめる役」になる
見守り機器の通知を鵜呑みにせず、現場で確かめて判断する役は人にしかできません。
- 03
観察と判断を言葉にして残す
なぜ異変に気づいたか、なぜその対応を選んだかを記録すると、チームの資産になり、後輩の育成にも使えます。
医師の記録業務へのAIの使い方と、頼りすぎたときに起きたことは医師の仕事はAIでなくなる?にまとめています。
出典
本文の「#」付きの番号は、研究が示す100の事実の該当項目へのリンクです。それ以外の数値の出典は下に挙げます。業務の分解は、研究の枠組みを当サイトがこの職業に当てはめたものです。
- 01厚生労働省(2024)。第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について。2022年度 215万人に対し、2026年度 約240万人(約25万人の追加)、2040年度 約272万人(約57万人の追加)が必要。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02977.html
- 02厚生労働省 医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会(2019)。中間とりまとめ(概要)。2025年の看護職員の需要 188万〜202万人、供給 175万〜182万人。 https://www.mhlw.go.jp/content/10805000/000567573.pdf
- 03厚生労働省 老健局(2026)。介護人材確保に向けた処遇改善等(社会保障審議会 介護給付費分科会 資料)。令和7年賃金構造基本統計調査:介護職員の賞与込み給与 月31.4万円、全産業平均(役職者を除く)39.6万円、看護師 42.0万円。介護関係職種の有効求人倍率は全職業より高い水準が続く。 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001743314.pdf
- 04厚生労働省 老健局(2021)。介護ロボットの導入支援及び導入効果実証研究事業 報告書。見守り機器を導入した22施設で、夜勤職員の「直接介護+巡視・移動」時間が平均277分から261分に。前後比較でありRCTではない。 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000788328.pdf
この記事の要点
- 看護師の仕事はAIでなくならない。療養上の世話と診療の補助は法律で看護師の業と定められ、需要も供給を上回る推計。
- AIに任せやすいのは記録・申し送り・勤務表・資料の下書き。見守り機器で夜勤の巡視時間が減った実証もある。
- 身体介助、観察、急変時の判断、家族への説明は人に残る。AIを使うときは個人情報を消し、出力を必ず人が確かめる。
FAQ
よくある質問
なくなる根拠はありません。保健師助産師看護師法で、療養上の世話と診療の補助は看護師の業と定められています。需給でも、2025年の看護職員の需要は188万〜202万人、供給は175万〜182万人と推計され、人が足りない側です。
減ると示す統計はありません。看護も介護も需要が供給を上回る推計です。AIで変わるのは求人の数より、記録や事務にかける時間の配分です。
AIに責任を負わせることはできず、記録を確定するのは人です。AIの下書きは、数値・薬剤名・時刻を元のメモと照らし、書かれていないことが足されていないかを読んでから確定してください。
院内で認められたAIかどうか、個人を特定できる情報を消したかを先に確かめてください。看護師には法律上の守秘義務があり、病歴は個人情報保護法の要配慮個人情報に当たります。迷ったら情報システム担当や管理者に相談します。
患者情報を入れずに済む作業からが安全です。勉強会資料の骨組み、家族向け説明文の言い換え、勤務表の条件整理などで慣れてから、院内で認められた仕組みで記録の下書きに進みます。
置き換わる根拠はありません。2040年度に介護職員は約272万人必要と推計されています。見守り機器で夜勤の巡視時間が減った実証はありますが、身体介助や声かけは人の仕事です。
需要は確実に増えます。課題は賃金で、介護職員の賞与込み給与は月31.4万円と、全産業平均の39.6万円を下回ります。AIやロボットで負担を減らし、処遇を上げることが政策課題になっています。