エンジニア
エンジニアはAIでいらなくなるのか
研究データで見る、変わる業務と残る業務
AIの影響を最も早く、最も直接に受けているのがソフトウェア開発です。AIの実利用の最大の用途がプログラミングで、生産性の実験も最も多く行われてきました。ところがその結果は、速くなった実験と、遅くなった実験の両方があります。そして雇用で先に動いたのは、若手でした。研究を順に見ていきます。
結論
エンジニアという職業がAIでいらなくなる証拠はありません。米国の予測ではソフトウェア開発者は2025〜35年に10%増える一方、仕様どおりにコードを書く「プログラマー」は7%減ります。AIはコードを書く速さを変えますが、何を作るかを決め、正しさを検証し、人に説明する部分は残ります。注意すべきは、若手の入口が狭くなっていることです。
実験の結果:速くなる場合と、遅くなる場合
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| Peng ら(2023) | Upworkのプログラマー95人 | 課題の完了時間が55.8%短縮(#024) |
| Cui ら(2025) | Microsoft・Accenture等の開発者4,867人 | 完了タスクが26%増。経験の浅い人ほど伸びた(#026) |
| METR(2025) | 大規模OSSの熟練保守者16人 | 実測で19%遅く。本人は20%速くなったと回答(#025) |
3つの違いは、課題の性質と人の熟練度にあります。小さく定義のはっきりした課題や、経験の浅い開発者ではAIが効きます。自分が深く知っている大規模なコードベースでは、AIの提案を確認・修正するコストが上回ることがあります。
Point
体感の「速くなった」は当てになりません。METRの実験では、遅くなった開発者自身が速くなったと信じていました。チームでAIを入れるなら、作業時間やレビューの指摘数を実測してください。
Googleの DORA の調査でも同じ傾向が出ています。2024年版では、AIの採用が25%増えると文書の質やコードの質、レビュー速度は改善する一方、デリバリーのスループットは1.5%、安定性は7.2%下がると推定されました。2025年版では回答者の90%が仕事でAIを使い、30%はAIが生成したコードをほとんど、または全く信頼していません。
雇用の結果:先に動いたのは若手
- 若手の雇用が相対的に減っている。米国の給与データでは、AI曝露の高い職の22〜25歳は、横ばいだった場合より19%少なくなっています(#035)。
- 年上の層は増えている。同じ時期、35〜40歳の雇用は11%増えました(#036)。AIが置き換えているのは「経験の浅い人が担ってきたタスク」だと読めます。
- 職種で予測が分かれる。米国労働統計局は、ソフトウェア開発者・QA・テスターを2025〜35年に10%増、プログラマーを7%減と予測しています。設計と検証を含む仕事は増え、仕様どおりに書く仕事は減ります。
- AIの実利用は、開発に集中している。Claudeの会話の37.2%はコンピュータ・数学系の職業のタスクでした(#082)。デンマークでも、ChatGPTの利用率は開発者が79%と最も高い層です(#066)。
日本では:人材は足りていない
日本では、DX推進人材が「やや不足」「大幅に不足」とする企業が合計85.1%に上ります。米国・ドイツでは充足・過剰とする企業がそれぞれ73.6%、52.5%で、日本の不足は際立っています。経済産業省の2040年の推計でも、AI・ロボットを利活用する人材は339万人不足します(#078)。日本のエンジニアにとっての問題は、仕事がなくなることより、AIを使いこなせる側に回れるかどうかです。
業務ごとに分解する
| 業務 | AIの影響 | 理由 |
|---|---|---|
| 定型的なコーディング・ボイラープレート | 大きく変わる | AIが最も速くなる領域 |
| テストコード・ドキュメントの作成 | 大きく変わる | 型があり、検証しやすい |
| 既存コードの調査・説明 | 変わる | 要約と検索はAIが得意。ただし大規模コードでは誤りも出る |
| 要件の整理・設計 | 残る | 何を作るかを決める判断。関係者との合意が要る |
| コードレビュー・品質の判断 | 残る(重要性が増す) | AIの出力を信頼しない開発者が多い。検証する人が要る |
| 障害対応・原因の特定 | 残る | 情報が足りない中で判断し、責任を持つ仕事 |
| 顧客・チームへの説明と調整 | 残る | 対人の仕事 |
AI時代の仕事タイプ診断では、一人でコードを書くことが中心のエンジニアは孤高の作り手(VDEI)、データと文書から答えを導く仕事が中心なら読み解く人(VDJI)に入ります。どちらも「転換点」で、AIで最も伸びる位置であり、最も競合する位置でもあります。
エンジニアが今からできること
- 01
AIを使う業務と使わない業務を、実測で分ける
テスト、ドキュメント、定型コードから始め、作業時間とレビュー指摘数を記録します。体感ではなく数字で判断します。
- 02
「書く」から「決める・検証する」へ重心を移す
設計、レビュー、障害対応の担当を増やします。AIの出力を信頼しない開発者が多い今、検証できる人の価値は上がります。
- 03
若手は、AIに任せない練習の時間を持つ
AIに頼りすぎると、自力で解く力が育ちにくくなります。理解を深める課題は、あえて自分で解く時間を確保してください。
- 04
対人の軸を足す
要件を引き出す、チームに説明する、顧客と合意する。研究上、技術だけの仕事より、技術と対人の両方を要する仕事のほうが伸びてきました。
出典
本文の「#」付きの番号は、研究が示す100の事実の該当項目へのリンクです。それ以外の数値の出典は下に挙げます。業務の分解は、研究の枠組みを当サイトがこの職業に当てはめたものです。
- 01Stack Overflow (2025). 2025 Developer Survey – AI. 回答者の84%がAIツールを使用中または使用予定。プロの開発者の51%が毎日使う。AIの出力の正確さを信頼する人は3割強にとどまり、不信の人のほうが多い。自己選択の調査。 https://survey.stackoverflow.co/2025/ai
- 02Google Cloud DORA (2024). Accelerate State of DevOps Report 2024. AIの採用が25%増えると、文書の質 7.5%、コードの質 3.4%、レビュー速度 3.1% 改善と推定される一方、デリバリーのスループット 1.5%減、安定性 7.2%減と推定。回答者の75%超が日々の業務の少なくとも1つでAIに頼る。調査にもとづく関連の推定で因果ではない。 https://cloud.google.com/blog/products/devops-sre/announcing-the-2024-dora-report
- 03Google Cloud DORA (2025). State of AI-assisted Software Development Report. 世界の技術者約5,000人。90%が仕事でAIを使い、80%超が生産性向上を実感(自己申告)、30%はAIが生成したコードをほとんど、または全く信頼していない。 https://cloud.google.com/blog/products/ai-machine-learning/announcing-the-2025-dora-report
- 04U.S. Bureau of Labor Statistics. Occupational Outlook Handbook: Software Developers, Quality Assurance Analysts, and Testers. 2025〜35年に10%増と予測(全職業平均よりはるかに速い)。 https://www.bls.gov/ooh/computer-and-information-technology/software-developers.htm
- 05U.S. Bureau of Labor Statistics. Occupational Outlook Handbook: Computer Programmers. 2025〜35年に7%減と予測。反復的なプログラミング作業の自動化を理由に挙げる。 https://www.bls.gov/ooh/computer-and-information-technology/computer-programmers.htm
- 06情報処理推進機構(2025)。DX動向2025。DX推進人材が「やや不足」「大幅に不足」の日本企業は合計85.1%。米国・ドイツでは充足・過剰とする企業がそれぞれ73.6%、52.5%。 https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/tbl5kb0000001mn2-att/dx-trend-2025.pdf
この記事の要点
- AIで速くなる実験(55.8%短縮、26%増)と、熟練者が19%遅くなる実験の両方がある。課題と熟練度で効果は逆転する。
- 米国で先に減ったのは曝露の高い職の若手。年上の層は増えている。
- 設計・レビュー・障害対応・説明は残り、重要性が増す。日本ではAIを使いこなす人材が不足している。
FAQ
よくある質問
要件の整理と設計、コードレビューと品質の判断、障害対応、顧客やチームへの説明です。AIを使う業務と使わない業務は体感ではなく作業時間の実測で分け、若手のうちはAIに任せずに書く練習の時間も残してください。
職業としていらなくなる証拠はありません。米国ではソフトウェア開発者が2025〜35年に10%増えると予測されています。ただし仕様どおりにコードを書く仕事(プログラマー)は7%減の予測で、仕事の中身は「書く」から「決める・検証する」へ移ります。
課題によります。小さく定義のはっきりした課題では完了時間が55.8%短くなった実験がある一方、大規模OSSの熟練保守者では19%遅くなった実験もあります。体感ではなく、作業時間を実測して判断してください。
米国では、AI曝露の高い職の22〜25歳の雇用が相対的に減っています。経験の浅い人が担ってきた定型的なタスクをAIが引き受け始めたためと考えられます。設計・レビュー・対人の経験を早く積むことが重要になります。
日本ではDX推進人材が不足していると答える企業が85.1%に上り、2040年にはAI・ロボットを利活用する人材が339万人不足すると推計されています。AIを使いこなす側のエンジニアの需要は、むしろ高い状態です。