医師
医師の仕事はAIでなくなるのか
変わる業務・残る業務、診療科別の影響と使い方
結論から言うと、医師の仕事はAIでなくなりません。理由は3つです。医師法で医業は医師にしかできないこと、AIを使った診療でも最終的な判断の責任は医師が負うと厚生労働省が通知していること、そしてマンモグラフィ検診の大規模試験でも、AIは読影の作業量を44.3%減らしましたが、読影そのものは医師が続けていたことです。変わるのは問診の整理、カルテ・書類、画像の一次チェックです。この記事では、業務別・診療科別の影響、研究データ、明日から使える指示文、患者情報を扱う前のチェックリストまでまとめます。
結論
医師という職業がAIでなくなる根拠はありません。医師法 第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定め、厚生労働省は2018年の通知で、AIの診断・治療支援を使う場合も診断・治療の主体は医師で、医師が最終的な判断の責任を負うと示しました。AIは予診の整理、カルテ記載、画像の一次スクリーニングを大きく変えますが、患者を診て、総合的に判断し、責任を持って説明する部分は人に残ります。
結論:なくならない3つの理由
| 理由 | 根拠 | 意味すること |
|---|---|---|
| 医業は医師にしかできない | 医師法 第17条・第20条 | AIは医業を行う主体になれない。診察せずに診断書や処方せんを出すことも禁じられている |
| 責任を負うのは医師 | 厚生労働省 医政局医事課長通知(2018年12月19日) | AIを使った診療でも、診断・治療の主体は医師で、最終的な判断の責任は医師にある |
| AIは分担を変えたが、医師を外していない | Lång ら(2023)のマンモグラフィ検診の試験 | 読影の作業量は44.3%減ったが、AIの振り分けのあとも読影は医師が行った。がんの発見は対照群を下回らなかった |
Point
「医師がいらなくなるか」より「どの業務がAIに移り、医師は何に時間を使うか」を考えるほうが実用的です。書類と記録がAIに移るほど、診察・判断・説明に時間を回せます。
法律と国の通知:AIを使っても責任は医師に
医師法 第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めています。第20条は、医師が自ら診察しないで治療をしたり、診断書や処方せんを交付したりすることを禁じています。AIが症状から診断名や薬の候補を出しても、それを採って処方するのは診察した医師です。
厚生労働省は2018年12月19日の医政局医事課長通知(医政医発1219第1号)で、AIを用いた診断・治療支援プログラムを使う場合も「診断、治療等を行う主体は医師であり、医師はその最終的な判断の責任を負う」と示しました。通知が引く研究報告は、AIを医師が主体となる判断の途中で「効率を上げて情報を提示する支援ツール」と位置づけています。
注意
患者の情報を生成AIに入れるときは守秘義務がかかります。刑法 第134条は、医師が正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らすことを処罰の対象にしています。院内で認められたツールと設定以外に、患者を特定できる情報を入れないでください。
研究データ:AIは医師より正確なのか
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| Goh ら(2024, JAMA Network Open) | 米国の医師50人、症例の診断推論 | GPT-4を使った医師 76%、使わない医師 74%(有意差なし)。GPT-4単独は医師のみの群より16ポイント高い |
| Lång ら(2023, Lancet Oncology) | スウェーデンの女性約8万人のマンモグラフィ検診 | がんの発見 244件(AI群)対 203件(対照群)、読影の作業量 44.3%減 |
| UCLA Health(2025, NEJM AI) | 外来医238人のAIスクライブ | 一方の製品でカルテ記載時間 9.5%減(1件あたり41秒)、燃え尽きスコア約7%改善 |
Goh らの試験は、AI単独の成績が高くても、医師がAIを「横に置くだけ」では成績が上がらないことを示しました。AIの答えをどこで疑い、どこで採るかという組み合わせ方がまだ確立していません。マンモグラフィの試験では、AIが読影の分担を変えることで、がんの発見を落とさずに医師の負担を大きく減らしました。AIスクライブの試験では記載時間が減った一方、臨床的に重要な誤りが時々出ることも報告されています。
AIに頼った医師に起きたこと
ポーランドの4施設で、AI支援の大腸内視鏡を3か月使った熟練医19人は、AIを使わない検査での腺腫の検出率が28.4%から22.4%に下がりました(#091)。臨床現場でAIによる「脱スキル化」を示した最初の実データです。
106の実験のメタ分析でも、人とAIの組み合わせは平均で「どちらか一方の良い方」より悪くなり、とくに判断の課題でその傾向がありました(#092)。
Point
AIを使うほど、AIなしで判断する訓練の機会は減ります。AIが使えない場面、AIが外れた場面で判断できる力を、意識して保つことが必要です。
業務別:AIで変わる仕事・残る仕事
| 業務 | AIの影響 | 理由・注意点 |
|---|---|---|
| 予診・問診票の整理 | 大きく変わる | 回答を主訴・既往歴などの項目に分けて要約する下書きはAI向き。回答にない症状を聞き足すのは医師 |
| カルテ記載・退院サマリ | 大きく変わる | AIスクライブで記載時間が減った試験がある。誤りの確認は必須 |
| 紹介状・診断書・説明書類の下書き | 大きく変わる | 定型の文書は下書きをAIに任せやすい。診断書の交付は診察した医師に限られる |
| 画像の一次スクリーニング | 大きく変わる | 読影の作業量が44.3%減った試験がある |
| 健診データの一次チェック | 変わる | 基準値外の項目の拾い出しと前回との比較はAI向き。結果の説明と精密検査の要否は医師 |
| 緊急度の振り分け(トリアージ)の補助 | 変わる | 目安を示す補助にはなるが、見逃したときの影響が大きい。最終判断は人 |
| 文献・ガイドラインの検索と要約 | 変わる | 要約は速いが、引用元の確認は自分で行う |
| 鑑別診断の候補出し | 変わる(AIが補う) | AI単独の成績は高いが、医師との組み合わせ方は未確立 |
| 稀な症例・複数疾患の重なる症例 | 残る | 似た例が少ない症例ほどAIは外れやすい。根拠の所見まで戻って検証するのは医師 |
| 身体診察・手技・手術 | 残る | 患者に触れ、その場の反応を見ながら手を動かす仕事。AIは記録や画像の確認を補う |
| 治療方針の決定 | 残る | 情報が足りない中で、責任を持って決める仕事 |
| 患者・家族への説明と合意 | 残る | 相手の理解や不安を読み、信頼を作る仕事 |
診療科別:影響の出方の違い
診療科ごとに「画像やデータを読む業務」と「身体で対応する業務」の比率が違うため、AIの影響の出方も違います。以下は、上の業務分解を当サイトが診療科に当てはめた目安です。
| 診療科 | AIが入りやすい業務 | 人に残る中心 |
|---|---|---|
| 放射線科 | 画像の一次スクリーニング、所見の下書き | 最終読影、他科との協議、画像下治療などの手技 |
| 病理 | 標本画像の候補の拾い出し | 最終診断と、臨床医への説明 |
| 内科・総合診療 | 予診の整理、鑑別候補、カルテ・書類 | 病歴の聞き取り、総合的な判断、長期の患者との関係 |
| 外科系 | 術前の書類、記録、画像の確認 | 手術そのもの、術中の判断、急変への対応 |
| 産婦人科 | 記録、健診データの整理 | 分娩、急変への対応、妊婦と家族への説明 |
| 救急科 | 記録、受け入れ時の情報整理 | その場の処置と、短時間での優先順位の判断 |
| 精神科 | 記録、心理検査の集計 | 面接、信頼関係、処遇の判断 |
注意
画像を読む比率が高い科ほど業務は大きく変わりますが、「なくなる」とは別です。マンモグラフィの試験でも、AIは読影の分担を変えたのであって、医師の読影がなくなったわけではありません。
日本の医師の働き方とAI
2024年4月から、勤務医の時間外・休日労働に上限が設けられました。原則は年960時間、地域医療や研修のための特例は年1,860時間です。病院の常勤勤務医のうち年1,920時間換算を超える割合は、9.7%(平成28年調査)、8.5%(令和元年調査)、3.6%(令和4年調査)と下がってきました。カルテ記載や書類作成をAIで減らすことは、働き方改革の手段でもあります。
AI時代の仕事タイプ診断では、診療が中心の医師は見立てる人(VPJI)に入ります。AIを強力なセカンドオピニオンとして使いながら、最後は自分で決める位置です。
そのまま使える指示文(患者を特定できる情報は入れない)
院内で利用が認められたツールで、氏名・ID・生年月日などを除いてから使ってください。出力は必ず原文の記録と照合します。
| 場面 | 指示文の例 |
|---|---|
| 紹介状の下書き | 「以下の経過メモから、紹介先の医師宛ての紹介状を作ってください。構成は紹介目的、現病歴、既往歴、内服薬、検査所見、依頼事項。メモにない情報は書かず、不明な点は【要確認】と記してください。」 |
| 退院サマリ | 「以下の入院経過を、入院時診断、経過、退院時処方、退院後の方針の順に400字程度でまとめてください。日付と薬剤名は原文のまま残してください。」 |
| 患者向けの説明文 | 「以下の説明を、中学生でも分かる言葉に書き換えてください。専門用語には短い言い換えを添え、治療の選択肢ごとに利点と注意点を並べてください。」 |
| 鑑別の見落とし確認 | 「以下の症例要約に対して、私の挙げた鑑別(A、B、C)以外に考えるべき疾患を挙げ、それぞれを支持する所見と否定する所見を表にしてください。」 |
| 文献の要約 | 「以下の論文の抄録を、対象、介入、比較、主要評価項目、結果、限界の順に整理してください。数値は抄録の記載どおりに書いてください。」 |
| 問診票の要約 | 「以下の問診票の回答を、主訴、現病歴、既往歴、アレルギー、内服薬に分けて箇条書きにしてください。回答が空欄の項目は【未記入】としてください。」 |
鑑別の確認では、先に自分の鑑別を書いてからAIに聞く順番にしてください。最初からAIに聞くと、AIなしで考える機会が減ります。
患者情報をAIに入れる前のチェックリスト
- 院内でそのツールの利用が認められているか(入力内容が学習に使われない設定かも確認する)
- 氏名・患者ID・生年月日・住所・電話番号を除いたか
- 稀な疾患名や日付の組み合わせで、本人が特定されないか
- 出力の薬剤名・用量・日付・検査値を、元の記録と1つずつ照合したか
- AIの提案を採るかどうかを、自分で判断したか(最終判断の責任は医師にある)
よくある失敗
| 失敗 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| AIの要約をそのままカルテに貼る | 患者が言っていないことや誤った数値が記録に残る | 要約は下書きと割り切り、原文と照合してから確定する |
| 最初からAIに鑑別を聞く | 自力で考える機会が減り、AIの誤りに気づきにくくなる | 先に自分の鑑別を書き、AIは見落とし確認に使う |
| AIの答えが自分と違うと、すぐ乗り換える | AIが外れたときにそのまま誤る | 違いが出たら根拠の所見を確かめ、差を記録する |
| 個人のアカウントに患者情報を入れる | 守秘義務違反や情報漏えいにつながる | 院内で認められたツールだけを使い、特定情報を除く |
医師が今からできること
- 01
記録と書類からAIを使う
カルテ記載や紹介状の下書きにAIを使い、空いた時間を診察と説明に回します。誤りは必ず確認します。
- 02
AIの答えと自分の判断の差を記録する
AIが外れたケース、自分が外れたケースを残すと、AIとの組み合わせ方の地図になります。
- 03
AIなしで判断する機会を残す
AIに頼った医師の検出率が下がった研究があります。研修や定期的な振り返りで、自力の判断力を保ってください。
- 04
身体を使う技能と説明の力を磨く
診察・手技・患者との対話は、AIが入っても医師に残る中心です。
医学部を目指す人・研修医へ
医師の仕事がなくならないことと、医師の仕事の中身が変わらないことは別です。書類や画像の一次チェックがAIに移るほど、医師に求められるのは、AIの答えを検証できる基礎知識、身体診察と手技、患者と家族に説明して合意を作る力になります。
- AIの答えを、根拠の所見や文献まで戻って確かめる習慣があるか
- AIなしでも鑑別を挙げられるよう、症例を自分の頭で考える時間を取っているか
- 患者の不安や生活の事情を聞き取り、治療の選択肢を分かりやすく説明できるか
- 手技や身体診察など、身体を使う技能を積み上げているか
AIに頼りすぎた学習の影響は教師の仕事はAIでなくなる?、看護・介護の記録業務は看護師・介護職の記事で紹介しています。
出典
本文の「#」付きの番号は、研究が示す100の事実の該当項目へのリンクです。それ以外の数値の出典は下に挙げます。業務の分解は、研究の枠組みを当サイトがこの職業に当てはめたものです。
- 01Goh, E., et al. (2024). Large Language Model Influence on Diagnostic Reasoning: A Randomized Clinical Trial. JAMA Network Open, 7(10), e2440969. 米国の医師50人。GPT-4を使った群 76%、従来の資料のみの群 74%(有意差なし)。LLM単独は医師のみの群より16ポイント高い。 https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2024.40969
- 02Lång, K., et al. (2023). Artificial intelligence-supported screen reading versus standard double reading in the Mammography Screening with Artificial Intelligence trial (MASAI). Lancet Oncology. スウェーデンの女性約8万人。がんの発見 244件(AI群)対 203件(対照群)、読影の作業量 44.3%減。中間の安全性解析。 https://doi.org/10.1016/S1470-2045(23)00298-X
- 03Lukac, P., Mafi, J., et al. (2025). アンビエントAIスクライブのランダム化試験(NEJM AI)。UCLA Health 公式発表。外来医238人。一方の製品の群でカルテ記載時間 9.5%減(1件あたり41秒)、燃え尽きスコアは約7%改善。臨床的に重要な誤りが時々出ると注意。 https://uclahealth.org/news/release/ucla-study-finds-ai-scribes-may-reduce-documentation-time
- 04厚生労働省。医師の働き方改革 解説スライド(基礎編)。2024年4月から勤務医の時間外・休日労働の上限:A水準 年960時間、B・連携B・C水準 年1,860時間。 https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/
- 05厚生労働省(2023)。医師の勤務実態について(第18回 医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料2)。病院の常勤勤務医のうち年1,920時間換算を超える割合:9.7%(平成28年調査)→8.5%(令和元年調査)→3.6%(令和4年調査)。 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001232021.pdf
この記事の要点
- 医師の仕事はAIでなくならない。医業は医師に限られ、AIを使っても最終判断の責任は医師にあると国が示している。
- 変わるのは予診の整理、カルテ・書類、画像の一次チェック。読影の作業量が44.3%減った試験がある。
- 医師がAIを使うだけでは成績は上がらず、頼りすぎると検出率が下がった。自力の判断力を保ちながら使い分ける。
FAQ
よくある質問
なくなりません。医師法 第17条で医業は医師に限られ、厚生労働省はAIを使った診療でも最終的な判断の責任は医師が負うと通知しています。予診の整理やカルテ記載、画像の一次チェックは大きく変わりますが、身体診察、総合的な判断、患者への説明は人に残ります。
症例の診断推論の試験では、GPT-4単独の成績は医師のみの群より16ポイント高くなりました。ただし医師がGPT-4を使っても成績は有意に上がらず(76%対74%)、AIをどう取り入れるかが課題として残っています。
厚生労働省の2018年の通知では、AIの診断・治療支援を使う場合も、診断・治療の主体は医師で、医師が最終的な判断の責任を負うとされています。
画像を読む業務は大きく変わりますが、なくなる証拠はありません。マンモグラフィ検診の試験では、AIが読影の作業量を44.3%減らしながら、がんの発見は対照群を下回りませんでした。最終的な読影と診断、他科との協議は医師に残ります。
当サイトの業務の分解で見ると、患者の身体に直接処置をする時間と、その場で判断を続ける時間が長い科ほど、AIに移る部分は小さくなります。外科系や救急科が当てはまります。こうした科でも、記録や書類はAIで減らせます。
AI支援の内視鏡を3か月使った熟練医は、AIなしでの腺腫の検出率が28.4%から22.4%に下がりました。先に自分で判断してからAIで確認するなど、AIなしで考える機会を残すことが必要です。
院内で利用が認められたツールと設定に限り、氏名・ID・生年月日など本人を特定できる情報を除いて使ってください。医師には刑法 第134条の守秘義務がかかります。
歯科医師についての一次データは、この記事の研究ほど多くありません。考え方は医師と同じで、記録や画像の確認はAIで変わり、診察・処置・患者への説明は人に残ります。
AIスクライブの試験では、一方の製品でカルテ記載時間が9.5%減り、燃え尽きスコアも改善しました。2024年4月からの時間外労働の上限に対応する手段のひとつになります。